アルドステロン拮抗薬が慢性腎臓病(CKD)患者の腎不全進行を抑制 糖尿病のみならず多様な患者層に適用

2022.03.02
 大阪大学は、慢性腎臓病(CKD)患者で、アルドステロン拮抗薬の投与に、腎臓に保護的な作用があり、透析や腎移植を必要とする末期腎不全への進展の回避に強く関連することを明らかにした。

 この関連は、糖尿病患者のみならず、糖尿病を有しない患者やeGFRが10-30mL/分/1.73m²とすでに腎不全が重度に進行した患者を含め、多様な患者層に当てはまることを示した。

 「歴史の長い利尿薬であるアルドステロン拮抗薬が、末期腎不全を回避するための新たなCKD治療戦略の一手として脚光を浴びることが期待されます」と、研究者は述べている。

アルドステロン拮抗薬の投与が末期腎不全への進展の回避に強く関連

 大阪大学は、慢性腎臓病(CKD)患者で、アルドステロン拮抗薬の投与が、透析や腎移植を必要とする末期腎不全への進展の回避に強く関連することを明らかにした。

 アルドステロン拮抗薬は、血液中のナトリウムとカリウムの濃度を調節するアルドステロンの作用を阻害し、降圧作用をもたらす薬剤。これまで、アルドステロン拮抗薬がCKD患者のアルブミン尿を抑制することなどが報告されている。

 今回の実臨床データの解析により、アルドステロン拮抗薬の投与に腎臓に保護的な作用があり、糖尿病、非糖尿病、高度腎不全など多様なCKD集団で腎不全進行を抑制できる可能性が示唆された。

 最近、海外でのランダム化比較試験(RCT)によって、新世代アルドステロン拮抗薬である「フィネレノン」(国内未承認)が、腎代替療法導入リスクを低下させることが示されている。

 しかし、RCTには試験参加のために厳格な参加基準が患者に設けられており、得られた知見は、その基準にあてはまるごく一部の患者層にしか適用できない、という欠点がある。

 実際、試験でフィネレノンの腎代替療法の回避効果が示されたのは、CKD患者のうち「ACE阻害薬またはARBがもともと投与されており、かつeGFRが25mL/分/1.73m²以上に維持されている糖尿病の患者」に限定されるという。また、国内で処方できるアルドステロン拮抗薬に関するデータではないことにも注意が必要だ。

 今回のCKD患者を対象に実施したRCTでは、国内で使用可能なアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、カンレノ酸カリウム)の投与が、腎代替療法導入の低リスクと関連することが、はじめて明らかになった。

 この関連は、糖尿病患者のみならず、糖尿病を有しない患者やeGFRが10-30mL/分/1.73m²とすでに腎不全が重度に進行した患者を含め、多様な患者層に当てはまるという。

 「歴史の長い利尿薬であるアルドステロン拮抗薬のもつ長期的な腎保護作用がCKDで見直され、多様なCKD患者へより積極的に投与されるようになることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、大阪大学医学部附属病院の岡樹史医員、大学院医学系研究科の猪阪善隆教授(腎臓内科学)、貝森淳哉寄附講座准教授(腎疾患臓器連関制御学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Hypertension」に掲載された。

出典:大阪大学、2022年

末期腎不全を回避するための新たなCKD治療戦略の一手に

 アルドステロン拮抗薬は、長きにわたりCKD患者の浮腫や尿蛋白の軽減目的に頻用されてきた。動物実験では同剤の腎保護作用が示されているが、CKDの重要な転帰である腎不全の進行や腎代替療法導入のリスクとの関連については実臨床でのエビデンスはなかった。

 そのこともあり、進行した腎不全では高カリウム血症などの副作用への懸念から、同薬の投与は早期に中止される傾向にあった。

 そこで研究グループは、大阪大学医学部附属病院腎臓内科に通院した約3,200人のCKD患者を対象にコホート研究を行い、アルドステロン拮抗薬の投与と将来の腎代替療法導入リスクとの関連を検討した。

 研究では、国内で使用可能なスピロノラクトン、エプレレノン、カンレノ酸カリウムを調査対象とした。統計解析として周辺構造モデルを用いることで、時間依存性交絡の問題に対処した。

 その結果、これらのアルドステロン拮抗薬の投与が、腎代替療法導入の低リスクと関連することをはじめて明らかにした(ハザード比:0.72, 95%信頼区間:0.53-0.98)。

 さらにこの関連は、糖尿病患者のみならず、糖尿病を有しない患者やeGFRが10-30mL/分/1.73m²とすでに腎不全が重度に進行した患者を含め、多様な患者層に当てはまることを示した。

 とくに後者の知見は、限定的な症例のみをエントリーさせた従来のRCTには含まれない集団であり、同剤が幅広い背景因子をもつ症例に効果があることを示唆している。

 なお、高カリウム血症の発症リスクについては、アルドステロン拮抗薬投与でやや高かったものの、統計学的に有意な差ではなく(ハザード比:1.14, 95%信頼区間:0.88-1.48)、同薬は安全に投与継続可能であることが示唆された。

 「歴史の長い利尿薬であるアルドステロン拮抗薬が、末期腎不全を回避するための新たなCKD治療戦略の一手として脚光を浴びることが期待されます。今後、糖尿病患者や非糖尿病患者、重度の腎不全患者まで含んだ多様なCKD患者に対してRCTが行われ、アルドステロン拮抗薬の投与による腎代替療法の回避効果について検証されることが望まれます」と、研究グループでは述べている。

大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学
大阪大学大学院医学系研究科腎疾患臓器連関制御学
Mineralocorticoid Receptor Antagonist Use and Hard Renal Outcomes in Real-World Patients With Chronic Kidney Disease (Hypertension 2022年1月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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