GLP-1受容体作動薬を投与した患者は術前の胃内容物残留が増加 麻酔下での誤嚥リスクを懸念
GLP-1RAは2型糖尿病患者の血糖管理のみでなく、近年では肥満にともなう合併症を有する場合の減量目的での使用が急速に拡大している。GLP-1RAは多彩な作用を有しており、そのひとつとして胃内容物の排出抑制が挙げられる。
この作用が麻酔下手術での誤嚥リスクを押し上げる可能性が理論的には考えられるが、実態は明らかにされていない。そこでSen氏らは、待機手術が施行される患者の術前胃内容物残留(residual gastric content;RGC)を胃超音波検査で評価し、GLP-1RA使用の有無で比較するという横断研究を行った。
2023年6月6日~7月12日に大学附属病院に入院し、待機手術が予定されていた患者124人〔年齢中央値56歳(四分位範囲46~65歳)、女性60%、GLP-1RA使用患者50%〕を前向きに登録。胃の解剖学的構造の変化(胃の手術の既往など)や過去1カ月未満の外傷を有する患者、妊婦、胃超音波検査のための右側臥位をとれない患者は除外されている。
研究参加者には全員、待機的全身麻酔下手術の術前絶飲食ガイドラインを遵守した管理が行われた。また大半の患者で、術前5日以上前までにGLP-1RAの使用が中止されていた。主要評価項目は、胃超音波検査で1.5mL/kg超のRGCが認められた場合との定義に基づく「RGCの増加」だった。
GLP-1RAを使用していない群では、62人中12人(19%)にRGCの増加が認められた。一方、GLP-1RA使用群では62人中35人(56%)にRGCの増加が認められた。
傾向スコアを用いた逆確率重み付け法により交絡因子を調整後、GLP-1RAの使用はRGC増加と判定された割合の30.5%(95%信頼区間9.9~51.2)の上昇と関連していた。なお、GLP-1RAの中断期間の長さはRGC増加の割合と有意な関連がなかった〔調整オッズ比0.86(95%信頼区間0.65~1.14)〕。
論文の結論は、「GLP-1RAの使用は、術前の胃超音波検査で把握されたRGCの増加と独立して関連していた。この結果は、手術前の絶食期間に関する現行のガイドラインの記載は、麻酔下で誤嚥リスクが高いこの患者群には適切とは言えない可能性を示唆している」と総括されている。
また、論文の上席著者である米マクガバン医科大学のOmonele O. Nwokolo氏は、「われわれの研究結果は、GLP-1RAを用いた治療を行っている患者における待機手術施行時の術前休薬に関する、これまでの理解の不足を補うものと言える。従来はデータが不十分であったため、主としてエキスパートオピニオンに基づいた推奨がなされていたが、本研究を嚆矢としてエビデンスに基づいたガイドライン策定のための研究が進むのではないか」と付け加えている。
[HealthDay News 2024年3月12日]
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