糖尿病治療薬メトホルミンの抗がん効果を解明 肝がん治療法の開発につながる成果 群馬大学

2025.03.18

 群馬大学などは、糖尿病治療薬であるメトホルミンは、LPA(リゾホスファチジン酸)受容体を抑制することで、肝がん細胞株の活性化を抑制することを明らかにした。

 日本の糖尿病患者では、がん(悪性腫瘍)は死因の1位になっており、とくに肝細胞がんなどのリスクが高いことが報告されている。「研究は、メトホルミンの新たな可能性を提唱するとともに、肝細胞がんの抗腫瘍治療における標的の開発に今後、役立つことが期待される」と、研究者は述べている。

メトホルミンが肝がん細胞株の活性化を抑制 LPA受容体に対する強い抑制作用を確認

 群馬大学などは、糖尿病治療薬であるメトホルミンは、リゾホスファチジン酸(LPA)受容体を抑制することで、肝がん細胞株の活性化を抑制することを明らかにした。

 Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、がん治療の標的として知られているが、抗腫瘍効果のあることが知られているメトホルミンのGPCRへの影響は不明だった。

 GPCRは、細胞膜に発現する膜タンパク質で、細胞間の情報伝達分子として機能する受容体で、体内で多様な生理作用の調節に重要な役割を担っており、その機能異常は多くの疾患を引き起こす。

 LPAはGPCRグループのひとつで、細胞の増殖や移動などさまざまな応答を引き起こし、がんをはじめとするさまざまな疾患の治療薬ターゲットとして注目されている。

 研究グループは今回、200種類のGPCRに対してパネルアッセイを実施し、メトホルミンがLPA受容体に対し、強い抑制作用を示すことを明らかにした。

 またメトホルミンは、肝がん細胞株でGqタンパク質を介して、LPA受容体による細胞内のカルシウム上昇や細胞の接着、細胞遊走を抑制した。

 日本の糖尿病患者では、がん(悪性腫瘍)は死因の1位になっており、とくに肝細胞がんなどのリスクが高いことが報告されている。

 「本研究によって、糖尿病治療薬の新たな標的を介した抗腫瘍効果の可能性が示され、肝細胞がんの治療法開発に貢献すると考えられる」と、研究者は述べている。

 研究は、群馬大学生体調節研究所の白川純教授、佐藤幸市准教授らの研究グループが、タンソーバイオサイエンスと共同で行ったもの。研究成果は、「Diabetes Research and Clinical Practice」に掲載された。

メトホルミンの新たな抗腫瘍効果を発見
がん治療の標的であるLPA受容体にメトホルミンが強い抑制作用を示すことを確認

出典:群馬大学、2025年

メトホルミンがLPA受容体などのGPCRを介して肝細胞がんの進展を抑制 新たな可能性を提唱

 天然物由来の化合物から合成されたメトホルミンは、1950年代に開発されたビグアナイド薬に分類される糖尿病治療薬で、欧米では2型糖尿病治療の第1選択薬として使用されることが多い。

 これまで、さまざまなヒトの臨床研究や動物を用いた前臨床研究により、メトホルミンが抗腫瘍効果を有することが報告されており、その機序も細胞代謝や腫瘍免疫、腸内細菌叢、がん幹細胞などへの影響と多岐にわたることが示されている。

 Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞表面の細胞膜にあるタンパク質で、神経伝達物質やホルモンなどの受容体に特異的に結合する細胞外物質(リガンド)を認識し、生体内の生理機構や疾患の発症進展に関わる細胞内のシグナル伝達を行う役割を担っている。

 GPCRは、悪性腫瘍の発生や進行にも深くかかわっており、がん治療の標的としても世界中で研究されている。メトホルミンは、抗腫瘍効果をもつことは知られていたが、GPCRを介した細胞応答に対する影響は不明だった。

 研究グループは今回、GPCRを介したすべての細胞内シグナルを検出することが可能な、独自の細胞を用いたスクリーニング法で、リガンドが既知の200種類のGPCRに対してメトホルミンを添加した際のパネルアッセイを実施した。

 その結果、いくつかの受容体シグナルがメトホルミンで抑制されることが分かりました。その中でも、LPA受容体にメトホルミンは強い抑制作用を示すことが分かった。

 LPA受容体であるLPAR1-3を発現させたラット肝がん細胞株では、LPA刺激による細胞内でのカルシウム動員が誘導されるものの、メトホルミンを加えると、LPAによる細胞内カルシウムの上昇が抑制された。

 同じくLPA受容体を発現させた肝がん細胞株で、LPAによる細胞接着と細胞遊走(がんの転移に関わる細胞の移動)も、メトホルミンにより有意に抑制された。

 この作用は、GPCRのαサブユニットのうち、Gqタンパク質を介していることが示唆された。

 「糖尿病がある人で、加齢で併存する肝細胞がんなどのがんが多いことは知られており、その原因として、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD/MASH)と呼ばれる脂肪肝や肝臓の線維化をともなう疾患の関与が報告されている。そのため、肝細胞がんの新たな治療の標的をみつけることは、糖尿病患者の予後を改善させるために重要となる」と、研究者は述べている。

 「本研究では、糖尿病治療薬であるメトホルミンが、LPA受容体などのGPCRを介して肝細胞がんの進展を抑制している可能性が示唆された。研究成果は、糖尿病治療薬の新たな可能性を提唱するとともに、肝細胞がんの抗腫瘍治療における標的の開発に今後、役立つことが期待される」としている。

 研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業、科学研究費助成事業、および民間助成金からの助成に加え、1型糖尿病の患者および家族による認定NPO法人である日本IDDMネットワークの支援を受けて行われた。

群⾺⼤学 生体調節研究所
群⾺⼤学 生体調節研究所 代謝疾患医科学分野
The antitumor effects of metformin are potentially mediated through LPA receptor inhibition (Diabetes Research and Clinical Practice 2025年4月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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