長期にわたりインスリン療法が不要な緩徐進行1型糖尿病の特徴は BMI高値・HbA1c低値・抗GAD抗体価低値が指標に

2021.07.28
 名古屋大学の研究グループは、抗GAD抗体が陽性の緩徐進行1型糖尿病患者(SPIDDM)を対象としたコホート研究を実施し、▼体格指数(BMI)が22以上と高値であること、▼HbA1cが低値(9.0%未満)であること、▼抗GAD抗体価が低値(10.0U/mL未満)であることが、診断後長期にわたるインスリン非依存状態の予測に有用であることを明らかにした。
 東海地方の8病院の抗GAD抗体陽性者全員の電子カルテデータを調査し、診断時から治療経過を追えるSPIDDM患者345人を分析した。

長期にわたりインスリン療法が不要な緩徐進行1型糖尿病患者を予測

 抗GAD抗体陽性で発症時にインスリンを必要としない糖尿病は、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)、または成人の潜在性自己免疫性糖尿病(LADA)と定義される。

 SPIDDMは、自己免疫が原因で発症する1型糖尿病のひとつで、発症時はインスリン治療を必要としないが、長期的にはインスリン治療が必要となることが多い。LADAは、SPIDDMに対応する欧米での疾患概念だ。

 SPIDDMやLADAの患者では、インスリン分泌をつかさどる膵β細胞の機能低下を予防するために、インスリン療法が推奨されている。しかし、これらの患者の一部は、長期にわたりインスリン依存状態に進行しないことが知られている。

 さらに、インスリン療法には低血糖の増加、体重の増加、インスリン抗体の誘導などの副作用がある。したがって、SPIDDMと診断された患者のなかでインスリン非依存性糖尿病の患者を特定し、これらの患者に対しインスリン療法以外の治療を検討することは臨床的に重要となる。

 そこで名古屋大学の研究グループは、日常の臨床診療で測定可能な指標を使用して、SPIDDMのなかからインスリン非依存性糖尿病患者を特定するための後ろ向きコホート研究を実施した。

 研究では、東海地方8病院の抗GAD抗体陽性者全員の電子カルテデータを調査し、診断時から治療経過を追えるSPIDDM患者345人を分析した。平均3.0年間の追跡期間中に、うち162人がインスリン療法を開始し(インスリン療法群)、183人がインスリン療法を必要としなかった(非インスリン療法群)。

 インスリン開始などのイベント発生までの時間を観察して、それらのデータ解析をするカプランマイヤー解析で、BMI、HbA1c値、および抗GAD抗体価がインスリン療法への独立した要因であることを突き止めた。

 3つの要因[BMI≥22kg/m²、HbA1c<9.0%、GADAb<10.0U/mL]をすべて有するSPIDDM患者の86.0%が、SPIDDM診断から4年後もインスリンを使用していなかった。

 非インスリン療法群の患者は、インスリン療法群と比較し男性比率が多く、糖尿病の発症年齢が高齢で、糖尿病罹病期間が短く、BMIが高く、血圧が高く、HbA1cが低く、抗GAD抗体価が低く、抗GAD抗体陽性時の糖尿病薬の使用率が低い傾向がみられた。

 研究結果から、SPIDDM患者で長期にわたりインスリン依存にいたらない患者を予測できることが期待できるとしている。そうした患者では、従来行われていた予防的インスリン投与が回避できる可能性がある。

3つの要因[BMI≥22kg/m²、HbA1c<9.0%、GADAb<10.0U/mL]をすべて有するSPIDDM患者の86.0%が、SPIDDM診断から4年後もインスリンを使用していなかった。

出典:名古屋大学、2021年

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の和田絵梨氏、同大学医学部附属病院の尾上剛史病院助教、同大学医学系研究科の有馬寛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が発行する医学誌「Diabetologia」に掲載された。

名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学
Adult-onset autoimmune diabetes identified by glutamic acid decarboxylase autoantibodies: a retrospective cohort study(Diabetologia 2021年7月15日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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