コロナ禍での熱中症対応を指南
新型コロナの蔓延を防ぐため、3密(密集、密接、密閉)を避け、2mの身体的距離の確保、十分な室内換気、マスクの着用などを、多くの人が日常生活に取り入れている。
しかし、これらは熱中症予防や治療の観点から注意が必要となる。たとえば、▼室内換気と室内温度の上昇、▼マスクの着用と熱中症の発生リスク、▼外出自粛にともなう独居高齢者の孤立など、感染予防と熱中症予防の両立が難しい場合もある。
さらに、新型コロナも熱中症も、発熱や高体温が症状であるため、即座に鑑別するのが難しく、救急医療を逼迫させてしまう可能性もある。
そこで、日本救急医学会は「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き」を作成した。
救急救命士や看護師などを含む救急医療職を中心とする日本臨床救急医学会、感染症エキスパートの学術団体である日本感染症学会、呼吸器病学専門家の学術団体である日本呼吸器学会と合同で「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ」を設立。各専門学術分野からの意見や、エキスパートオピニオンをとりいれたという。
マスクを外しただけでは十分な対策にならない
「手引き」では、熱中症対策として、下記のように、「マスクを外しただけでは十分な対策にならない」「エアコンを利用し、室温をこまめにチェックする必要がある」「熱中症と新型コロナの症状の区別は難しい」といった注意点を指摘している。
・ マスクを外しただけでは十分な熱中症対策にならない
マスク着用のみにより、体温が上がったり、熱中症の発症が多くなるわけではなく、「マスク着用にかかわらず、暑熱環境での運動が深部体温に及ぼす影響は大きい」と注意を促している。
「マスクを着用しなかったからといっても、暑熱環境では熱中症のリスクが十分に軽減されるわけではないと解釈して、とくに暑熱環境で運動をする場合や高齢者や小児、肺疾患がある傷病者は、エアコンや水分補給などの熱中症対策は継続するべき」としている。
・ 換気しただけでは不十分 エアコンを利用し、室温をこまめにチェックする必要が
換気することで室内の温度がどの程度上昇するかの明確なエビデンスはないので、「室温をこまめに測定しながら、エアコンの温度設定を調整していくことが望ましい」としている。
熱中症弱者である高齢者を対象とした疫学研究では、温湿度を可視化することで、行動変容が起こりやすく、対象者の60%にエアコンの利用に変化がみられたという報告がある。室温をこまめにチェックすることは大切だ。
なお、環境省が推進している「COOLBIZ」は、室温を28℃としても快適に過ごせる軽装や取り組みを促すライフスタイルを提案しているものであり、エアコンの設定を28℃に設定することを推奨するものではないとしている。「身体に負荷がかかるような環境では、室温を28℃より低めに設定することも考慮するべきである」としている。
「エアコンの設定温度」=「室内温度」とはならないことに留意し、暑さ指数(WBGT)を意識して、エアコンで温度と湿度を管理するとともに、日差しを遮ることやサーキュレーター、扇風機を併用して快適な環境づくりをすることを勧めている。
・ 熱中症と新型コロナの症状の区別は難しい
熱中症と新型コロナは、いずれも多彩な全身症状を呈するため、臨床症状のみから鑑別は困難としている。しかし、「熱中症での筋痙攣、新型コロナでの鼻汁・咽頭痛・咳嗽・くしゃみ・嗄声・嗅覚障害などの症状は両者の鑑別の一助となる」としている。
・ 新型コロナの可能性がある熱中症患者はどうすれば良い?
新型コロナの可能性がある熱中症患者に対応する場合、「通常の感染対策を行ったうえで、蒸散冷却法を用いた積極的冷却を行ってもよいが、各施設で迅速に使用できる冷却法を選択するのが望ましい」としている。
急速で効果的な冷却が、熱中症で予後を改善すると考えられている。重度の熱中症患者に対し、液点滴のみで治療した患者と、液点滴に積極的冷却法を併用した患者の予後を比較した研究では、積極的冷却法の併用が院内死亡率の低下と関連していた。
熱中症患者に対する積極的冷却法には、胃洗浄、膀胱洗浄、血管内冷却、腎代替療法、体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた体内冷却法と、蒸散冷却法、冷水浸漬、冷水シャワー、氷嚢などでの局所冷却、クーリングマットなどの冷却装置を用いた体外冷却法がある。
一般社団法人 日本救急医学会
[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]