腎機能が低下していると脳出血急性期の積極的な降圧は死亡・高度機能障害を増加させるリスクが 国立循環器病研究センター

2021.07.07
 国立循環器病研究センターは、国際共同試験「ATACH-2」にもとづく副次解析の結果を発表した。
 脳出血発症時に腎機能低下を認めた群では、腎機能が正常であった群と比べて、脳出血発症後の機能回復が不良であることが示された。
 また、腎機能低下群では、脳出血急性期の積極的な降圧は、発症3ヵ月後の死亡または高度機能障害を増加させる可能性があることが示された。

急性期の積極的な降圧は脳出血臨床転帰を改善するか?

 脳出血は、日本の脳卒中全体の約2割を占める重大な国民病であり、有効な治療法の確立が待たれる疾患のひとつ。効果が期待される治療法として、発症早期の積極的降圧療法がある。

 国立循環器病研究センターの研究グループは、研究者主導の国際共同試験「ATACH-2」を実施している。同試験では、急性期の積極的な降圧が脳出血臨床転帰を改善するかを調べるため、発症から4時間半以内の脳出血患者を、積極降圧群(収縮期血圧110~139 mmHg)と標準降圧群(140~179 mmHg)とに無作為に割付け、24時間、目標血圧範囲を維持した。

 試験の主要評価項目である3ヵ月後の死亡または高度機能障害の割合(modified Rankin Scaleの4~6に相当)は、両群とも約38%で有意差が認められなかった。この成果は2016年に「New England Journal of Medicine」に掲載された。

 modified Rankin Scaleは、脳卒中患者の自立度の尺度であり、0(無症状)~6(死亡)の7段階で評価し、4~6は要介護状態を示す。

積極降圧群でより多くの腎有害事象を認める

 試験全体では、脳出血患者での積極降圧療法の有用性は示されなかったが、一方で積極降圧群ではより多くの腎有害事象が認められた(積極降圧群:9.0%、標準降圧群4.0%)。

 そこで今回の副次解析では、試験参加者で、脳卒中発症時の腎機能が、臨床転帰や積極降圧療法の有効性・安全性に影響を及ぼすかを調べた。

 研究は、国立循環器病研究センターの福田真弓データサイエンス部室長(脳血管内科併任)、豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らの研究グループが海外研究者と共同で行ったもの。研究成果は、「Neurology」にオンライン掲載された。

腎機能が低下していると、積極的降圧療法は死亡・高度機能障害のリスクを上昇させる

 ATACH-2試験に登録された1,000例(うち日本人288例)の発症時腎機能の指標として、CKD-EPI式を用いて推算糸球体濾過量(eGFR)を算出した。

 解析対象974人のeGFRの中央値は88(四分位範囲: 68、99)mL/min/1.73m²だった。腎機能低下(eGFR 60mL/min/1.73m²未満)を160人(16.4%)に認めた。腎機能低下群は、脳出血発症3ヵ月後の死亡または高度機能障害のリスクが有意に高いことが示された。

腎機能と脳出血3ヵ月後の死亡または高度機能障害のリスク
出典:国立循環器病研究センター、2021年

 また、積極的降圧療法の効果は、発症時の腎機能によって異なり、腎機能低下群では、積極降圧療法を受けたグループは、標準降圧を受けたグループに比べ、発症3ヵ月後の死亡または高度機能障害のリスクが上昇することが示された。

腎機能と積極降圧療法と標準降圧療法のリスク
出典:国立循環器病研究センター、2021年

腎機能障害を有する患者の適切な降圧目標を解明する必要が

 腎機能低下が慢性的に続く慢性腎臓病(CKD)は、全世界的に増え続けており、日本でも成人の8人に1人がCKDといわれ、新たな国民病として注目されている。CKDは放置すると、末期腎不全となり人工透析や腎移植を受けなければ生存できなくなるだけでなく、CKDがあると、心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患にかかりやくくなることが知られる。

 今回の検討では、脳出血発症時に腎機能低下を認めた群では、腎機能が正常であった群と比べて、脳出血発症後の機能回復が不良であることが示された。また、腎機能低下群では、脳出血急性期の積極的な降圧は、発症3ヵ月後の死亡または高度機能障害を増加させる可能性があることが示された。

 慢性的な高血圧は、腎臓と脳のいずれの血管にもダメージを及ぼし、それぞれの臓器で血流を一定に保とうとする力(自動調節能)を障害することが知られている。

 「腎障害を有する患者での脳出血急性期の過度の降圧にともなう影響の詳細なメカニズムや、腎機能障害を有する患者への適切な降圧目標については今後の検討が必要となる」と、研究グループでは述べている。

 ATACH-2試験では、他にも多くの副次解析が計画・実施されており、国立循環器病研究センターもそのいくつかを担当している。「今後のさらなる検討を経て、真に有効な急性期脳出血治療法が解明されることが期待される」としている。

国立循環器病研究センター
Impact of renal impairment on intensive blood pressure lowering therapy and outcomes in intracerebral hemorrhage: Results from ATACH-2(Neurology 2021年7月1日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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