高齢者が加齢にともない糖尿病を発症する原因を解明 膵β細胞の喪失が老人性糖尿病の主因 東京都立大学
高齢者集団の膵島細胞喪失(ICL)を解明 β細胞の喪失が高齢者の糖尿病発症の原因
東京都立大学は、さまざまな年齢層および性別で起こる膵島細胞喪失(ICL)の傾向を特定し、とくに高齢者集団では主にインスリンを産生するβ細胞の喪失によるものであることを明らかにした。これが加齢にともなう糖尿病発症の原因になっている可能性がある。
研究は、東京都立大学人間健康科学研究科の易勤教授らによるもの。研究成果は、「Digestive and Liver Disease」に掲載された。
膵臓は消化器系で重要な臓器であり、インスリンを分泌して血糖値を調節する役割も担っているが、膵臓のすべての部分が同じ機能をもっているわけではない。ホルモン産生(内分泌)細胞が含まれるランゲルハンス島は膵臓全体の約1%であり、その形態に何らかの変化が起こると、糖尿病などの健康上の問題を引き起こされる。
研究グループは今回、膵島領域に空隙が観察されるICL現象について、膵島が健康な細胞や病変のある細胞に囲まれている可能性に着目し、生前に膵疾患のなかった65歳~104歳の人の死体から採取した膵臓切片を調査した。健康集団での膵島細胞の損失について、これまでほとんど研究されていない。
各サンプルの膵臓の染色切片を、顕微鏡観察と画像解析により分析し、α細胞、β細胞、δ細胞、PP(膵ポリペプチド)細胞など、年齢や性別による細胞損失の程度と膵臓に残存する細胞の傾向を調べた。
その結果、インスリンを生成するβ細胞の割合が、ICLにより大幅に減少することを明らかにした。高齢者のICLは、主に膵島のβ細胞の喪失によるものと考えられるという。他の細胞型ではこうした目立った傾向はみられなかった。
高齢者のICLは、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)とも相関しているが、年齢が高くなるほど重度のICLが発生する可能性は低下することも示唆された。さらに興味深いことに、女性では重度のICLを示す傾向が高いことも判明した。
[左下]膵β細胞細胞の割合とICLとの関連
[右下]さまざまな年齢での軽度および重度のICL症例の数
今回の研究結果は、2021年に国際糖尿病財団(IDF)が示したデータとも一致しており、70歳以上の女性は男性よりも糖尿病の発症率が高い一方、70歳未満ではその傾向が逆転することが示されている。
「今回の発見は、膵島細胞の喪失現象が、老人性糖尿病の主な要因である可能性を示唆している。高齢者のβ細胞数の減少を遅らせる介入は、予防治療に有効な手段となる可能性がある」と、研究者は述べている。
研究は、文部科学省の日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号19K07271)の助成を受けて行われた。
東京都立大学人間健康科学研究科
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