糖尿病患者の厳格な血糖・血圧管理の効果は居住形態によって異なる 1人暮らしの高齢患者では効果なし 京都大学

他者と暮らす患者では厳格な血糖・血圧管理によりCVD発症リスクが減少 独居患者では変化なし
研究は、京都大学医学部の清原貫太氏、大学院医学研究科の井上浩輔准教授(白眉センター)、近藤尚己教授、石見拓教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of American Heart Association」に掲載された。
これまでCVDの発症には、居住形態をはじめとした社会的要因が関与していることが指摘されている。井上らが2022年に発表した研究で、非糖尿病患者での厳格な血圧管理の治療効果が、居住形態(独居か否か)によって異なることが示されている。
一方、糖尿病患者に対するエビデンスは皆無であり、とりわけ厳格な血糖管理・血圧管理の両方が行われたときに、居住形態がどの程度影響するかについては明らかになっていない。
そこで研究グループは、心血管疾患(CVD)リスクの高い2型糖尿病患者の血圧管理を強化したときの減少効果を検討したACCORD-BP試験の参加者4,731人を対象に、糖尿病患者での厳格な血糖・血圧管理の治療効果が居住形態によって異なるかを検討した。
対象者の平均±SD年齢は62.7歳(6.7歳)で、3,691人が他者と暮らしており、1,040人が独居だった(同居状況が不明な2人は除外)。
その結果、平均4.7年間の追跡期間で、他者と暮らす患者では、厳格な血糖・血圧管理を行った場合は、標準治療を行った場合と比較して、CVD発症リスクのハザード比が0.65と低いことが示された。一方、独居患者ではハザード比は0.96になり、厳格な治療と標準治療のあいだでCVD発症リスクに違いが認められなかった。

家族や社会の支えなしでは治療は十分に成立しない可能性
研究グループは、この結果が得られた背景として、薬物療法・食事療法・運動療法への取り組み方や周囲からのサポートが影響していると推測している。
なお研究は、筆頭著者である清原氏が医学生として病院実習を行うなかで、家族や社会の支えなしでは、治療やケアが十分に成立しないと感じ、居住形態が治療効果に与える影響に興味をもったことからはじまったという。
「研究結果は、糖尿病患者の治療で、臨床的な情報のみならず居住形態など社会的要因にも着目する必要性を示唆している」と、研究者は述べている。
「独居か否かという居住形態は、日本および世界が抱える社会問題であり、過去の研究ではCVD発症のリスク因子であることも示されている。ただし、居住環境は国や地域の文化と強く結びついているため、米国のデータで得られた本知見が日本にどの程度一般化できるかについては、さらなる研究による検討が求められる。本研究の結果を通じて、居住形態などの社会的背景を考慮した治療が広まることを願っている」としている。
京都大学医学部・医学研究科
Heterogeneous Effects of Intensive Glycemic and Blood Pressure on Cardiovascular Events Among Diabetes by Living Arrangements (Journal of American Heart Association 2024年6月27日)