今後3年間の体重推移を健康診断の結果をもとにAIが予測 個別の生活指導で患者の行動変容を促す 新潟大学
現在の食事・運動・飲酒などを続けた場合、3年後に体重がどうなるのかをAIで予測
肥満は2型糖尿病、高血圧などの原因となり、適切な体重管理が重要であることはよく知られているが、医療従事者と患者がその理解を共有するのは困難という現状がある。より分かりやすい予測モデルを開発できれば、患者の体重管理のモチベーションの向上につながると期待される。
一方、医療現場で人工知能(AI)の活用が期待されているものの、AIは判断が正確である一方で、その答えがどのように導き出されたのかが不明瞭であり、「AIのブラックボックス」として懸念されている。
医療現場では判断基準が重要とされており、根拠の不明なAIの使用は難しいとされている。また従来の研究では、AIを用いた将来の体重推移は、予測期間が短いため、生活習慣の変化の影響が十分に考慮されていないという課題が示されている。
そこで研究グループは、約4万5,000人の2年間のデータを使用し、異種混合学習を用いることで、その後3年間の体重推移を予測するモデルを作成した。
体重の予測モデルは、5つの分類ごとの予測式により構成され、「歩く速度が速いですか」「歩⾏と同等の⾝体活動を1⽇1時間以上していますか」「朝⾷を抜くことが週に3回以上ありますか」「⾷べる速度が速いですか」「就寝前の2時間以内に⼣⾷をとることがありますか」「睡眠で休養が⼗分とれていますか」といったチェック項目もある。
5,000人の検証用データを用い、このモデルの正確性を検証した結果、異種混合学習技術を使⽤したモデルにより、2年間の健康診断の結果を利⽤することで、その後3年間の体重の推移を予測するモデルを作成できる可能性を⽰した。
これにより、さらに複雑な予測式を作成し検証するために時間を費やす必要が削減され、生活指導や保健指導の負担を減少できると期待されるとしている。
なお、実際の現場で導⼊される前に、同研究の集団以外で体重の推移を予測できるかを⼗分に検証する必要があるとしている。
研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループが、NECソリューションイノベータと共同で行ったもの。研究成果は、「Frontiers in Public Health」に掲載された。
それぞれの人の特性に応じた生活指導の提供が重要 医療従事者にも分かりやすい
研究グループは今回、新潟県労働衛生医学協会で健康診断を受診した、生活習慣、肥満度、血圧、血液検査などの5年間のデータを有する19歳以上の約5万人を対象に、うち約4万5,000人の2年間のデータを使用した。
その結果、異種混合学習は、集団を自動的に5つのグループに分割し、それぞれのグループごとにその後3年間の体重推移を予測するモデルを構築した。
5,000人の検証用データを用い、このモデルの正確性を検証した結果、構築された5つのモデルは、これまでの回帰分析と同程度の予測精度を示すことが明らかになった。
「近年、生活習慣の多様化により、それぞれの人の特性に応じた指導を目指すことが重要とされている。そのためには、まず現在の生活習慣を正確に把握し、改善のための具体的なアドバイスを提供することが大切となる」と、研究グループでは述べている。
「今回の研究により、現在の食事内容、飲酒習慣、運動習慣を続けた場合、1〜3年後に体重がどうなるのか、また生活習慣を改善した場合は、どの程度改善するのかについて具体的に示すことで、個人に合わせた生活指導を提供できる可能性を示すことができた」としている。
研究で使用された異種混合学習技術は、医療従事者や患者にも理解しやすいものとなっており、データから迅速かつ自動的に予測モデルを構築することができるため、健康診断の現場での活用が期待され、国民の予防医療に広く貢献できる可能性があるとしている。
「今後は、体重の推移に限らず、説明可能なAIを用いて、健康診断や日常診療を支援するAIシステムの構築を目指し、さらなる研究を進める予定」と、研究グループでは述べている。
新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野
Machine learning approach to predict body weight in adults (Frontiers in Public Health 2023年6月15日)