チルゼパチド、心血管疾患合併2型糖尿病のMACEリスクを32%低減

チルゼパチドにおける心血管イベント抑制効果は、SURPASS-CVOT試験でデュラグルチドに対するMACEの非劣性が示されたものの、アクティブ対照薬との比較のみでは現行の標準治療に上乗せした場合の絶対的なリスク低減効果の程度が十分解明されていなかった。そこで研究グループは、RCTを再現する臨床実態データ解析手法(RCT-DUPLICATE)に基づき、心血管作用が中立的なDPP-4阻害薬シタグリプチンをプラセボの代替として設定し、チルゼパチドのMACE低減効果を直接評価した。
解析には米国の2つの医療保険データベース(Optum Clinformatics、Merative MarketScan、2022年5月~2025年5月)を使用し、40歳以上の2型糖尿病かつ動脈硬化性心血管疾患(ASCVD〔心筋梗塞、虚血性脳卒中、血管再建術などの既往〕)を有する患者52,971例(チルゼパチド群35,353例、シタグリプチン群17,618例)を同定した。傾向スコア・オーバーラップウェイト法により、年齢、性別、BMI、併存疾患、併用薬(スタチン、SGLT2阻害薬、インスリン等)などの背景因子を調整した。調整後の解析対象は各群7,442例(平均年齢69.8歳、女性50.8%)となり、主要特性は完全に均衡した。追跡期間は最長1年とし、主要評価項目であるMACE(心筋梗塞、脳卒中、全死亡)のon-treatment解析を行った。
加重後の1年MACE発現率は、チルゼパチド群2.9%に対しシタグリプチン群4.4%であり、リスク差は-1.4%(95%CI -2.1%~-0.7%)、ハザード比(HR)は0.68(95%CI 0.58~0.80)と、チルゼパチド群で有意に低かった。1年時点の治療必要数(NNT)は70であった。累積発現率は投与開始3か月以内に乖離し始めた。
個別の評価項目では、心筋梗塞(HR 0.67、 95%CI 0.52~0.87、NNT 130)および全死亡(HR 0.55、 95%CI 0.42~0.72、NNT 122)で有意なリスク低下が認められたが、虚血性脳卒中(HR 0.91、95%CI 0.64~1.28、NNT 2500)には有意差を認めなかった。また、感染症関連死亡(HR 0.40、95%CI 0.26~0.61、NNT 200)、ならびに、広範な複合エンドポイント(心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、不安定狭心症〔HR 0.92、95%CI 0.85~0.99、NNT 72〕)においても有意なリスク低下が認められた。
安全性の評価項目では、入院を要する感染症のHRが0.64(95%CI 0.55〜0.75、NNT 48)、あらゆる医療現場での感染症は0.83(95%CI 0.78〜0.87、NNT 19)、尿路感染症は0.83(95%CI 0.76〜0.91、NNT 55)と、いずれもチルゼパチド群で低かった。消化器系有害事象には有意差はみられなかった(HR 1.00、95%CI 0.79〜1.27)。陰性対照アウトカムとして設定された腰部神経根症(HR 1.03、95%CI 0.93〜1.15)と腹壁ヘルニア(HR 0.93、95%CI 0.83〜1.06)にも群間差はなく、交絡調整の堅牢性が裏付けられた。
以上の通り、本研究では、ASCVD合併2型糖尿病患者の標準治療にチルゼパチドを追加することで、心血管作用が中立的なプラセボ代替薬・シタグリプチンを追加した場合と比較して、MACEの32%のリスク低下が示された。
なお研究グループは、本研究結果について、感染症関連の有害事象が減少していたことから、観察された心血管ベネフィットの一部は動脈硬化以外の生物学的機序による可能性があるとしている。一方で、追跡期間が1年間と短く実治療期間の中央値が半年に満たない点、シタグリプチンをプラセボの代替として用いている点、請求データに基づく残存交絡の可能性がある点を研究の限界として挙げ、特に全死亡に関する結果は慎重に解釈すべきだとしている。


