1型糖尿病患者の血糖変動は認知機能に影響 低血糖・高血糖により情報処理速度が低下
これまでの研究から、極端な低血糖や高血糖が認知機能の低下につながる可能性が示唆されてきている。ただし最近まで、血糖値および認知機能の変動を評価し得る手法が限られていたため、血糖変動が認知機能に及ぼす影響に関して不明点が多く残されていた。
近年になり、血糖値については連続血糖測定(continuous glucose monitoring;CGM)、認知機能については生態学的瞬間評価(ecological momentary assessment;EMA)という測定技術が確立され、このトピックに関する詳細な検討を施行し得る環境が整ってきた。
EMAは、認知機能や感情、生理的指標などの状況次第で変動する評価項目を、1日複数回測定する手法。これを用いることによって、従来の研究の限界点であった、1回のみの測定結果に依拠し断片的な情報しか得られないという課題の解決に近付く。
本研究ではスマートフォンベースのEMAにより、認知機能を1日3回、15日間(計45回)測定した。研究参加者には毎日、午前(9時からの4時間)、午後(13時からの4時間)、夜(17時からの4時間)の時間帯のランダムな時刻にメールが送信され、メール受信後には30分以内にEMAセッションの開始が求められた。EMAの質問は、その時点でのストレスや不安、疲労の程度などを問う毎回同じ内容のものと、認知機能を評価するための毎回異なる質問とで構成されていた。
研究参加者は1型糖尿病患者200人(平均年齢45.7±15.6歳、HbA1c7.5±1.3%)。CGMとEMAのデータを統合して解析した結果、血糖変動の大きさが、認知機能のうちの情報処理速度の低下および正確性の低下に関連していることが示された。
一方、血糖値が正常域よりわずかに高いタイミングでは、情報処理速度が速いという結果も示された。注意力については血糖変動との関連が見られなかった。
また、血糖変動にともなう認知機能の脆弱性を予測する因子として、年齢、血糖変動の大きさ、低血糖の時間、過去に来した重症低血糖の回数、細小血管合併症、疲労、首周囲径という7因子が抽出された。
なお、これらのうちの首周囲径については、「予期せぬ発見であったため、関連因子の探索を行った結果」として、睡眠時無呼吸や上半身肥満が関与している可能性が浮かび上がったと記されている。
論文の上席著者である同院のLaura Germine氏は、「1型糖尿病患者の認知機能、とくに情報処理速度を維持するために、日常生活における血糖変動を最小限に抑えることの重要性が示された。このことはとくに、高齢者や細小血管合併症を有する場合などに、より強調される」と述べている。
なお、数人の著者が医薬品・医療機器関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。
[HealthDay News 2024年3月22日]
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