膵臓がんや予後と関連する口腔内細菌・腸内細菌種を発見 膵がん早期発見のための新たなマーカーになる可能性

2022.05.10
 東京医科大学などは、日本人の膵臓がん(膵がん)患者に特徴的な口腔内・腸内細菌種を同定し、がん予測にも有用であることを明らかにした。

 日本人から同定した膵がん関連腸内細菌種は、ドイツ人やスペイン人の膵がん関連菌種と一致することも確かめた。

 さらに、膵がんのリスク因子である膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や、慢性膵炎に関連する腸内細菌種が、膵がん関連菌種と類似していることを発見した。

 膵がん関連腸内細菌種を用いると、膵がんとその他の病気(糖尿病、炎症性腸疾患、大腸がん)を区別できること、また膵がんで増加する菌種は胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用で増加する菌種と類似していることが判明した。

 「腸内細菌種が、膵がんの予後や抗がん剤の効果の予測に有用であることを見出しました。膵がん関連の腸内細菌種に感染する新規ウイルス(ファージ)を同定しました」と、研究グループでは述べている。

 「今回の研究結果は、膵がん早期発見および抗がん剤治療効果予測のための新しい腫瘍マーカーの確立や、常在菌を介した膵がん発症機構の解明につながるものと期待されます」としている。

膵がんに特徴的な口腔内細菌種と腸内細菌種を発見

出典:東京医科大学、2022年

 研究は、東京医科大学消化器内視鏡学分野の永田尚義准教授と、国立国際医療研究センター消化器内科の小島康志医長、久田裕也医師、忌部航医師(現:小田内科院長)、糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長、感染症制御研究部の秋山徹室長、欧州分子生物学研究所の西嶋傑氏、Peer Bork氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastroenterology」にオンライン掲載された。

 膵臓がん(膵がん)はもっとも致死率の高い悪性腫瘍のひとつであり、その罹患率は世界的に増加している。そのため、膵がんの原因解明や早期発見に有用な非侵襲的腫瘍マーカーの同定は喫緊の課題となっている。

 一方、人体には数百兆個・千種類以上の常在菌が消化管に生息しており、それら常在菌やウイルス(ファージ)の集合は総じて「マイクロバイオーム」と呼称され、ヒトの健康と病気を理解するうえでの重要な要素となっている。

 研究グループは今回、最新の解析技術を用いて口腔内や腸内の微生物遺伝子を網羅的に検出することを試み、マイクロバイオームが膵がんの新たな腫瘍マーカーとして利用できる可能性を検証した。

 また、世界で利用できる腫瘍マーカー同定のために、ドイツ人とスペイン人の口腔・腸内マイクロバイオームも調べ、日本人の結果と比較した。

 近年、動物実験から、特定の腸内細菌種の存在が抗がん剤の効果を決定することが分かっているが、ヒトでは十分な研究が行われていなかった。そこで、膵がん患者で、マイクロバイオームが抗がん剤効果の予測に有用かも検証した。

膵がんに特徴的な口腔内細菌種と腸内細菌種を発見

 研究グループはまず、膵がんに特徴的な口腔内細菌種と腸内細菌種を発見した。日本人の膵がん患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:5でマッチしたコントロール症例について、唾液と糞便をショットガンメタゲノムシークエンスで解析した。

 この手法は、サンプル中の微生物を単離や培養することなく、DNA集合体を網羅した状態でゲノム配列を解読するもの。全ゲノム配列を対象とするため、より精度の高い菌種組成の解明が可能となる。

 その結果、口腔細菌517種と腸内細菌1,151種を同定し、コントロール症例と比較することで膵がん患者に特徴的な口腔細菌18種と腸内細菌30種を発見した。

 日本で同定した膵がん関連腸内細菌は、ドイツ人やスペイン人の膵がん関連細菌と一致した。ヨーロッパ・日本の共通菌5種のうち、膵がんで増加した4種は、通常は腸内ではまれな口腔の常在菌であること、一方、減少した1種は多くの病気でも減少が報告されており、免疫誘導と関わる菌であることが分かっている。さらに、膵がん患者で3ヵ国に共通して増加していた4種を宿主とする新規バクテリオファージ58種を発見した。

特定の細菌の増加・減少が膵がんの発生やがん進行の原因となる可能性

 「今回の結果は、特定の細菌の増加または減少が膵がんの発生やがん進行の原因となる可能性を示唆しており、今後それらの細菌を介した発がん機構の解明が望まれます」と、研究グループでは述べている。

