妊娠糖尿病の多くが妊婦健診で見落とされている危険性を指摘 糖負荷試験(50gGCT)を推奨 神戸大学

2024.09.25
 神戸大学は、妊娠中期(妊娠24~28週)の妊娠糖尿病スクリーニング検査で用いられることが多い随時血糖値測定法を単独で使用すると、多くの妊娠糖尿病が見逃される危険性があることを明らかにした。

 随時血糖測定法のみで妊娠糖尿病をみつけだそうとすると、50gブドウ糖負荷試験(50gGCT、グルコースチャレンジテスト)行っていた場合に診断できていたはずの妊娠糖尿病妊婦の約7割が見逃される危険性があることが分かった。

 今後、随時血糖値測定法だけではなく、より検出率の高い50gGCTを積極的に普及させることで妊娠糖尿病の見落としを減らせることが期待されるとしている。

50gブドウ糖負荷試験の積極的な導入を推奨

 神戸大学は、妊娠中期(妊娠24~28週)の妊娠糖尿病スクリーニング検査で用いられることが多い随時血糖値測定法を単独で使用すると、多くの妊娠糖尿病が見逃される危険性があることを明らかにした。

 71.7%は随時血糖値に異常(血糖値が100mg/dL以上)がなく、随時血糖測定法のみで妊娠糖尿病をみつけだそうとすると、50gブドウ糖負荷試験(50gGCT、グルコースチャレンジテスト)を行っていた場合に診断できていたはずの妊娠糖尿病妊婦の約7割が見逃される危険性があることが分かった。

 今後、随時血糖値測定法だけではなく、より検出率の高い50gGCTを積極的に普及させることで妊娠糖尿病の見落としを減らせることが期待されるとしている。

 研究は、神戸大学大学院医学研究科の冨本雅子氏、谷村憲司特命教授(産科婦人科学分野)らと、廣田勇士准教授(糖尿病・内分泌内科学部門)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

 研究グループは今回、妊娠糖尿病のスクリーニング検査として広く普及している随時血糖値測定法の課題について、妊娠24週~28週に50gGCTを受けた763人の妊婦のカルテ調査を行った。

 同じ患者1人に対して、随時血糖値測定法と50gGCTを行って比較したのは、世界ではじめてとしている。なお、兵庫県内の分娩取り扱い施設では、随時血糖値測定法がもっとも多く使用されていた。

50gブドウ糖負荷試験(50gGCT)で妊娠糖尿病と診断された妊婦の随時血糖値
71.7%は随時血糖値は正常だった

随時血糖値測定法だけではなく、より検出率の高い50gGCTを普及させることで、妊娠糖尿病の見落としを減らせる可能性があると指摘
出典:神戸大学、2024年

妊娠糖尿病のスクリーニングとして50g糖負荷試験を実施

 日本では現在、分娩を取り扱う多くの施設で日本産科婦人科学会が作成したガイドラインにしたがい、妊娠糖尿病のスクリーニング検査が行われており、妊娠7ヵ月頃(妊娠24~28週)に随時血糖値測定法か50gGCTを実施することが推奨されている(妊娠糖尿病の診断では75gOGTTが必要となる)。

 50g糖負荷試験は、50gのブドウ糖が含まれる検査用飲料を飲み、1時間後に血糖値を測定する検査。検査前の絶食は必要としない。1時間後の血糖値が140mg/dL以上で、妊娠糖尿病が疑われる場合は精密検査に進む。

 これまでも50gGCTの利点については報告されているものの、検査が複雑で時間がかかることから、随時血糖値測定法を行っている施設が多い現状がある。

 神戸大学医学部付属病院では、妊娠前からすでに糖尿病が存在しているものの、検査を受けたことがないなどにより診断が付いていない妊婦に対し、負担の大きい糖負荷試験を行うことを避けるため、50gGCTと同時に随時血糖値測定が実施されている。

 そこで研究グループは、50gGCTから妊娠糖尿病と診断された妊婦の随時血糖値を調査し、日本で広く使われている随時血糖値測定法による妊娠糖尿病スクリーニングの課題について検討した。

 2019年2月~2022年1月の3年間に同病院産科婦人科にかかり、妊娠24週から28週に50gGCTを受けた763人の妊婦のカルテ調査を行った。

随時血糖値だけでは妊娠糖尿病妊婦の7割が見逃される危険性が

 その結果、241人(31.6%)に50gGCTで異常(1時間後の血糖値が140mg/dL以上)があり、最終的に99人が妊娠糖尿病と診断された。

 この99人の随時血糖値を確認したところ、71人(71.7%)は随時血糖値に異常(血糖値が100mg/dL以上)がなく、随時血糖測定法のみで妊娠糖尿病をみつけだそうとすると、50gGCTを行っていた場合に診断できていたはずの妊娠糖尿病妊婦の約7割が見逃される危険性があることが分かった。

 さらに、兵庫県内の分娩を取り扱う施設(87施設)で、妊娠糖尿病スクリーニング検査として実際にどのような検査が行われているかについて、2022年6月~2022年7月にアンケート調査を行った。

 回答率は72.4%で、妊娠20週以降に妊娠糖尿病スクリーニング検査を行っている施設が88.9%あり、うち随時血糖値測定法を使用している施設は42.9%ともっとも多く、次いで50gGCTが38.1%という結果になった。

 これまでにも随時血糖値測定法を使用している集団と、50gGCTを使用している別々の集団を比べた研究の報告はあるが、今回の研究は、同じ患者1人に対して随時血糖値測定法と50gGCTを行って比較した世界ではじめての研究としている。

 「兵庫県内の分娩取り扱い施設でも広く行われている随時血糖値測定法について、非常に見逃しが多い検査であることが分かった。実際の現場で広く使われている妊娠糖尿病のスクリーニング方法(随時血糖値測定法)には問題が多い」と、研究者は述べている。

 「この危険性を産婦人科医や妊婦に理解してもらい、見落としの少ない50g糖負荷試験によるスクリーニング法を普及させる必要がある」としている。

 なお、今回の研究では、50gGCTで異常があった患者すべてに精密検査を行ったが、随時血糖値測定法で異常があった患者については、その他の条件も考慮して精密検査に進むかを決めていた。現在は、随時血糖値測定法で異常があった患者に対しても、全員に精密検査を行うことで50gGCTだけでなく随時血糖値測定を組み合わせることよって見落としをさらに減らせるかどうかを調査しているという。

 「研究が進むことにより、妊娠糖尿病の検出率を高め、多くのお母や赤ちゃんを妊娠糖尿病による妊娠・出産時の病気から守ることができるようになり、さらには将来の糖尿病発症のリスクも減らせることができると考えられます」としている。

神戸大学大学院医学研究科
Widely used test for gestational diabetes misses 70% of cases (神戸大学 2024年9月18日)
Problems in screening for gestational diabetes mellitus by measurement of casual blood glucose levels at 24–28 gestational weeks (Journal of Diabetes Investigation 2024年9月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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