運動アプリが医療従事者のメンタルヘルスを改善 スマホアプリ導入は障壁の低い介入に
運動アプリの使用により医療従事者のうつ症状が41%減少
運動アプリを利用した簡単な12週間の自宅トレーニングは、医療従事者や専門職のストレスやうつ症状を軽減するのにも効果的という研究を、カナダのブリティッシュコロンビア大学が発表した。研究成果は、「JAMA Psychiatry」に掲載された。
「新型コロナのパンデミックにより、医療従事者は過去3年間に、非常に困難な状況におかれた。多くの医療従事者でメンタルヘルスの大幅な低下が報告された。燃え尽き症候群になる前に、プラスの効果をもたらす低コストの介入を行うことが求められている」と、同大学運動学部研究員のVincent Gosselin-Boucher氏は言う。
研究グループは今回、2022年4月~7月にブリティッシュコロンビア州の都市部の医療機関からスクリーニングされた平均年齢41.0歳の288人の医療従事者を対象に、12週間のアプリベースの運動介入による、無作為化臨床試験を実施。医療従事者のうつ症状、燃え尽き症候群(burnout)、欠勤をどの程度軽減できるかを検討した。
介入群は「Down Dog」と呼ばれる無料の家庭用運動アプリを使用。自重インターバルトレーニング、ヨガ、ウォーキング、ランニングなど、20分間で1セットの運動に週に4回(週に80分)、12週間取り組んだ。対照群は待機リストに登録されただけで運動アプリを使用しなかった。
その結果、介入群はうつ症状が有意に減少した。Feingold effect sizeによるうつ症状の判定では、介入群は試験終了時までに小から中程度の範囲に低下[-0.41、95%CI -0.69~-0.13]。燃え尽き症候群の2つの側面についても一貫して優位な効果が認められた[冷笑主義:-0.33、95% CI -0.53~-0.13、感情的疲労:-0.39、95%CI -0.64~-0.14]。欠勤も減少した[0.15、95%CI 0.03~0.26]。
なお、参加者のうち、246人(85.4%)が女性で、多くは看護師だった。試験終了までに定期的にアプリを使用していた参加者はわずか33人(23%)だった。
運動アプリを使用した自宅でできるトレーニングは効果がある
「運動アプリを使用した自宅でできる簡単なトレーニングは、医療従事者のうつ症状を軽減するのに有用であることが示された。スマホなどの運動アプリは、世界的に増えているうつ病などのメンタルヘルス危機に対策するための効果的な主要なツールになる可能性がある」と、同大学運動学部の身体活動・医療研究委員長のEli Puterman氏は言う。
研究者は、新型コロナのパンデミックが医療スタッフのメンタルヘルスに及ぼした影響に対処するために、世界中の医療機関が提供したメンタルヘルスへの取り組みには、運動などの行動的アプローチが欠けていたことを指摘している。
一方で、運動アプリに取り組んだ介入群で、運動の遵守率が低かった点については、「今回の研究は、運動アプリの提供などの、障壁の低い介入の可能性を示すものだが、同時に運動の継続を妨げる要因についても解明する必要がある」と付け加えている。
「今後は、運動療法を支えるフィットネスコーチなどが加わり、参加者のモチベーションを上げる支援を行うことで、運動習慣を定着させる介入を行う必要がある。こうした運動指導による、精神と身体、さらには経済的な影響に焦点を当てた長期的な試験を計画している」と、Puterman氏は述べている
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