【新型コロナ】日本発mRNAワクチンの創薬に向けた大型プロジェクトを始動 副反応の少ないワクチンを速やかに供給
ワクチンを国内で生産し、緊急時に速やかに供給できる体制づくりが必要
新型コロナウイルスに対するワクチンのなかで、mRNAワクチンは有効性が高く、いち早く承認されたことから、パンデミックの制御で中心的な役割を果たしてきた。ファイザー、モデルナのワクチンはすでに、全世界合計で約30億回が接種されている。
ワクチンを国内で生産できず、緊急時に速やかに国民全体に供給できないことは、日本では喫緊の課題となっている。また、副反応が比較的強いことがワクチン忌避の原因にもなっている。さらに、現在のワクチンには、不完全なmRNAが不純物として多く混じっており、平常時mRNAワクチンを普及させるうえで課題にもなっている。
名古屋大学が目指しているのは、データサイエンス、シンセティックバイオロジーなどの最先端な科学を融合した、次世代型mRNAワクチンの創製。
名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授や京都府立医科大学大学院医学研究科医系化学の内田智士准教授らが、AI・データサイエンスを専門とする早稲田大学の浜田道昭教授や、シンセティックバイオロジーを専門とする理化学研究所の清水義宏氏らと、この課題に取り組んでいる。
進化分子工学は、突然変異と淘汰の繰り返しを試験管内で再現し、進化の原理を利用して、分子(mRNAなどの核酸やタンパク質)の機能を向上させる研究。
研究グループは、この手法を取り入れ、より高純度かつ高機能な次世代mRNAの製造法、設計法の開発を目指している。高機能な次世代型mRNAを設計することで、副反応の少ないワクチンの開発が可能になるとしている。
多様な企業・チーム・事業体が連携するベンチャーエコシステムを構築し、mRNAのデザインから生産システム、デジタル技術、臨床応用まで、開発を多面的かつ複合的に進めている。
名古屋大学発ベンチャー「Crafton Biotechnology(クラフトンバイオテクノロジー)」では、数年以内に、国内でmRNAを製造できる体制を構築し、安定供給することを目標としている。独自の創薬技術を整備することに加え、自社でワクチン開発も行う。
mRNAワクチンは、新型コロナウイルスだけでなく、次なるパンデミックなど、将来必ず訪れる脅威に対して迅速に対応できる備えともなる。また、新しい医薬品モダリティ(治療技術)として、感染症を予防するワクチン以外にも、がんや遺伝性疾患、さらには再生医療への応用も期待できる。
国内医薬品産業に目を向けた場合、バイオ医薬品の台頭以降、新しいモダリティの海外依存度は非常に高い状況が続いている。「ワクチンを超えた医薬品としてのmRNAの応用にも取り組み、さまざまな難病に対する治療薬を開発します。このことは将来、医薬品産業における日本の国際的競争力を高めるうえで非常に重要です」と、研究グループでは述べている。