日本でもっとも透析導入率が高いのは52~56歳の男性 積極的な腎臓病検診の受診勧奨が必要

2023.04.13
 新潟大学は、透析導入率が高い世代は、男性1940~60年代、女性1930~40年代生まれであることを明らかにした。もっとも⾼いのは、男性は1967~1971年⽣まれ、⼥性は1937~1941年⽣まれだという。

 とくに、もっとも高い透析導入率を示した1967~71年生まれの男性は、2023年時点で52~56歳になっており、働き盛りの年代であり、積極的な腎臓検診の受診勧奨が必要となるとしている。

 研究グループは今回、1982~2021年の⽇本透析医学会と国勢調査のデータを⽤い、年齢・時代・世代の影響に分けて評価できる解析⼿法であるAPC分析により、⽣まれた年(世代)と透析導⼊率の関連を検討。

 「これらの年代に⽣まれた⼈は、透析導⼊率が⾼いことから、積極的な腎臓検診の受診勧奨が必要と考えられる」としている。

日本でどの世代が透析導入率が高いかを検討 効果的な対策を推進

 日本国内における透析患者数は人口100万人あたり2,749人と、台湾(3,772人)、韓国(2,789人)に次いで世界で3番目に多い(2020年時点)。また、日本の透析導入率は近年低下傾向にあるものの、まだ世界で6番目に高く、人口高齢化の影響によりさらなる増加が危惧されている。人工透析になる最大の原因は糖尿病だ。

 新規透析導入患者数の減少をはかるため、慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を徹底し、糖尿病患者の腎臓機能の悪化予防に取り組むことが重要になる。透析導入率の経年変化を詳細に検討することも、より効果的な対策につながると期待される。

 これまで透析導入率の経年変化については、年齢の影響(高齢になるほど透析導入率は高まる)や、時代の影響(以前は上昇していた透析導入率は、近年は横ばい〜低下で推移)については検討されていたが、生まれた年(世代)の影響は検討されていなかった。世代が異なれば生まれ育った環境が異なり、年齢や時代による変化以外の影響を受ける可能性がある。

 そこで新潟大学の研究グループは、年齢・時代・世代の影響に分けて評価するAPC分析を用いて、日本の一般住民に占める透析導入率の40年間にわたる経年変化を、男女別に検討した。

 APC(Age-period-cohort)分析は、ある集団全体での経年変化を、加齢による影響(Age効果)、集団全体が受ける時代による影響(Period効果)、加齢や時代の影響ではない出⽣コホート(世代)、特有の影響(Cohort効果)に分離して、その影響を評価する解析⼿法。

もっとも透析導入率が高いのは1967~71年生まれの男性と1937~41年生まれの女性

 研究グループは今回、1982~2021年の日本透析医学会と国勢調査のデータを使用し、解析対象を20~84歳までとした。分子となる各年の男女別・年齢階級別透析導入患者数は日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」から、分母となる一般住民の男女別・年齢階級別人数は「e-Stat(政府統計の総合窓口)」から、それぞれ公表されている数字を用いた。

 年齢を5歳階級別に、時代を5年ごとに分類し、その結果、5年ごとの世代(出生コホート)を20個作成。男女別・年齢階級別に、分母を一般住民とした透析導入率を計算した。APC分析は、米国がん研究所(NCI)が公開しているWebツールを用いた。

 年齢階級別に透析導入率をグラフ化した結果、男女とも、同じ年齢階級でも出生年によって、透析導入率が異なることが明らかになった。

 具体的には、1900年初め頃に生まれた人よりも1930年頃に生まれた人の方が、同じ年齢階級でも透析導入率は高い一方、1960年頃に生まれた人よりも近年に生まれた人の方が、同じ年齢階級でも、年齢階級別透析導入率が低い傾向が示された。

 年齢や時代の影響を調整し、1947~1951年生まれを1として比較した各世代の透析導入率比は、男女とも山型を示した。

 つまり、男女とも1900年代初めから透析導入率比は上昇し、男性は1940~60年代頃、女性は1930~40年代頃でピークとなり、その後は低下傾向を示している。

 もっとも高い透析導入率比を示したのは、男性は1967~71年生まれ(透析導入率比1.14、95%信頼区間1.04~1.25)、女性は1937~41年生まれ(同1.04、同0.98~1.10)だった。

男⼥別・世代[出⽣コホート]別 透析導⼊率⽐
もっとも透析導入率が高いのは、1967~71年生まれの男性と1937~41年生まれの女性であることが判明。

男⼥とも1947~1951年⽣まれを1として、年齢・時代の影響を調整した、各世代(出⽣コホート)での透析導⼊率⽐を⽰す。線の周囲の⾊部分は 95%信頼区間。

男⼥別・年齢階級別 透析導⼊率
男女とも1900年代初めから透析導入率比は上昇し、男性は1940~60年代頃、女性は1930~40年代頃でピークとなり、その後は低下傾向を示している。

出典:新潟大学、2023年

とくに52~56歳の男性への積極的な受診勧奨が必要 (2023年時点)

 今回の研究により、加齢や時代による影響とは別に、男性は1940~60年代頃、女性は1930~40年代頃に生まれた人で透析導入率が高く、その後は低下傾向にあることが明らかになった。

 とくに男性で1967~71年生まれでもっとも高い透析導入率を示したことは、注目すべき所見としている。

 1967~71年生まれは52~56歳(2023年時点)に相当し、働き盛りの年代だ。これらの世代で透析導入率が高いことから、積極的な腎臓検診の受診勧奨が必要となる可能性がある。

 研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載された。

 「なぜ、これらの世代で透析導⼊率が⾼いのか、その理由を本研究から明らかにすることはできませんが、1930~50年頃に⽣まれた⼈では、第⼆次世界⼤戦(1939-45年)および戦後の⾷糧難が影響したかもしれません。戦争中および戦後しばらくの間、⽇本国⺠の栄養状態は極めて不良でした。妊娠中のお⺟さんの栄養状態が悪いと、⾚ちゃんの体重が少なくなる(低出⽣体重児)危険性が⾼まり、低出⽣体重児は⾼⾎圧症、糖尿病、⼼⾎管病、CKDなどの病気に、将来なりやすいことが報告されています」と、研究グループでは述べている。

 「同じ解析⽅法を⽤いた台湾の研究でも同様に、1943~47年⽣まれで透析導⼊率がもっとも⾼く、第⼆次世界⼤戦の影響が⽰唆されていることは、この仮説を⽀持します。しかし、この仮説では、1960年代⽣まれの男性で透析導⼊率が⾼い理由にはならないと思われるため、他の理由もあるものと思われます」としている。

新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座
Birth cohort effects in incident renal replacement therapy in Japan, 1982–2021 (Clinical and Experimental Nephrology 2023年4月4日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料