日本人の脳卒中・脳梗塞・脳内出血の危険因子を調査 糖尿病の全脳卒中でのハザード比は1.83 もっとも重要な介入目標は高血圧 JPHC研究
日本人の脳卒中の危険因子を病型ごとに調査
日本の脳卒中による死亡率は1980年までは第1位、1984年までは第2位となり、その後も死亡率の低下は続いているものの、要介護の原因としては第2位、さらに重度の要介護の原因としては第1位を占める。
効果的で効率的な脳卒中の発症予防対策を開発するため、その病型ごとに危険因子との関連を詳しく調べ、人口寄与危険割合(PAF:ある要因を取り除くことができた場合、対象となる疾患の発症を何%防げたかを表す数値)を明らかにする必要がある。
そこで多目的コホート研究「JPHC研究」の研究グループは、1993年~2012年に、茨城・新潟・高知・長崎・沖縄の5保健所管内に在住していた40~69歳の男女1万4,658人(男性4,930人、女性9,728人)を対象に、脳卒中の代表的な危険因子と、脳卒中の病型(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)および脳梗塞の病型(ラクナ梗塞、脳塞栓、アテローム血栓性脳梗塞)との関連性、それぞれの危険因子の寄与割合について調査した。
対象者は、解析に利用する質問紙調査項目の回答と健診成績データに欠損がなく、脳卒中・心筋梗塞・がんの既往がなかった。
その結果、全脳卒中におけるハザード比は、糖尿病が1.83、高血圧が1.69、肥満が1.16となった。人口寄与危険割合は、糖尿病が4.5%、高血圧が25.8%、肥満が4.9%となった。高血圧の人口寄与危険割合は約26%と、糖尿病以外の危険因子と比べてもっとも高くなった。
脳梗塞におけるハザード比は、糖尿病が2.25、高血圧が1.63、肥満が1.22となった。人口寄与危険割合は、糖尿病が6.7%、高血圧が24.5%、肥満が6.8%となった。また、喫煙の人口寄与危険割合は8.8%、ハザード比は1.56になった。
脳梗塞では、全脳卒中と比べて、糖尿病、喫煙のハザード比がやや高くなったが、全脳卒中と同様、人口寄与危険割合は高血圧が約25%で、もっとも高くなった。
脳内出血におけるハザード比は、糖尿病が1.03、高血圧が1.84、尿タンパクが1.47となった。人口寄与危険割合は、糖尿病が0.2%、高血圧が27.9%、尿タンパクが4.0%となった。脳内出血では、全脳卒中と比べて尿タンパクのハザード比がやや高くなったが、やはり人口寄与危険割合は高血圧が約28%ともっとも高くなった。
皮質枝系脳梗塞では、全脳卒中と比べて、喫煙、高Non-HDLC血症、糖尿病のハザード比が高く、人口寄与危険割合は高Non-HDLC血症が約21%、喫煙が約19%、肥満が約17%、高血圧が約17%と続き、糖尿病は5.4%だった。
ラクナ梗塞では、全脳卒中と比べて、糖尿病、高血圧のハザード比がやや高くなったが、人口寄与危険割合は高血圧が約28%と、糖尿病が約9%となり、高血圧がもっとも高くなった。
脳塞栓では、全脳卒中と比べて、不整脈の既往歴(心房細動の代理変数)、糖尿病のハザード比が高く、高血圧のハザード比はほぼ同じだったが、人口寄与危険度割合は、高血圧が約28%、不整脈の既往歴が約13%、糖尿病が約6%となり、人口寄与危険割合は高血圧がもっとも高くなった。
高血圧は脳卒中予防のためにもっとも重要な介入目標
「脳卒中の主要な危険因子と、全脳卒中や脳卒中の各病型、さらに脳梗塞の各病型との関連を日本人一般集団の大規模コホートで検証したところ、高血圧による脳卒中のハザード比は1.63~1.84と高く、危険因子の関連性の強さは病型によりばらつきはあるものの、人口寄与危険割合はいずれの病型でも、高血圧の寄与する割合が高い」と、研究グループは結論している。
「全脳卒中発症数の25%以上は高血圧によって説明された。ただし、皮質枝系脳梗塞の人口寄与危険割合は高Non-HDLC血症が約21%ともっとも高く、高血圧は約17%だった。これらのことから、高血圧は日本における脳卒中予防のためにもっとも重要な介入目標とみなしえる」としている。
