特定健診の実施率の高い都道府県は透析導入率が低い 慢性腎臓病(CKD)が減少 腎臓内科医の割合も⾼い

2023.10.24
 新潟⼤学は、特定健診の実施率が⾼い都道府県は、透析透析導⼊率が低く、40〜74歳の慢性腎臓病(CKD)の有病率も低いという調査結果を発表した。

 透析導⼊率(⼈⼝あたりの透析導⼊患者数)に、都道府県によって差があり、特定健診の実施率にも都道府県で差があることが判明。

 腎臓内科医の割合についても、全国で1.7%だったが、都道府県により0.2%から2.3%と約10倍の差があり、健診の実施率を通じた間接効果があることが示された。

 「特定健診の実施率を⾼めることで、透析導⼊率の都道府県の差を⼩さくできる可能性があります」としている。

特定健診の実施率を⾼めると透析導⼊率の差を⼩さくできる

 新潟⼤学は、特定健診の実施率が⾼い都道府県は、透析透析導⼊率が低く、40〜74歳の慢性腎臓病(CKD)の有病率も低いという調査結果を発表した。

 研究グループは、透析導⼊率(⼈⼝あたりの透析導⼊患者数)に、都道府県によって差があり、特定健診の実施率にも都道府県で差があることに着⽬。

 「特定健診の実施率を⾼めることで、透析導⼊率の都道府県の差を⼩さくできる可能性があります」と、研究グループでは述べている。

 研究は、新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈⼦特任准教授、同研究科腎・膠原病内科学分野の成⽥⼀衛教授の研究グループによるもの。

特定健診実施率と標準化透析導⼊⽐(SIR)[都道府県別]
特定健診の実施率(オレンジ⾊のドット)が高い都道府県ほど、透析導⼊率は低下する傾向がみられる

SIR(⿊い棒グラフ) = 性年齢を調整した透析導⼊率 (標準化透析導⼊⽐)

出典:新潟⼤学、2023年

特定健診の実施率と透析の導⼊率は都道府県によって差が

 ⽇本の透析患者数は⼈⼝100万⼈あたり2,749⼈で、台湾(3,772⼈)、韓国(2,789⼈)に次いで世界で3番⽬に多い(2020年時点)。

 ⽇本の透析導⼊率は、低下傾向にはあるものの、まだ世界で6番⽬に⾼く、⼈⼝⾼齢化の影響によりさらなる透析導⼊患者数の増加が危惧されている。

 一方、透析導⼊率は都道府県によって差があり、全国平均よりも⾼い所もあれば、低い所もある。特定健診の実施率にも都道府県で差がある。

 2019年の特定健診の実施率は全国で55.3%だったが、低い都道府県では44.2%、⾼い所では65.9%と差がある。

 透析導⼊率も都道府県により異なる。性年齢を調整した透析導⼊率(標準化透析導⼊⽐、SIR)は、0.73(全国平均よりも透析導⼊率が27%低い)から1.34(全国平均よりも透析導⼊率が34%⾼い)まで差がある。

 また、40〜74歳でのCKDの有病率は全国で16%(約6⼈に1⼈がCKDに相当)だが、都道府県によって11%から20%と、もっとも低い所と⾼い所で2倍の差がある。

 研究グループは今回、特定健診受診率の⾼い都道府県は透析導⼊率が低いという仮説をたて、構造⽅程式モデリングという⼿法で検証した。

特定健診の実施率を⾼めると透析導⼊率を低下できる

 その結果、特定健診実施率が⾼い都道府県は、透析導⼊率(SIR)が低く、両者には有意な負の相関が認められた。

 また、特定健診の実施率が⾼い都道府県では、40〜74歳のCKDの有病率が有意に低く、さらに腎臓内科医の割合が有意に⾼いという結果になった。

 健診の未受診は、透析治療を必要とする末期腎不全にいたるリスクを高めることは、⼤阪府寝屋川市のコホート研究でも⽰されており、今回の研究で、この関連が都道府県レベルでも認められることが示された。

 「本研究から、特定健診実施率を⾼めることで、透析導⼊率の低下が期待できる可能性が⽰されました。透析治療を必要とする末期腎不全を予防するために、腎臓病の早期発⾒は重要です」と、研究グループでは述べている。

 「特定健診は、腎臓病の早期発⾒を⽬的としたものではありませんが、⽣活習慣や肥満、⾼⾎圧症、糖尿病など、CKDの危険因⼦を早期に発⾒することで、CKDを含めた⽣活習慣病の予防・改善につながることが期待されます」としている。

腎臓内科医の割合にも健診実施率を通じた間接効果が

 研究グループは今回、分⼦となる性年齢階級別透析導⼊患者数は⽇本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」から、分⺟となる⼀般住⺠の男⼥別・年齢階級別⼈数はe-Stat(政府統計の総合窓⼝)から、それぞれ公表されている数字を⽤いた。

 都道府県別により性年齢の分布が異なるため、間接法を⽤いて性年齢を調整し、全国の透析導⼊率を1としたSIRを求めました。都道府県別特定健診実施率は、厚⽣労働省が公表している2019年データを⽤いた。

 関連する要因として、40〜74歳におけるCKD有病率と腎臓内科医の割合も都道府県別に計算した。CKD有病率は2019年のNDB Openデータを⽤いて計算した。

 腎臓内科医割合は、2020年の医師・⻭科医師・薬剤師統計を⽤いて、分⼦を主たる診療科が腎臓内科の医師数、分⺟を医療施設従事医師数として都道府県別に割合を計算した。

 腎臓内科医割合は全国で1.7%だったが、都道府県により0.2%から2.3%と約10倍の差があった。

 なお、「本モデルでは都道府県における透析導⼊率差の14%しか説明できず、他にも理由があると考えます。今後さらに研究を進め、なぜ都道 府県により透析導⼊率に差があるのかの理由を明らかにしていき、都道府県差を⼩さくし、ひいては⽇本全体の透析導⼊率低下に効果的な対策へなつげていきたいと考えています」と、研究グループでは付け加えている。

構造⽅程式モデリングによる仮説の検証

特定健診実施率とCKD有病率に有意な負の関連があることが示された。腎臓内科医の割合については、SIRへの有意な直接効果は認められなかったものの、健診実施率を通じた有意な負の間接効果が認められた。
同モデルは⾼い適合度を⽰し、都道府県での透析導⼊率差の14%を説明可能としている。
出典:新潟⼤学、2023年

新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科 腎・膠原病内科学分野
Higher participation rates for Specific Health Checkups are associated with a lower incidence of treated ESKD in Japan (Clinical and Experimental Nephrology 2023年10⽉9⽇)
腎疾患対策 (厚生労働省)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料