日本人の糖質摂取量と2型糖尿病リスクの関連を調査 女性ではでん粉の摂取量が多いと糖尿病リスクが増加
糖質摂取量と2型糖尿病の罹患リスクとの関連を調査
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
食事中の糖質は、血糖値やインスリン分泌、体重増加に関わる栄養素であることから、糖尿病との関連が着目されている。とくに、欧米と比べて食事パターンの異なるアジア人では、糖質摂取量と糖尿病との関連を検討した前向きコホート研究はなかった。
そこで、国立がん研究センターや東京農業大学などの研究グループは、1995年に岩手、秋田、長野、沖縄、東京、1998年に新潟、茨城、高知、長崎、沖縄、大阪の11保健所管内に在住していた45~75歳の男女のうち、糖尿病・循環器疾患・がんの既往などのない6万4,677人(男性2万7,797、女性3万6,880人)を5年間追跡して調査した。
糖質摂取量とその後5年間の2型糖尿病の罹患リスクとの関連について調べた。糖質は種類によって代謝経路が異なり、健康への影響も異なる可能性があるため、種類別の関連についても調べた。
糖質は、単糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど)や二糖類(ショ糖、麦芽糖、乳糖など)からなる単純糖質と、少糖類、多糖類(でん粉など)からなる複合糖質に分かれる。ブドウ糖、果糖、ショ糖は、主に甘味料、菓子類、甘味飲料、果物、野菜などに含まれ、麦芽糖は主に穀類、芋類に、ガラクトースや乳糖は主に乳製品に含まれる。でん粉は穀類、芋類、豆類などに多く含まれる。
糖質摂取量は、妥当性が確認された食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、合計単純糖質、合計果糖、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、ショ糖、麦芽糖、乳糖、でん粉について、1日のエネルギー摂取量に対するそれぞれの糖質の摂取量(%エネルギー/日)を推定した。
女性ではでん粉の摂取量が多いと糖尿病の罹患リスクが増加
糖尿病は、5年後のアンケート調査の既往歴から、新たに糖尿病に罹患した人とした。糖質の種類ごとに、人数が均等になるように4つのグループに分け、摂取量がもっとも低いグループを基準とした場合のその他のグループの、その後5年間の糖尿病罹患リスクを調べた。
解析に際しては、糖尿病の罹患に影響すると考えられる要因(年齢、地域、職業、糖尿病の家族歴、高血圧の既往、喫煙、飲酒、身体活動、出産回数(女性のみ)、総エネルギー摂取量、カルシウム・マグネシウム・ビタミンD・食物繊維・コーヒー摂取量、体格、でん粉摂取量(単純糖質についての解析の場合)、合計単純糖質摂取量(でん粉についての解析の場合))を統計的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除いた。
5年間の追跡期間で、1,190人(男性690人、女性500人)が糖尿病を発症した。解析の結果、女性で、でん粉では、摂取量がもっとも少ないグループと比較して、他のグループでは糖尿病の罹患リスクが高いことが明らかになった。一方、男性ではいずれの糖質でも関連はみられなかった。
さらに、糖質の摂取量と糖尿病リスクの量反応関係を曲線グラフで示した結果、女性では、合計単純糖質では1日あたり30%エネルギー以上、合計果糖については一日あたり14%エネルギー以上というような、極端に摂取量が多い場合に、糖尿病の罹患リスクが増加する可能性が示された。また、でん粉については、4分位に分けて解析した結果と同様、摂取量が多いとリスクが増加した。
米飯摂取が多くなるほど2型糖尿病の発症リスクが上昇するという結果も
研究結果から、日本人女性で、でん粉の摂取量が多いことは糖尿病の罹患リスク増加と関連すること、さらに単純糖質(合計単純糖質や合計果糖)の摂取が極端に多い場合に、糖尿病の罹患リスク増加と関連する可能性が示された。
女性では米飯摂取が多くなるほど2型糖尿病の発症リスクが上昇する傾向があることは、過去のJPHC研究の報告でも示されている。筋肉労働をしていない男性でも、米飯摂取により糖尿病の発症リスクは上昇するという結果が示された。
また、女性では、低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下するという結果も出ている。この関連は、食事のGL(グリセミック負荷:食事の中で摂取される炭水化物の質と量を示す指標)を調整することで弱まったことから、炭水化物の質や量が影響していると考えられる。
これは、でん粉は炭水化物であり、日本人のでん粉の摂取源が主に米であることから、今回の結果とも一致するものだ。
一方、でん粉や合計果糖の結果は、一部の欧米の先行研究の結果と一致したものの、合計単純糖質については、欧米の先行研究では関連なしと報告されており、今回の結果とは一致していない。
「今回の研究では、女性でのみ、でん粉、合計単純糖質、合計果糖摂取量と糖尿病罹患リスクの関連がみられました。このように男女で結果が異なったことや、合計単純糖質の結果が欧米の報告と一致しなかったことは、糖質の摂取源の違い(添加された糖質か、あるいは、飲料に含まれる糖質かなど)に影響をうけている可能性があります。さらに、今回の研究結果は日本ではじめての報告であり、アジアでの報告も少ないため、さらなる研究の蓄積が必要です」と、研究グループでは述べている。
「研究の限界として、糖質摂取量と糖尿病に影響するさまざまな要因について、統計学的な調整が十分でない可能性があること、対象集団の糖質摂取量が比較的少なく、多量摂取での関連が検出しにくかった可能性があることなどが挙げられます」としている。
多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Association between sugar and starch intakes and type 2 diabetes risk in middle-aged adults in a prospective cohort study (European Journal of Clinical Nutrition 2021年9月20日)
Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (American Journal of Clinical Nutrition 2010年10月27日)
Low-carbohydrate diet and type 2 diabetes risk in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-Based Prospective Study (PLOS ONE 2015年2月19日)