研究グループは今回、不整脈の既往歴を脳梗塞の危険因子のひとつである心房細動の代理変数として使用したため、その内容について研究開始時に質問紙で調査したコホートIIのみを解析対象と、研究開始時の危険因子の保有状況と、追跡調査で把握した2012年末までの脳卒中の発症との関連性について統計学的に検討した。
喫煙習慣 | 現在(研究開始時)喫煙している、現在(研究開始時)喫煙していない(基準グループ) |
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「次のような自覚症状が最近1年間にありましたか。脈が乱れたり、不整脈があると言われたことがありましたか?」の質問に「あった」と回答した場合を「不整脈あり」、それ以外を「不整脈なし」(基準グループ) | |
肥満度 | 身長(m)と体重(kg)の測定値からBMIを算出し、18.5未満、18.5以上25未満(基準グループ)、25以上 |
高血圧 | 収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上または「現在、お医者さんから薬を処方されて定期的に飲んでいますか?」という問いで「高血圧の薬」を回答した場合を「高血圧あり」、それ以外を「高血圧なし」(基準グループ) |
善玉コレステロール | 高比重リポタンパクコレステロール(HDLC)が40mg/dL未満を「低HDLC血症あり」、40mg/dL以上を「低HDLC血症なし」(基準グループ) |
悪玉コレステロール | 総コレステロールからHDLCを除いて算出したNon-HDLCで評価し、「130mg/dL未満」、「130~149mg/dL」(基準グループ)、「150~169mg/dL」、「170mg/dL以上」 ※170mg/dL以上のグループには、「現在、お医者さんから薬を処方されて定期的に飲んでいますか。」の質問に「血液の脂肪を下げる薬」と回答した場合を含む。 |
糖尿病 | 空腹時血糖(グルコース)値が126mg/dL以上または随時血糖値が200mg/dL以上または「糖尿病の薬」を内服している場合に「糖尿病あり」、それ以外を「糖尿病なし」(基準グループ) ※対象者の39%が空腹時採血、61%が非空腹時採血 |
尿タンパク | ±以上を陽性、-を陰性(基準グループ) |
研究の限界としては、研究グループは次の3点を挙げている。
(1) 約20年前に実施されたベースライン調査で得られた情報を用いており、各危険因子の保有割合等が今の状況とは大きく異なる可能性がある。論文では、2019年の国民健康・栄養結果から求めた危険因子の保有割合に基づく人口寄与危険割合も計算し示している。
(2) 解析は、JPHC研究対象者全体の一部、すなわち健診成績があり、不整脈の既往歴を含むアンケート調査の回答がある対象者に限られていること。解析対象となった集団は、除外された集団に比較し、年齢が高く、喫煙者割合が男女とも低い傾向があった。人口寄与危険割合の計算には危険因子の保有割合を用いているが、研究対象となった集団の特徴が反映された可能性がある。
(3) 心房細動の代理変数として不整脈の既往歴を用いている。心房細動以外の他の不整脈を含んでいる可能性がある一方、本当に心房細動がある方が申告していない可能性もある。したがって、結果の解釈には注意が必要だが、それでも不整脈の既往歴と脳塞栓や脳梗塞が強い関連性を示したことは、心房細動の危険因子としての重要性を示唆しているものと考えられる。
多目的コホート研究「JPHC Study」 (国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Risk and population attributable fraction of stroke subtypes in Japan (Journal of Epidemiology 2023年7月15日)