脂質異常症に有効なワクチン治療薬を開発 治療標的の「ANGPTL3」に対するペプチドワクチン 安価な新規治療オプションとして期待

2021.11.17
 熊本大学などは、脂質異常症および関連疾患に有効なワクチン治療薬を開発したと発表した。

 開発したのは、脂質異常症の新規治療標的として注目されているタンパク質「ANGPTL3」に対するペプチドワクチン治療薬で、過食や肥満にともなう脂質異常症のマウスモデルに対して、脂質異常症および脂肪肝の改善効果を示したとしている。

 同治療薬は、遺伝性疾患である家族性高コレステロール血症のマウスモデルに対しても、脂質異常症および動脈硬化症の改善効果を示した。

 「この治療薬は、脂質異常症および関連疾患に対する、より安価な新規治療オプションのひとつとして期待されます」と、研究者は述べている。

脂質異常症を増悪させる「ANGPTL3」を抑える脂質異常症治療薬を開発

 研究は、熊本大学大学院生命科学研究部の尾池雄一教授らの研究グループが、大阪大学大学院医学系研究科の森下竜一寄附講座教授、中神啓徳寄附講座教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Cell Reports Medicine」にオンライン掲載された。

 脂質異常症の治療の原則として、動脈硬化症の発症や再発予防の観点から、血中LDLコレステロール値をできる限り低下させることが重要であることは、多くの臨床研究で示されている。

 そのため、スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が一般的に広く使用され、その有効性も確立している。重篤な症例では、血中LDLコレステロール値をできる限り低下させるために、スタチン系薬剤の増量や他の薬剤の追加投与による治療(多剤併用療法)が行われている。

 しかし、これらの治療では、有害な症状、徴候、ならびに検査値異常により、治療継続困難となる患者がいるため、さらに新たな治療薬の開発が期待されている。また近年、高中性脂肪血症も動脈硬化発症を促進することが示されており、必要以上に多くの薬が処方されるポリファーマシーへの対応の観点から、血中LDLコレステロール値と中性脂肪値をともに強力に低下できる薬剤の開発が期待されている。

 そうしたなか、研究グループはこれまでの研究で、「ANGPTL3」の機能欠失型の遺伝子変異をもつヒトが、変異をもたないヒトに比べ、血中LDLコレステロール値および中性脂肪値がともに低下しており、心血管疾患の発症リスクが有意に低いことを見出していた。

 アンジオポエチン様因子は、TIE2受容体のリガンドであるアンジオポエチンに構造上類似するもののTIE2受容体に結合できない分泌型タンパク質として同定されており、ANGPTL3はそのひとつ。ANGPTL3の産生や機能を抑えることで、脂質異常症が改善することが報告されている。

 ANGPTL3は血管新生作用に加え、中性脂肪を分解する酵素であるLPL(Lipoprotein lipase)の活性阻害作用により、血清中性脂肪を上昇させる作用も知られている。

 このため、ANGPTL3の機能や産生を抑える脂質異常症治療薬の開発は進んでおり、すでにANGPTL3を標的とした抗体医薬、核酸医薬などのバイオ医薬品が開発されている。

 現在、抗ANGPTL3抗体や核酸医薬を用いてANGPTL3の産生や機能を抑制する薬剤が開発され、ヒト治療抵抗性脂質異常症で現行治療への上乗せ効果が確認されており、既存の治療薬と異なる新たな作用をもつ治療薬として期待されている。

 遺伝性疾患であり重篤な脂質異常症を発症する家族性高コレステロール血症に対しても、臨床治験で有効性が示されており、実臨床の現場での早期の実用化が期待されている。

 しかし、開発中のバイオ医薬品は一般的に薬価が高いため、より安価な治療法の開発が求められている。広く治療を普及させるためには、治療有効性を保持しながら、より安価な治療薬を開発することが求められている。

脂質異常症や関連疾患に有効なワクチン治療薬を開発
肥満・脂肪肝・家族性高コレステロール血症にも効果

 尾池教授らの研究グループは、ANGPTLファミリーの同定から、それらの機能や病態における意義の解明に関する研究を行ってきた。そして今回の研究では、ANGPTL3に対するペプチドワクチン治療法の開発に成功した。

ANGPTL3ペプチドワクチン治療の概略図

ANGPTL3ペプチドワクチン接種により液性免疫が誘導され、ANGPTL3機能抑制中和抗体が産生され、肥満にともなう脂質異常症および脂肪肝の改善、家族性高コレステロール血症の脂質異常症および動脈硬化の改善が示された。
出典:熊本大学、2021年

 マウスモデルを用いた実験により、(1)過食や肥満にともなう脂質異常症および脂肪肝の改善効果、(2)家族性高コレステロール血症の脂質異常症および動脈硬化の改善効果を確認した。

肥満症マウスモデル(ob/obマウス)の脂質異常症および脂肪肝に対するANGPTL3ペプチドワクチン治療効果

出典:熊本大学、2021年

 ペプチドワクチンは、バイオ医薬などと比較して一般的に安価に製造されるため、医療経済の面で優れており、今後、脂質異常症および動脈硬化症や脂肪肝などの脂質異常症関連疾患に対する新規治療オプションのひとつとして期待されるとしている。

 研究グループは、ANGPTL3ペプチドワクチン開発に向け、ANGPTL3のアミノ酸配列から短いアミノ酸鎖(ペプチド)配列を3か所(E1、E2、E3)選択し、各々を標的とするペプチドワクチンをデザインした。

 次に、3つの候補ペプチドから作成したワクチンを過食/肥満関連性の脂質異常症および脂肪肝を示すモデルマウス(ob/obマウス)に実施したところ、E3を用いたワクチンがもっとも脂質異常症および脂肪肝に対して改善効果を示した。

 また、E3を用いたワクチンを家族性高コレステロール血症マウスモデル(Apoeshlマウス)に実施したところ、脂質異常症および動脈硬化に対して改善効果を認めた。

 なお、研究で開発したANGPTL3ペプチドワクチン治療の抗体誘導は、6ヵ月程度持続するという。また、上記の各解析で、ANGPTL3ペプチドワクチン治療群マウスに大きな障害は認められず、同治療法が副作用なく安全であることを確認した。

 「マウスへのANGPTL3ペプチドワクチン接種により、液性免疫を誘導し、ANGPTL3機能抑制中和抗体が産生されることで、肥満にともなう脂質異常症および脂肪肝の改善ならびに家族性高コレステロール血症での脂質異常症および動脈硬化の改善が示されることが明らかになりました」と、研究グループでは述べている。

ANGPTL3ワクチン接種による液性免疫の誘導

ANGPTL3ペプチドワクチン接種マウスにおける交代価の推移

縦軸はワクチン抗体価(ワクチンによって抗体が誘導される強さ)、横軸はワクチン初回接種からの経過期間(週)を示す。ドワクチン治療群は、抗体価が有意に上昇し、その上昇はワクチン初回接種から30週間後も維持されていた。
出典:熊本大学、2021年

熊本大学大学院生命科学研究部
Vaccine targeting ANGPTL3 ameliorates dyslipidemia and associated diseases in mouse models of obese dyslipidemia and familial hypercholesterolemia(Cell Reports Medicine 2021年11月16日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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