75歳以上の2型糖尿病、DPP-4阻害薬よりもSGLT2阻害薬で死亡・透析リスクが低い可能性 日本国内の大規模ビッグデータ解析

SGLT2阻害薬は心不全や腎疾患のリスクを低下させることが示されてきたが、これまでの試験の多くはプラセボとの比較であり、75歳以上を対象として設計されたものではなかった。これに対してDPP-4阻害薬は、日本の高齢者の日常診療で広く使われている。75歳以上の高齢者では、糖尿病に加えて、心疾患、腎機能低下、脳卒中、フレイルなど複数の健康問題を抱えることが多いため、ランダム化臨床試験に含めることが難しく、これら2剤を直接比較した科学的根拠は限られていた。
そこで研究グループは、日本の自治体が保有する医療・健診情報を統合した500万人規模の大規模医療データベース(LIFE Study)に蓄積されたリアルワールドデータを用い、標的試験エミュレーションの手法により、SGLT2阻害薬を開始した場合とDPP-4阻害薬を開始した場合を分析した。
本研究では、LIFE Studyに含まれるレセプト(診療報酬明細書)、病名情報、薬剤処方、入院、死亡、健診・検査情報を連結したデータを解析した。対象期間は2014年4月から2024年9月までで、19自治体、約505万人の住民情報が含まれている。解析対象は、75歳以上の2型糖尿病患者のうち、過去12か月間にSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬の使用がなく、いずれかの薬による治療を新たに開始した人とした。治療開始時の健診情報が利用できることを条件とし、すでに末期腎不全または透析中の人、活動性のがんがある人、緩和ケアを受けている人などは除外した。最終的に、SGLT2阻害薬群2,204人、DPP-4阻害薬群6,282人の計8,486人が対象となり、追跡期間の中央値は3.0年であった。
その結果、SGLT2阻害薬を開始した群では、DPP-4阻害薬を開始した群に比べ、全死亡のリスクが相対的に約32%低かった(HR 0.677、95%CI 0.500~0.916)。また3年間の死亡リスクは、SGLT2阻害薬群で5.0%、DPP-4阻害薬群で8.7%であり、3.7ポイントの絶対差であった(仮想的治療必要数〔NNT〕27.0、95%CI 17.9~55.6)。また、末期腎不全または透析導入のリスクは、SGLT2阻害薬群で相対的に約63%低かった(HR 0.374、95%CI 0.157~0.890)。ただし、発生件数は多くないことから研究グループは、推定値の大きさについては慎重な解釈が必要であるとしている。心不全による入院と心筋梗塞については、主要解析で両群の間に明確な差は認められなかった。脳卒中については、治療開始時の選択に基づく主要解析ではHR 1.420、95%CI 1.165~1.828であったが、当初の薬を継続した場合を想定した解析では、HR 1.110、95%CI 0.866~1.424まで縮小し、明確な差は認められなかった。
安全性については、重症低血糖や尿路感染症に明確な差は認められなかった。一方、当初の薬を継続した場合を想定した解析では、性器感染症がSGLT2阻害薬群で多く観察され、従来から知られているSGLT2阻害薬の副作用と整合する結果であった。
研究グループは本研究の意義として、1)これまで臨床試験で十分な科学的根拠を得ることが難しかった75歳以上の2型糖尿病患者に焦点を当てた点、2)SGLT2阻害薬をプラセボと比較したのではなく、日常診療で高齢者に広く使用されているDPP-4阻害薬と直接比較した点、3)約500万人規模の医療データ基盤と、標的試験エミュレーションという統計的因果推論の方法を組み合わせた点、を挙げている。
一方で本研究の限界として、大規模な診療データを用いた観察研究であり、ランダム化臨床試験ではないことを挙げている。具体的には、統計学的に多数の背景要因を調整しているものの、フレイル、身体機能、服薬状況、血管病変の重症度、医師が薬を選んだ理由など、データに含まれていない要因の影響を完全に取り除くことはできないこと、腎機能、喫煙、飲酒など一部の情報には欠測があり、診療報酬データに基づく病名やアウトカムの誤分類もあり得ることを指摘している。また、LIFE Studyに参加する自治体のデータに基づくため、日本全体や海外の患者にそのまま当てはまるとは限らないとしている。
本研究は、統計数理研究所/総合研究大学院大学 野間久史教授、横浜市立大学医学部 後藤温教授、九州大学大学院医学研究院 福田治久准教授らの研究グループが実施したもので、研究成果が2026年8月19日付で「Age and Ageing」にオンライン掲載された。



