低血糖が糖尿病網膜症を悪化させる機序を解明 低血糖は新生血管の過成長を促す
なぜ低血糖エピソードは糖尿病患者の網膜症を悪化させるかを解明
糖尿病合併症による視力の低下や障害は予防可能だが、実際には米国でも失明の大きな原因になっている。
糖尿病による細小血管障害の発症率を減らし、進行を遅らせるために、良好な血糖管理を保つことは重要だが、血糖管理を厳格に行おうとすると、低血糖の一時的なエピソードが増えるというジレンマがある。糖尿病網膜症のある患者とって、低血糖の時間をなるべく減らすことが望ましい。
「一時的な低血糖は、治療を開始したばかりのインスリン依存性の糖尿病患者や、糖尿病と診断されたばかりの患者で、1日に1~2回みられる」と、米ジョンズホプキンス医科大学ウィルマー眼科学研究所のAkrit Sodhi氏は言う。
「今回の研究で、頻繁な低血糖エピソードにより、網膜グリア細胞でHIF依存性のGLUT1発現が促されることが示された。これが新生血管の過成長を促し、糖尿病網膜症の悪化をもたらすと考えられる」としている。
研究グループは今回、実験室の低血糖の環境で成長させたヒトとマウスの網膜細胞と無傷の網膜、低血糖を頻繁に示したマウスの網膜で、エネルギー産生のためにグルコースに依存する、網膜内のミュラーグリア細胞に着目した。
その結果、低血糖により、網膜細胞でのグルコース輸送体であるGLUT1の発現が、低酸素誘導因子であるHIF-1に依存的にもたらされることが示された。
低血糖による生理学的反応により低酸素になると、HIFに依存して血管作動性メディエーターが著しく増加する。すると、新生血管の過成長につながる分子を変化させるカスケードが引き起こされ、グルコースを分解する網膜細胞の能力が低下する。
これにより、血管内皮増殖因子(VEGF)やANGPTL4などの産生が増加し、壊れやすい異常な新生血管の成長が引き起こされ、糖尿病網膜症が促進されるという。
「糖尿病患者の網膜で低血糖により低酸素環境になると、転写因子である低酸素誘導因子1α(HIF-1α)の発現が増加し、グルコースに対する正常な生理学的反応が損なわれ、網膜症を悪化させると考えられる」と、Sodhi氏は説明する。
「HIF-1α経路の抑制が、糖尿病網膜症の新たな治療法を開発するための効果的な標的となる可能性がある」と指摘している。
HIF-1αの発現が増加し(赤い部分)、血管作動性メディエーターが促され、血管新生が増える
Researchers Unravel Why Episodes of Low Blood Sugar Worsen Eye Disease in People with Diabetes (ジョンズホプキンス医科大学 2023年1月26日)
HIF-1α accumulation in response to transient hypoglycemia may worsen diabetic eye disease (Cell Reports 2023年1月31日)