 「また、それら細菌が実際に発がんや進行の原因である場合は、それらをターゲットとするファージセラピーにより膵がんを予防または治療できる可能性があり、本研究はその基盤データを提供したことになります」としている。

 次に、膵がんで認めた特徴的な腸内細菌叢が、膵がんリスク患者群のものと類似しているのかを検証したところ、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や慢性膵炎の腸内細菌叢は膵がん患者のものと類似することを見出した。

 また、慢性膵炎患者(相関係数0.63)の腸内細菌叢の方が、IPMN患者(相関係数0.54)のものよりも、膵がん患者の腸内細菌叢と類似していることも分かった。

 他の病気についても同様の解析を行い、膵がん患者に特徴的な腸内細菌叢は、糖尿病、炎症性腸疾患、大腸がんの腸内細菌叢とは異なっており区別できるものの、胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)使用者の腸内細菌叢とは類似していることを発見した。

 疫学研究で、IPMN、慢性膵炎、PPI使用は膵がんリスクと関連することが報告されており、今回の結果は、腸内細菌叢がこれらの病態と膵がんとを結びつけるひとつの要因であることを示唆している。

膵がん予測に口腔内細菌種と腸内細菌種が有用

 研究グループは次に、膵がんに特徴的な細菌叢が「がんの早期発見」のための腫瘍マーカーとして利用できるかを検証し、膵がん予測に口腔内細菌種と腸内細菌種が有用であることを発見した。

 口腔と腸内細菌叢の膨大な情報から、機械学習法という解析法を用いて膵がんの予測能を調べたところ、特定の口腔や腸内細菌を数菌種用いると高い確率で膵がんを予測できることが分かった。

 さらに、従来の血液マーカー(例:CA19-9)と口腔や腸内細菌種を併用すると、血液マーカー単独よりも膵がんの予測精度が高まることを発見した。

膵がん予測に口腔内細菌種と腸内細菌種が有用

出典:東京医科大学、2022年

膵がん患者の抗がん剤投与後の予後に腸内細菌種が関連

 膵がん患者の抗がん剤投与後の予後に、腸内細菌種が関連することも発見した。研究グループは、腸内細菌叢を「膵がん発見のマーカー」としてだけでなく、「膵がん診断後の治療効果予測」にも利用できるのではないかと考えた。

 そこで、治療前に採取した糞便の腸内細菌と抗がん剤治療後の死亡率との関連を調べた。まず、腸内細菌叢を用いた死亡予測モデルを作成することで、膵がん患者を死亡リスクが低い腸内細菌叢グループAとリスクが高いグループBに分けた。

 死亡リスクが低いグループAに豊富に見られる菌種の多くは、酪酸や酢酸など短鎖脂肪酸を産生する菌と判明した。実際、グループAの菌種を有する患者は、グループBを有する患者と比較し、有意に抗がん剤治療後の生存率が長いことを見出した。

 短鎖脂肪酸には免疫の恒常性を保つ働きがあることが分かっており、グループAの菌種の存在が宿主の免疫応答を調整することで予後良好な結果になっている可能性が示された。

膵がん患者の抗がん剤投与後の予後に腸内細菌種が関連

出典:東京医科大学、2022年

ウイルスを用いたファージセラピーに期待

 「本研究の成果から、マイクロバイオームをマーカーとして膵がんの早期発見や抗がん剤の治療効果予測に利用できる可能性が明らかとなり、膵がんや予後のハイリスク患者の絞り込みから、膵がん診療での個別化医療の実現が期待できます」と、研究グループでは述べている。

 「また、従来の血液腫瘍マーカーと唾液や糞便マーカーとを組み合わせることで、より早期の膵がん発見が可能となり、治療率向上と予後改善が期待されます」としている。

 細菌に感染するウイルス(ファージ)を用いた治療であるファージセラピーが注目されている。抗生物質の使用が薬剤耐性菌の出現と蔓延を引き起こしている今日で、抗生物質を用いずに特定の菌種(薬剤耐性菌や疾患と関連する菌)の消失・抑制が見込める治療とみられている。ファージセラピーは、すでにロシア、ジョージア、ポーランドでは製剤化されており、重大な毒性や副作用なしにヒトでの応用が成功している。

 「膵がんに特異的な腸内細菌に感染するバクテリオファージの同定は、がんの発生や進行を抑制することを目指したファージセラピーの研究開発を促進させます」と、研究グループは述べている。

東京医科大学消化器内視鏡学分野
Metagenomic identification of microbial signatures predicting pancreatic cancer from a multinational study (Gastroenterology 2022年4月7日)

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