インスリンポンプとCGMを組み合せたAHCLが1型糖尿病成人の血糖管理を改善 インスリン投与の自動調整に自動補正を追加 患者の治療満足度も向上

2024.05.08
 インスリンポンプとCGMを組み合せ、インスリン投与の自動調整機能に自動補正機能を追加したAHCL(Advanced Hybrid Closed Loop)を搭載した最新のシステムを使用した1型糖尿病の成人は、血糖管理が大幅に改善し、患者の治療満足度も向上したことが、スウェーデンのヨーテボリ大学の研究で示された。

 AHCLにより、TIR(Time in Range)もより改善した。「TIRが平均して1日に3時間半も延長したことは大きな進歩」と、研究者は述べている。

AHCLは自動インスリン注入の最新型 インスリン投与の自動調整機能に自動補正機能を追加

 「アドバンス ハイブリッド クローズドループ」(AHCL:Advanced Hybrid Closed Loop)は、CGM(持続血糖モニター)に連動しインスリンポンプが自動でインスリン投与を増減する自動インスリン注入(Automated Insulin Delivery)の最新型で、CGMによって測定されたグルコース値に応じて、基礎インスリンを持続して投与するとともに、追加インスリンによる補正も自動で行うアルゴリズムが搭載されている。

 AHCLを搭載した最新のインスリンポンプを使用した1型糖尿病の成人は、血糖管理が大幅に改善し、患者の治療満足度も向上したことが、スウェーデンのヨーテボリ大学の研究で示された。

 AHCLにより、インスリン投与の自動調整機能に自動補正機能を追加することで、CGMにより測定されたグルコース値がどの程度目標範囲内に入っているかを示す指標であるTIR(Time in Range)をより改善できると期待されている。

 今回の研究で使用されたAHCLシステムは、メドトロニックの「MiniMed 780G」と、Tandemの「t:slim X2 with Control IQ」。なお今回の研究は、これらの製品を提供した企業からは独立して実施された。

 研究グループは、スウェーデンの6ヵ所の糖尿病クリニックで、平均年齢42歳の1型糖尿病成人142人(40.8%が女性)を対象に、AHCLシステムを提供。

 その結果、HbA1cの平均は7.3%から6.7%に改善し、TIR(70~180mg/dLに収まった時間)は57.0%から71.5%に増加した。「TIRが平均して1日に3時間半も延長したことは大きな進歩」と、研究者は述べている。

AHCLにより血糖管理が大幅に改善し、患者の治療満足度も向上

 研究は、同大学サールグレンスカ病院糖尿病ユニットのRamanjit Singh氏やMarcus Lind教授らによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Science and Technology」に掲載された。

 1.7年(中央値)の追跡期間で、AHCLシステムの使用により、HbA1cは7.3%から6.7%へと0.6%改善した[95%CI 0.5~0.8%、P<0.001]。TIRは57.0%から71.5%へと14.5%増加した[95%CI 12.2%~16.9%、P<0.001]。70mg/dL未満の低血糖域にある時間(TBR)は3.8%から1.6%に減少した[P<0.001]。

 グルコース値の標準偏差は61mg/dLから51mg/dLに減少し[P<0.001]、変動係数は35%から33%に減少した[P<0.001]。

 さらに、患者の治療満足度も大幅に向上した。糖尿病治療満足度アンケート(DTSQ)のスコアは、マイナス18からプラス18の範囲で判定するものだが、スコアはプラス14.8になり高かった[P<0.001]。重度の低血糖は4件検出されたが、ケトアシドーシスの症例はなかった。なお対象集団の32.4%が皮膚トラブルを報告した。

 「AHCLの使用により、TIRが平均して1日に3時間半も延長したことは大きな進歩だ。診療ガイドラインでは、TIRの1日に約1時間の延長が臓器障害のリスクを軽減するうえで重要な役割を果たすとされている。70mg/dL未満の低血糖域にある時間も、1日に3.8%から1.6%に減少した。AHCLの使用により、1型糖尿病患者の深刻な低血糖は一般的なものではなくなった」と、Singh氏は述べている。

1型糖尿病の治療は進歩 より効果と忍容性の高い治療法を開発

 このように研究では、AHCLによる血糖管理の改善、合理的な安全性プロファイル、高い患者の治療満足度が示され、この治療法は良好に機能することが確認されたが、研究グループはさらなる改良の可能性があることも指摘している。患者の3人に1人は、注入セットやセンサーの装着などによる皮膚トラブルを報告した。

 「より多くの1型糖尿病患者が、この新しい治療を利用できるようになれば、血糖管理をさらに改善できると考えている。これにより臓器障害の合併症は軽減され、予後を改善できる。皮膚トラブルの課題は残っているものの、より患者の忍容性の高いシステムを開発し、治療の進歩をもたらすことは重要だ。AHCLの効果と安全性を評価するためにさらに大規模な研究を行うことには価値がある」と、Lind教授は述べている。

Hybrid pumps work very well in type 1 diabetes (ヨーテボリ大学 2024年4月24日)
Effects, Safety, and Treatment Experience of Advanced Hybrid Closed-Loop Systems in Clinical Practice Among Adults Living With Type 1 Diabetes (Journal of Diabetes Science and Technology 2024年4月17日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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