糖尿病性腎症による透析導入が減少に転じる 透析導入率は低下・平坦化 男性85歳以上のみ増加 新潟大学

2022.12.22
 糖尿病性腎症による透析導入率は減少に転じたことが、新潟大学の調査で明らかになった。

 糖尿病性腎症による透析導入患者数は2006年~2020年に、男性で15%増加、女性で16%減少し、透析導入率の変化率は、男性でマイナス0.6%、女性でマイナス2.8%となった。

 「日本での糖尿病性腎症に対するさまざまな施策の効果があらわれてきた可能性が考えられます」と、研究グループでは述べている。

 一方、腎硬化症による透析導入率は、男性では若い世代も含めて全年齢階級で増加しており、高齢化の影響だけではないことも示された。

 慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を徹底し、新規透析導入患者数の減少を達成するために、増え続ける腎硬化症への対策が急務としている。

糖尿病性腎症による透析導入率が男女とも減少に転じた

 糖尿病性腎症は透析導入の原疾患の第1位(約4割)で、腎硬化症が第2位となっている。日本では、1年間で4万人を超える慢性腎不全患者で新たに透析が導入されているが、糖尿病性腎症の割合は減少傾向にあり、腎硬化症が増加傾向にあることが、日本透析医学会調査で示されている。

 しかし、従来の調査は、年齢で調整されておらず、実際に腎硬化症が増えているのか、高齢化の影響なのかは不明だった。そこで新潟大学の研究グループは、2006年~2020年の透析導入率を原疾患別に年齢調整をして、経年変化を評価した。

 その結果、透析導入患者は、糖尿病性腎症と、慢性糸球体腎炎では減少していたのに対し、腎硬化症は増加していることが明らかになった。

 糖尿病性腎症による透析導入患者数は2006年~2020年に、男性で15%増加、女性で16%減少した。

 慢性糸球体腎炎による透析導入患者数も、男性で32%減少、女性で40%減少し、男女とも減少した。一方、腎硬化症による透析導入患者数は、男性で132%増加し、女性で62%増加し、男女とも増加した。

 また、年齢調整した透析導入率の平均年変化率も、糖尿病性腎症では、男性でマイナス0.6%、女性でマイナス2.8%となり、男女ともに減少した。

 慢性糸球体腎炎による透析導入率も、男性でマイナス4.4%、女性でマイナス5.1%となり、男女とも減少した。一方、腎硬化症による透析導入率は、男性でプラス3.3%、女性でプラス1.4%となり、男女とも増加した。

 腎硬化症による透析導入率は、男性では20~39歳といった若い世代も含めて全年齢階級で増加しており、高齢化の影響だけではないことが示された。

原疾患別の透析導入率の経年変化 (2006年~2020年 年齢調整済)

出典:新潟大学、2022年

 研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らによるもの。研究成果は、アジア太平洋腎臓学会の公式誌「Nephrology(Carlton)」に掲載された。

 「人口高齢化の影響を受けて、透析導入患者数は増加が続いています。CKD重症化予防を徹底し、新規透析導入患者数の減少を達成するために、原疾患別に、その透析導入率を詳細に検討することで、より効果的な対策につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

糖尿病性腎症による透析導入率は男性85歳以上でのみ増加

 調査は、2006~2020年の日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」と国勢調査を用いて、日本の一般住民(20歳以上)に占める原疾患別の透析導入率を男女別に評価したもの。

 研究グループは、世界人口を標準人口とした直接法で年齢調整し、joinpoint分析で経年変化を評価した。各年齢階級別の経年変化も評価した。

 男女別・年齢階級別の透析導入率をみると、糖尿病性腎症については、男性85歳以上でのみ増加しており、それ以外は低下ないし平坦化している。

 慢性糸球体腎炎は、男女とも全年齢階級で低下し、腎硬化症は、男性は全年齢階級(20~39歳、40~59歳、60~74歳、75~84歳、85歳以上)で増加し、女性は40~59歳、60~74歳で増加している。男性では、もっとも若い年齢階級(20~39歳)でも、平均年変化率は4.6%(95%信頼区間 2.4~7.0)と増加している。

原疾患別の透析導入率の経年変化 (2006年~2020年 男女別・年齢階級別)

出典:新潟大学、2022年

増え続ける腎硬化症に対する対策が急務に

 「本研究では、以前は急速に上昇と報告されていた糖尿病性腎症による透析導入率が、減少に転じていることを明らかにしました。年齢階級別の検討でも、男性85歳以上を除いて低下ないし平坦化しており、日本での糖尿病性腎症に対するさまざまな施策の効果があらわれてきているのかもしれません」と、研究グループでは述べている。

 一方、腎硬化症による透析導入率は、以前の報告と同様、年齢調整をしても上昇しており、その増加は高齢化の影響だけではないことも明らかになった。

 「男女とも、腎硬化症による透析導入率の有意な増加を認め、男性では全年齢階級で、とくに若い年齢階級でも有意な増加を認めたことは注目すべき所見です。CKD重症化予防を徹底し、新規透析導入患者数の減少を達成するためには、この増え続ける腎硬化症に対する対策が急務と考えられます」としている。

 なお研究は、JSPS科研費および厚生労働行政推進調査事業費補助金(腎疾患政策研究事業)「腎疾患対策検討会報告書に基づく慢性腎臓病(CKD)対策の推進に資する研究」の支援を受けて行われた。

新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座
Trends in the incidence of renal replacement therapy by type of primary kidney disease in Japan, 2006–2020 (Nephrology 2022年12月3日)

「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~」について (厚生労働省 2018年7月12日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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