生成AIを活用した「医師の働き方改革」の実証実験を実施 書類作成業務の時間を最大1/3まで軽減 医療DXを推進
医師の退院時サマリー作成業務が最大1/3にまで短縮 年間約540時間の作業時間削減
2024年4月に「医師の働き方改革」が施行され、医師の時間外労働時間に上限が設けられることを受け、各医療機関ではDXの推進や医師の業務の一部を他の医療従事者へ移管する「タスクシフト」など、さまざまな手法での効率化が進められている。
そこでUbie(ユビー)と恵寿総合病院(石川県七尾市)は共同で、2023年12月1日~29日に、同病院での生成AI活用に関する実証実験を行った。実験は、2024年4月施行の「医師の働き方改革」に向け、院内全体の業務効率化を目指すもの。
その結果、医師の退院時サマリー作成業務では、業務時間を最大1/3に削減するなど、効率化の成果を得た。また、看護師やタスクシフトで医師の業務を担う事務スタッフの業務に関して効率化が見込まれるなど、生成AI(LLM)の活用が院内全体の業務効率化に寄与する可能性が示された。
今回の実証実験の主な成果は次の通り――。
- 平均5分の短縮が見込まれ、年間約6,500人の患者が退院、転出により年間約540時間の医師の作業時間削減の可能性が示された。
- 看護師の退院時看護要約作成業務や医療事務スタッフによる退院サマリー作成、主治医意見書・診療情報提供書作成補助業務でも作業時間削減の効果がみられ、院内全体の業務効率化に寄与した。
恵寿総合病院は能登地域唯一の地域医療支援病院であり、医療DXを積極的に推進し、日本の先端病院として医療の質向上と職員の働き方改革・健康経営に取り組んでいる。
また、Ubieは2018年より医療機関の業務を効率化する問診サービス「ユビーメディカルナビ」を提供。
「ユビーメディカルナビ」は、紙の問診票のかわりにスマートフォンやタブレットを活用し、医療機関の業務効率化をはかる問診サービス「ユビーAI問診」や、認知向上をサポートする「ユビーリンク」などで構成される。医師は、文章に翻訳された問診内容と病名辞書の結果を活用することで、電子カルテ記載にともなう事務作業を大幅に削減できるとしている。
同社は2023年には、医療・ヘルスケア領域での生成AIなどのイノベーションと安全性の両立を目指す研究組織「Ubie Lab」の設立や、クリニックを対象にユビーメディカルナビでの生成AIを活用した「問診要約機能」の提供など、医療現場のDX・業務効率化に取り組んでいるとしている。
今回の実証実験は、他業種で急速に利用が広がる生成AIを、倫理的観点・安全性を最大限考慮しながら医療現場で活用し、医師をはじめとする医療従事者の業務効率化・負担軽減の可能性を模索することを目的に実施したもの。
実験では恵寿総合病院で導入されている「ユビーメディカルナビ」内に生成AI(LLM)を活用できる機能を実装し、医師・看護師・事務などPJTメンバー15人が、どのような業務に生成AIを用いることで効果的な効率化が見込まれるのかを検証した。
その結果、なかでも平均在院日数10日分の患者の病状や治療の経過、今後のケアについて記録する「退院時サマリー」業務は、あらかじめプロンプト(生成AIへの指示)を設定し、必要な情報を読み込ませ要約させることで、生成AIが指示にそった形式でサマリーを作成。
医師はその情報に問題がないか確認し、必要に応じて修正を加えるという流れにより、作業時間が最大約15分から5分と1/3にまで短縮し、その効果を確認した。平均すると5分の短縮が見込まれることから、全病棟で年間約6,500人の患者が退院、転出する恵寿総合病院では、この効率化により年間で540時間の医師の作業時間削減を実現できる可能性が示されたとしている。
また、次の受け入れ先(施設・在宅・他病棟など)での継続的な看護を目的に、看護師が患者の看護の経過、退院後のケアについてまとめる「退院時看護要約」では、最大1時間かかっていた作業時間を15分に短縮できたケースも確認された。
さらに、同じく業務効率化に寄与する可能性があることが確認された医療事務スタッフによる「退院サマリー」「主治医意見書」「診療情報提供書」の作成補助業務は、医療機関の規模や体制によっては医師が直接作成ケースもあることから、生成AIの医療現場での活用は、医師の働き方改革に直接的にも間接的にも寄与できることが期待できる結果となった。
「医師の働き方改革は、医療現場全体の働き方そのものを見直す契機となっています。ですが、単に時間を短縮するのでは、医療の質が落ちてしまう、もしくは時間当たりにやらねばならぬ仕事量が増えてしまい、かえって「働きづらい改革」になってしまう可能性があります。医師を含めた全ての職種がそれぞれ本来業務により専念できるようになるためには、生産性・効率性を上げていくことが重要ではないでしょうか。そのためには生成AIを含めたテクノロジーの活用は欠かせないと考えています」と、恵寿総合病院の神野正隆理事長補佐はコメントしている。
「当院は2024年の年始に被災しましたが、働き方改革を単なる労働時間の調整だけでなく、自身の専門性を活かしながら地域の皆さまの健康、医療に貢献できる、"働きがい改革"とするために、新しい取り組みの手を緩めることなく、今後も積極的なチャレンジを続けてまいります」としている。
「実証実験を引き続き行い、2月からは医師を含めた院内スタッフ最大800人が生成AIを活用し、さらなる業務効率化への可能性を模索していく予定です。両者は今後もテクノロジーを活用した業務効率化と医療のさらなる質向上の両立を目指し、医療現場での生成AI(LLM)のより実践的な活用を推進してまいります」と、同社では述べている。
社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院
ユビーメディカルナビ (Ubie)
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