漢方薬を日常診療に使用している医師は8割以上 漢方薬の「有効性に関するエビデンス」「診断の標準化」を望む声が多数
漢方薬を活用している医師は8割以上 漢方診療の実態と将来的課題を調査
研究は、東海大学医学部医学科専門診療学系漢方医学の野上達也准教授を代表とする研究グループによるもの。研究成果は、日本漢方生薬製剤協会の協力のもと、日本東洋医学会の英文学術誌「Traditional & Kampo Medicine」にオンライン掲載された。
東海大学は、国内の医師685人を対象に、そこで本研究では、医師が日常診療で漢方薬をどのように利用し、漢方医学に対しどのような問題意識を抱えているかを明らかにするため、漢方医学に関するオンライン調査を実施した。調査は、医師・医学生専用サイトであるMedPeerを通じてオンラインで実施された。
その結果、回答者から初期臨床研修医を除いた652人のうち86.7%にあたる565人の医師が、日常診療に伝統医薬品の漢方薬を活用している実態が明らかになった。また、9.5%は過去に処方経験があった。漢方薬の処方経験がない回答者は3.8%だった。
さらに、現在、漢方薬を処方している医師を対象に、漢方薬の具体的な使用状況について質問したところ、多くの医師は約8~9種類の漢方薬を使用していることが判明した。漢方薬を処方する理由としては、「西洋薬治療で効果がなかった症例で漢方治療により効果が認められた」「患者の要望があった」が多かった。
漢方薬を活用する疾患や症状としては「筋けいれん」「便秘」「不定愁訴(MUS)」「更年期障害」「食欲不振」「栄養失調」「倦怠感」が多かった。
半数は漢方医学的診断(証)を考慮していない 「エビデンスの集積」と「診断の標準化」を要望
一方で、漢方薬を活用する医師の約半数は、漢方薬の処方根拠として漢方医学的診断(証)を考慮していないことも示された。証は、漢方薬による治療指針であり、西洋医学の病名とは別の概念だが、漢方医学の有効性や安全性を担保するために重要となる。
回答者からは、証を考慮しない漢方診療によって、「十分な治療効果が期待できない」「患者の治療満足度が上がらない」といった懸念も寄せられた。
将来解決すべき漢方医学の課題としては、「漢方薬の有効性に関するエビデンスの集積」「漢方医学的診断の標準化」が多く挙げられた。さらに、漢方診療を実践するための対策としては、「漢方医学の卒後教育の充実」「診断を支援するソフトウェア(AI・アルゴリズムなどが候補となる漢方薬を提示するシステム)の実装」が多く挙げられた。
漢方医学は日本の伝統医学であり、多くの医療現場で利用されており、漢方薬の利用にあたり、漢方医学的診断(証)を根拠とすることが安全性を高めるうえで重要とされている。そのため、2001年からは医学部の学生向けの教育カリキュラム「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に漢方医学の内容が収載されるようになり、現在は「和漢薬、漢方薬の特徴や使用の現状について概説できる」との到達目標が記載されており、全国の大学医学部で漢方医学の卒前教育が実施されるようになった。
「本研究は、国内での漢方薬の高い普及率があらためて示された。一方、漢方医学的診断(証)を根拠とする漢方薬の利用については、向上の必要性が明らかになった。今後は本研究結果をふまえ、漢方医学の卒後教育体制の充実や証の支援ソフトウェアの開発などを加速させ、証を考慮した漢方薬の利用を促進する研究・施策が期待される」と、研究者は述べている。
東海大学医学部専門診療学系 漢方医学
Current situation and future issues with Kampo medicine: A survey of Japanese physicians (Traditional & Kampo Medicine 2024年7月24日)