「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度」日本版を開発 プライマリ・ケアの質を患者視点で評価
ライマリ・ケアで重要な11項目を11の質問で測定
「ライマリ・ケア」は、日本プライマリ・ケア連合学会によると、「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」と理解されている。
プライマリ・ケアは、医療資源の有効利用や健康格差の是正の役割を果たしており、各国の医療システムのなかで重要な位置を占めている。しかし、プライマリ・ケアが扱う領域は、病気にいたる前の状態での健康相談、予防医療、患者個人だけでなくその家族や地域を対象とした健康に関する活動など、幅が広い。
そのため、そのすべてを評価しようとすると項目が多くなってしまい、実用的でなくなってしまうという課題があった。
プライマリ・ケアの質をどのように評価するかが全世界的に課題となっているなか、米国の研究者らが、患者、医療者、政策決定者らと「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度」(PCPCM:Person-Centered Primary Care Measure)を開発した。
このPCPCMは、プライマリ・ケアにとって重要とされる、▼ケアへのアクセス、▼ケアの包括性、▼ケアの統合、▼ケアの調整、▼医療者と患者の関係性、▼ケアの継続性、▼アドボカシー、▼家族状況を考慮したケア、▼地域状況を考慮したケア、▼目標志向のケア、▼健康増進の11項目を、11の質問で測定できることが特徴だ。
日本でも、これまで別のプライマリ・ケア質評価尺度が作成され用いられていた。しかし、研究グループは、より少ない項目でより多くのプライマリ・ケアの要素を測定できるPCPCM日本版の作成には意義があると考えた。
日本のプライマリ・ケアの得点は35ヵ国中28位
研究では、20~74歳の横浜市在住者1,000人を無作為に抽出し、郵送で質問紙を送り回答してもらった。41.7%から回答があり、PCPCMの平均点は2.59点だった(4点満点)。この得点をもとにOECD加盟35ヵ国を対象として行われた先行研究と比較すると、35ヵ国中28位だった。
また、項目別の得点(それぞれ4点満点)では、「ケアへのアクセス」(2.98)、「ケアの包括性」(2.98)、「ケアの統合」(2.66)、「ケアの調整」(2.56)、「医療者と患者の関係性」(3.16)、「ケアの継続性」(2.14)、「アドボカシー」(2.48)、「家族状況を考慮したケア」(2.18)、「地域状況を考慮したケア」(2.12)、「目標志向のケア」(2.57)、「健康増進」(2.68)となり、ケアの継続性、家族や地域の状況を考慮したケアの得点が低い傾向がみられた。
「調査は、現在の日本のプライマリ・ケアの質を表す目安のひとつとなると考えられます。日本のプライマリ・ケアの特徴と考えられると同時に、米国でも同様の傾向がみられており、他国でも共通の課題である可能性があります」と、研究グループでは述べている。
PCPCM日本版を同大ウェブサイトに掲載 マニュアルも配布
研究グループは、PCPCMの得点、および同時に調査した他のプライマリ・ケア評価尺度の得点から、尺度としての信頼性・妥当性を算出しており、日本版として使用するのに十分であることを確認したとしている。
米国の原著者らが翻訳した日本語版も当初存在したが、日本語表現が分かりにくい部分があったという。日本の患者にインタビューを行い、理解しやすさを確認した今回の研究のものが、正式なPCPCM日本版として原著者らのウェブサイトに掲載されている。
「PCPCMは比較的新しい評価尺度ですが、今後世界中でプライマリ・ケアの質評価に用いられる可能性が高いので、他国と比較した時の日本のプライマリ・ケアの特徴を記述する国際共同研究につなげていければと考えております。また、少ない質問項目で多くの領域を評価できるので、国内の地域ごとの比較や日常診療の中での質改善にも有用と考えています」と、研究グループでは述べている。
研究は、横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Primary Care」に掲載された。
また、研究者らのウェブサイトから、PCPCMの日本版をダウンロードできることに加えて、研究室のウェブサイトで、日本版使用マニュアルを配布し、今後の利用に役立てもらうことを計画している。
横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻
プライマリケア・リサーチユニット (金子惇研究室)
PCPCM日本版使用マニュアルを作成しました
Development and validation of a Japanese version of the Person-Centered Primary Care Measure (BMC Primary Care 2022年5月10日)