糖尿病網膜症の予防に「ヒシエキス+ルテイン」が有用 早期網膜血流障害と網膜内VEGF発現亢進も抑制
ヒシエキス+ルテインが糖尿病網膜症の発症予防につながる可能性
日本の失明原因の主因である糖尿病網膜症は、糖尿病発症から少なくとも5~10年の経過を経て発症・進展するため、発症予防には内科的な血糖コントロールがもっとも重要と考えられている。
一方、眼科では糖尿病網膜症が進行した病期から、重篤な視覚障害を防ぐために光凝固や手術などで治療を行うが、一度低下した視機能を回復させるのは容易ではない。
そこで研究グループは、糖尿病網膜症を予防して糖尿病患者の視覚を守るため、網膜症発症前からでも摂取可能な食品成分のうち、ヒシエキス+ルテインに着目し、糖尿病モデル動物を用いてその長期投与の網膜症予防作用を検討した。
糖尿病では持続する慢性高血糖により微小血管が早期から障害されることが知られている。研究グループのこれまでの研究では、糖尿病網膜症発症前から網膜血流障害の程度が、糖尿病による網膜機能障害の定量的指標になることを確認しており、今回もこの網膜血流に着目してヒシエキス+ルテインの作用判定を行った。
その結果、ヒシエキス+ルテインの長期投与が2型糖尿病マウスの網膜血流反応障害を抑制し、グリア機能障害とVEGF発現を抑制することを発見した。「糖尿病網膜症早期の低侵襲的な新規予防として、ヒシエキス+ルテインの今後の可能性に期待が高まります」と、研究者は述べている。
研究は、日本大学医学部附属板橋病院眼科(主任研究者:長岡泰司診療教授、横田陽匡准教授、花栗潤哉専修医/大学院生、山上聡主任教授)、明治薬科大学薬学部(櫛山暁史教授)、参天製薬の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontier in Physiology」に掲載された。
ヒシエキス+ルテイン介入群では網膜血流反応障害が抑制
とくにフリッカー刺激(点滅光)に対する網膜血流増加反応には神経細胞やグリアが密接に関与しており、この現象は、神経の興奮にともない血管が拡張し血流が増加する「神経血管連関(neurovascular coupling)」として広く認知されている。糖尿病ではこの現象が糖尿病発症早期から障害されていると考えられている。
研究グループは、フリッカー刺激と高酸素吸入の2つの負荷に対する網膜血流反応を用いて、網膜神経、網膜グリア、網膜血流のなかでも、とくにこれまで評価が困難だった網膜グリア機能を評価することに成功している。
研究グループはその評価法を用いて、2型糖尿病モデルマウスで早期からこれらの負荷に対する網膜血流反応が障害されていることを明らかにしており、これらを背景にヒシエキス+ルテインがこれらの早期障害を抑制させるかを検討した。
研究では、6週齢の2型糖尿病マウスを非介入対照群とヒシエキス+ルテインを摂取した介入群とにわけて、8週齢から14週齢まで隔週で網膜血流測定を行った。
その結果、ヒシエキス+ルテイン介入群では、安静時の網膜血流に影響を与えなかったにもかかわらず、フリッカー刺激および高酸素吸入に対する網膜血流反応障害をいずれも8週齢から抑制し、この反応は14週齢まで持続した。
さらに、同一個体の免疫組織学的検討では、介入群では非介入対照群で活性化されたGFAP(GlialFibrillary acidic protein)の抑制が認められ、さらに糖尿病網膜症・黄斑浮腫の責任因子であるVEGFの発現も減少することがはじめて明らかになった。
これらの結果から、ヒシエキス+ルテインの長期投与が2型糖尿病マウスの網膜血流反応障害を抑制し、グリア機能障害とVEGF発現を抑制することが示された。
「ヒシエキス+ルテインが糖尿病網膜症の発症予防につながる可能性を見出しました。糖尿病網膜症早期の低侵襲的な新規予防として、ヒシエキス+ルテインの今後の可能性に期待が高まります。今後、その作用の詳細なメカニズムの解明に関するさらなる検討を経て、将来的に新規治療薬の開発が期待されます」と、研究グループでは述べている。
日本大学医学部附属板橋病院眼科
Beneficial Effect of Long-Term Administration of Supplement With Trapa Bispinosa Roxb. and Lutein on Retinal Neurovascular Coupling in Type 2 Diabetic Mice (Frontier in Physiology 2022年2月24日)