実行しやすい健康改善プランを提案するAIを開発 健診データから最適な治療法を選択 個別化医療の実現へ 京都大

2021.06.01
 京都大学などが、AI(人工知能)の技術のひとつである機械学習などを組合わせることで、個人の健診データをもとに、1人ひとりに最適で効果的な健康改善プランを提案できるAIの開発に成功したと発表した。
 個人の特性に合わせて最適な治療法を選択する「個別化医療」の重要性は高まっており、蓄積された健康データから有用な知見をえるための研究は加速している。
 「今回の研究はまったく新しいアプローチを提案するもので、今後の医療分野でのデータ活用の加速に大きく貢献すると期待しています」と研究者は述べている。

健康改善プランは「人にとって実行しやすいもの」である必要が

 京都大学などが、AI(人工知能)技術のひとつである「機械学習」と「階層ベイズモデリング」を組合わせることで、個人の健診データをもとに、1人ひとりに最適で効果的な健康改善プランを提案するAIの開発に成功した。

 研究は、京都大学が弘前大学COIで協和発酵バイオ、弘前大学と共同で行ったもの。

 健康改善プランは、予測される結果の改善効果が大きく、かつ人にとって「実行しやすい」ものである必要がある。

 たとえば、現実には生体がとりえない検査値を組合せたような改善プランは実行が難しくなる。実際に健診データにあるような検査値の組合せを経由するような改善プランの方が好ましい。

 また、健康改善のために、運動、飲酒制限、食習慣などに関して、すべての項目に対して介入を行うのではなく、効率的な改善が可能であれば、項目を絞ったほうが、保健指導を受ける人にとっての受容性は高くなると考えられる。

 そこで研究グループは、「実行しやすさ」を考慮しつつ、より効果的な健康改善プランを提案できるAI(人工知能)の開発に取り組んだ。

 AIの技術のひとつである機械学習などを組合わせた。機械学習は、近年のAI発展の中核となっている、コンピュータが大量のデータを学習し、そこから法則性を見出すことで予測や分類などのタスクを実行する技術。

 現実にとりうる検査値の組合せによる健康改善プランを実現するために、「実行しやすさ」が重要となる。これを評価するために、階層ベイズモデルにより実際のデータ分布のパターンを学習した。

 このモデルは、データ全体の傾向と個体、またはグループの傾向をもとに学習を行うことで、複数の分布が混合したデータの分布を表現するもの。

出典:京都大学大学院医学研究科、2021年

発症リスクを予測できても、具体的な改善行動を示すのは難しい

 近年の機械学習技術の目覚ましい発展により、個人の現在または将来の健康状況を高性能に予測するモデルの作成が可能になってきた。

 近年、医療やヘルルスア分野でも、AIの機械学習技術を利用して予測モデルを作成することで、患者の包括的な情報をもとに、診断支援や将来の疾病予測を行うことが可能になってきた。

 しかし、高性能な予測モデルは予測過程がブラックボックス化されており、これを用いて個人ごとに効果的かつ具体的な健康改善プランを提案することは困難だった。

 また、近年注目されている個別化医療では、多様な個人の健康特性や嗜好にもとづき、患者が受け入れられる健康改善プランを立てることが重要な要素となっているが、そうした健康改善プランの提案は、主に臨床医の経験に依存しており、データ主導の方法で臨床医をサポートすることは課題となっている。

 そのため、個人の健康に関してAIの機械学習モデルにより病気の発症リスクが高いと予測されても、どのような改善行動を取るべきかについて具体的なプランを示すことはできなかった。

AIで実行しやすいプランを提案し、個別化医療の実現へ

 研究グループが開発したのは、高性能な機械学習モデルに加え、階層ベイズモデルを用いることで、1人ひとりにあわせた「実行しやすい」健康改善プランを提案するAI。

 実際に、開発したAIを「岩木健康増進プロジェクト」により取得された健診ビッグデータへと適用し、その有用性を検証した。

 同プロジェクトにより取得された検診ビッグデータに対して適用し、高血圧または慢性腎臓病(CKD)リスクのある被験者に対して、効果的な改善プランを立案可能であるかを評価した。

 その結果、開発したAIが個人の健康状態に応じて個別の改善プランを立案可能であることが確認された。また、開発したAIの改善プランは、同じ改善効果をえるための他のプランと比較して「実行しやすい」ものであることが実証されたという。

「実行しやすさ」を評価するために、階層ベイズモデルにより実際のデータ分布のパターンを学習

出典:京都大学大学院医学研究科、2021年

 研究は、京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授、小島諒介特定講師、中村和貴氏らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

 「研究成果は、開発したAIが医療分野での意思決定に貢献し、臨床医に対してこれまでえられなかった洞察を与える可能性があることを示しています」と、研究グループは述べている。

 「今日、個別化医療の重要性は高まっており、蓄積された健康データから有用な知見をえることが期待されています。本研究はそれに対するまったく新しいアプローチを提案するものであり、今後の医療分野でのデータ活用の加速に大きく貢献すると期待できます」

京都大学大学院医学研究科・医学部
Health Improvement Framework For Actionable Treatment Planning Using A Surrogate Bayesian Model(Nature Communications 2021年5月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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