フードリテラシーが高い人ほど食事の質は高い 食生活指導の根拠に 日本人を調査 東京大学
日本人を対象にフードリテラシーと食事の質との関連を調査
研究は、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、同研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科医療コミュニケーション学分野の奥原剛准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Appetite」に掲載された。
不適切な食事摂取は、1年あたり1,100万人の死亡(総数の22%)の原因であると推定されている。そのため、適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な資質の指標である「フードリテラシー」に注目が集まっている。
フードリテラシーの定義は数多くあるが、もっとも広く引用されているのはVidgenとGallegosによって提唱されたもので、「食品に関するニーズを満たし、摂取量を決定するに際して、計画・管理・選択・準備・摂取するために必要な、相互に関連した知識・技術・行動の集まり」とされている。
これまで、欧米諸国を中心に実施されたフードリテラシーと食事の質との関連についての研究は、フードリテラシーと食事の質、あるいはその両者の評価が限定的であり、その全貌は明らかになっていない。
そこで研究グループは今回、一般の人々を対象としたオンライン質問票調査を実施し、フードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討した。
フードリテラシーが高い人ほど食事の質が高い 関連が高い3つの尺度
2023年2~3月にオンライン質問紙調査に参加した20~79歳(平均年齢 46.8歳)の日本人成人5,998人を対象とした横断研究を実施。フードリテラシーの評価は、オランダで開発された29項目からなる妥当性が検証された質問票の英語版を日本語に翻訳し用いた。スコアが高いほどフードリテラシーが高いことを示す。
その結果、フードリテラシーと食事の質とのあいだに統計学的に正の関連がみられた。つまり、フードリテラシーが高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質、夕食の質が高いことが明らかになった。
フードリテラシースコアをもとに参加者を4群に分けたうえで、食事の質スコアの差を、下位25%(1,499人)、25~50%群(1,514人)、50~75%群(1,474人)、上位25%群(1,511人)で比較した。性や年齢、教育歴など、食事の質と関連することが先行研究で明らかになっている因子を統計学的に調整した。
フードリテラシースコアの平均値は3.18(標準偏差:0.43)。食事の質スコアの平均値は、1日全体では50.4(標準偏差:7.5)、朝食では41.8(標準偏差:16.3)、昼食では43.2(標準偏差:11.2)、夕食では52.6(標準偏差:8.9)だった。
食事摂取量の推定には、妥当性を検証済みの食習慣質問票であるMDHQ(Meal-based Diet History Questionnaire)の短縮版を用いた。食事摂取量データをもとにして、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を1日全体の食事、朝食、昼食および夕食のそれぞれについて算出した。このスコアの範囲は0~100点で、スコアが高いほど食事の質が高いことを示す。
さらに、男性と女性に分けて、また栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種に分けて解析したところ、フードリテラシーと食事の質との関連は、一貫して女性のほうが男性よりも強い一方で、栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種でのフードリテラシーと食事の質との関連には、一貫した違いはないことも分かった。
また、今回使用したフードリテラシーのスコアには8つの下位尺度がある[食品の準備に関する技術、食の安定性、健康的な間食スタイル、社会規範と意識的な摂食行動、食品栄養成分表示の参照、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄]。
フードリテラシーを構成するこれら8つの下位尺度と、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質、夕食の質との関連を解析したところ、▼食品の準備に関する技術、▼健康的な間食スタイル、▼健全な食費――の3つが関連が高いことが明らかになった。
▼食品の準備に関する技術、▼健康的な間食スタイル、▼健全な食費の3つが関連が高い
なお、研究グループは「食事の質」について、個々の栄養素や食品に着目するのではなく、栄養学的に見たときの食事全体の内容を包括的に捉えようとする試みで、もっとも一般的な方法は、「食事を構成する主要な要素のそれぞれについて、摂取状況に応じたスコアをつけ、そのスコアの合計点をもって食事全体を評価する」ものとしている。
今回の研究での食事の質の評価には、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を用い、これは、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「米国人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines forAmericans)の遵守の程度を測る指標で、日本人でも有用性も検証済みとしている。
研究は、一般の人々を対象にフードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討した世界ではじめての研究としている。
「研究成果は、一般の人々の食事の質を改善するための栄養教育のあり方や行動変容を目指した介入内容を考えるうえで重要な科学的根拠となることが期待される」と、研究者は述べている。
東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野
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