慢性腎臓病(CKD)の複雑病態を全国入院データ解析ではじめて可視化 CKDに対し早期から集学的診療を

2021.11.10
 東京医科歯科大学は、全国規模の実態調査により、「入院契機疾患・直接死亡原因の不一致」の実態をはじめて明らかにした。

 この病名不一致率は、病院施設規模の影響を受けず、病名登録行動・入院時の診断精度が全国的におおむね均一であることが分かり、観察した4年間の間にも入院時の診断精度の向上がみられた。

 さらに、病名不一致に関わる基礎疾患や因子を解析し、慢性腎臓病(CKD)が強力に影響すること、さらには疾患カテゴリーの変遷を可視化する事でCKD、末期腎不全でリスクの高い疾患変遷が分かった。

 非CKD患者では病名不一致の割合が少ないことから、腎機能が低下しはじめた早期から、食事・運動療法、薬物治療を含めた集学的診療が重要であることがあらためて示された。

腎臓病による不一致率増加と背景の複雑病態を解明 DPC解析で全国調査をはじめて実施

 慢性腎臓病(CKD)は、糖尿病、高血圧症に代表されるさまざまな疾患で発症し、1,300万人を超える日本人が罹患していると推計される。自覚症状があらわれにくく、静かに進行するため、通常は血液検査や尿検査を行わないと診断できない。CKDが進行すると、末期腎不全となり透析療法を必要とするだけでなく、心筋梗塞、脳卒中、高血圧や感染症、サルコペニア(骨格筋の萎縮と筋力低下)に罹患しやすくなることが知られている。

 CKDはさまざまな疾患が悪化する背景に潜んでおり、病態が複雑化することで、入院リスクの増加、多剤の内服薬服用につながる可能性が指摘されている。

 とくに、急性期の入院医療現場では、入院時点ですべての複雑な併存症を診断することが難しいことも多く、入院後の検査によって正確な病名診断を進めていく必要がある。また、入院後に発生、悪化する病態もあるため、日頃多くの診療医が入院契機疾患と直接死亡原因の不一致を経験している。それを示した客観的データはこれまでになかったが、今回の全国規模の実態調査によりはじめて明らかになった。

 今回の研究では、全国の調査参加病院から収集された、入院患者に関する大規模データベースである「DPCデータベース」を解析した。これは、退院時情報や診療報酬データなどから構成され、診断名・入院時併存症および入院後の合併症とそれらのICD-10コード、手術処置名、在院日数、退院時転機、費用などの情報が含まれる、多面的なデータベースだ。

 研究グループはDPC入院データベースを解析し、病名不一致に関わる基礎疾患や因子を解析することを目的に、入院契機疾患・直接死亡原因の不一致率の全国規模の実態調査をはじめて実施した。

 全国8,000以上の病院施設のうち、DPC調査参加病院は5,000病院を超え、現在60%を超える入院症例を網羅している。同研究は2012~2015年の4年間で、約64万人の解析を行った。

 研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野(茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授)の頼建光教授、同腎臓内科学分野(東京医科歯科大学病院血液浄化療法部助教)の萬代新太郎助教、大学院医歯学総合研究科医療政策情報学分野の伏見清秀教授の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」にオンライン掲載された。

病名不一致率はCKD患者では30.3% 末期腎不全患者では41.6%

 その結果、入院契機疾患・直接死亡原因のICD-10病名コードの平均不一致率は、非CKD患者でも25.7%と高い水準だった。CKD患者では30.3%、透析療法を要する末期腎不全患者では41.6%と、それぞれさらに上昇した。

 さらに、いずれのグループでも、病院施設規模の大小にあまり影響されず、診療医のDPC病名登録行動や入院時の診断精度は、日本国内でおおむね均一の水準であることが明らかになった。また、観察した4年間の間に病名不一致率は年々低下しており、入院時の診断精度が全国的に向上していることが示された。  病名不一致に関わる基礎疾患や因子をロジスティック回帰分析で解析したところ、年齢増加、男性、BMIの増加、緊急入院、基礎疾患合併スコアの増加が関連することが判明。基礎疾患のなかでも、CKD、末期腎不全が強力に影響することが明らかになった。

出典:東京医科歯科大学大学、2021年

CKD、末期腎不全では心血管病や心不全、感染症による死亡率が増加

 ICD-10コードをもとに7つの疾患カテゴリーを作成し、入院中の疾患変遷を解析した結果、非CKD患者では日本の一般統計と同様にがんで死亡する患者数がもっとも多いことも分かった。それに対しCKD、末期腎不全では心血管病やうっ血性心不全、感染症による死亡率の増加が目立った。

 さらに、入院時と異なる疾患カテゴリーに移行する割合が多いことが分り、CKD、末期腎不全でリスクの高い疾患変遷が可視化された。ロジスティック回帰分析を行うと、とくにCKDではうっ血性心不全への移行、末期腎不全では感染症への移行が多いことがそれぞれ示された手。この病名不一致により、いずれのグループでも在院日数の増加、診療費用の増加が確認された。

出典:東京医科歯科大学大学、2021年

腎機能低下の早期から食事・運動・薬物治療を含めた集学的診療の開始が必要

 今回の研究は、診療医が日頃、経験している入院契機疾患・直接死亡原因の不一致を、全国規模の実態調査ではじめて明らかにしたもの。従来指摘されてきた、CKDの複雑病態、特徴的な入院中の疾患変遷を可視化することができた。

 なお、救命しえなかった実症例の後方視的研究であるため、必ずしも病名不一致が入院診療の質を反映するものではなく、不一致を是正することが救命率の改善に直接つながるものではないと、研究グループは注意を促している。

 しかし、「CKDが他の疾患に増して、病名不一致、複雑病態を招きうる知見は、腎機能が低下しはじめた早期から、食事・運動療法、薬物治療を含めた集学的診療の開始が重要であることを再認識させる重要な結果と考えられ、CKDの最適な治療戦略を見出すことに寄与する可能性があります」と、研究グループでは述べている。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野
Burden of kidney disease on the discrepancy between reasons for hospital admission and death: An observational cohort study(PLOS ONE 2021年11月3日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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