糖尿病を悪化させるSePタンパク質の合成を抑制する新規RNAを発見 緑茶のEGCgにより増加することも確認
この遺伝子はRNAとして作用し、セレノプロテインPの合成を抑制する活性をもち、緑茶成分エピガロカテキンガレート(EGCg)により増加することも発見した。
糖尿病を予防・改善する新規RNA「L-IST」を発見 新たな戦略開発に期待
研究は、東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授、同志社大学生命医科学部の三田雄一郎助教、同大学院生命医科学研究科の野口範子教授の研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Nucleic Acids Research」にオンライン掲載された。
「セレノプロテインP(SeP)」は、必須微量元素であるセレンを含むタンパク質で、肝臓で主に合成され、血液中に分泌される。セレンを含むタンパク質のなかには、活性酸素を還元・無毒化し、活性酸素から生体を守る抗酸化作用を示すものがある一方で、セレンは反応性の高い元素で毒性も高いことが知られている。
分泌されたSePは、各臓器にセレンを運ぶ役割を果たすが、これまで糖尿病患者でSePが増加し、過剰SePがインスリン抵抗性やインスリン分泌抑制を引き起こし、糖尿病態を悪化させることが報告されている。そのため、SePを一定に保つことが健康を維持する上で重要と考えられる。
同志社大学と東北大学の研究グループは今回の研究で、SeP遺伝子の配列についてデーターベースを用いて解析し、SePと似た構造をもつ機能未知の遺伝子「CCDC152」を発見した。
この遺伝子の機能について調べるため、SePを発現する肝臓由来HepG2細胞への作用を解析した。その結果、SeP mRNA量は変化しなかったが、SePタンパク質の発現量を減少させることが分かった。
SePタンパク質を低下するメカニズムを詳細に解析した結果、この遺伝子はRNAとして作用し、SeP mRNAに結合して、SePタンパク質の合成を抑制することを突き止めた。研究グループは、この遺伝子を「L-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)」と命名。
これまでに、高血糖や高脂肪によりSePタンパク質の発現が増加することが分かっていたが、SeP発現を低下する機構の存在は知られていなかった。L-ISTの発見により、SePの暴走を防ぎ、糖代謝を一定に保つメカニズムの一端が明らかになった。
さらに、L-ISTを増加させる化合物を探索し、緑茶成分エピガロカテキンガレート(EGCg)がL-ISTを増加させ、セレノプロテインPを下げる作用があることも発見。緑茶は、以前から糖尿病の予防効果があることが知られていたが、L-ISTを介したSeP発現低下作用が予防効果に寄与している可能性が考えられる。
今後、SePレベルの高い糖尿病患者や糖尿病予備群に対するEGCgのサプリメントを用いた治療や、EGCgをリード化合物としたL-IST発現増加薬などの開発が期待されるとしている。
研究は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(A)や新学術領域(生命金属科学)、AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業により実施された。
東北大学大学院薬学研究科
同志社大学生命医科学部
Identification of a novel endogenous long non-coding RNA that inhibits selenoprotein P translation(Nucleic Acids Research 2021年6月18日)