糖尿病性腎症の原因物質「フェニル硫酸」を腸から糖の吸収を行う輸送体を阻害することで減少 東北大

2022.02.02
 東北大学は、糖尿病性腎臓病の原因物質である血液中の「フェニル硫酸」を、腸からの糖の吸収を行う輸送体「SGLT1」を特異的に阻害する「SGLT1阻害剤」を投与することで低下させ、腎機能を改善するのに、腎不全マウスを使った実験で成功したと発表した。

 SGLT1を特異的に阻害することで、腸からの糖吸収を抑制することが、血糖を下げてフェニル硫酸を低下させる重要な治療法となる可能性がある。

糖尿病性腎症の原因物質であるフェニル硫酸を減少する新たな治療法

 研究は、東北大学大学院医学系研究科および同大学院医工学研究科の阿部高明教授の研究グループによるもの。研究結果は、「Physiological Reports」に掲載された。

 「フェニル硫酸」は、食事に含まれるチロシンが腸内細菌によってフェノールに変わることにより生体内でできる代謝物。糖尿病患者の血中に多いことが知られ、腎臓のミトコンドリア機能を傷害することでアルブミン尿が出る原因となり、また腎臓の予後を予測するマーカーでもある。

 研究グループはこれまで、血中フェニル硫酸が糖尿病性腎臓病を悪化させることと、これを減らすことが透析導入を抑制する重要な治療法となる可能性について報告している。

 研究グループは今回、腸から糖を吸収する輸送体である「SGLT1」を阻害することで血糖降下作用を示すSGLT1阻害剤「SGL5213」を、腎不全マウスに投与すると、血中フェニル硫酸濃度が低下し、腎機能が改善することを明らかにした。

 SGLT1は、Na+グルコース輸送体で、体内でグルコースを吸収するトランスポーター。腎臓ではSGLT2が90%、SGLT1が10%の割合で糖の吸収を司り、腸管ではSLGT1が主にグルコースの吸収を行う。

 今回の研究により、SGLT1阻害剤を服用することでフェニル硫酸の産生が抑制され、糖尿病性腎症から腎不全への進展が抑えられる可能性が示された。

SGLT5213を腎不全マウスに投与することで、フェニル硫酸、トリメチルアミン-N-オキシドの血中濃度が低下し腎機能(BUN、Cr)が改善した
出典:東北大学、2022年

フェニル硫酸は腸から糖の吸収を行う輸送体を阻害することで減少できる

 阿部教授の研究グループはこれまで、(1) 腸内細菌が産生に関わるフェニル硫酸が糖尿病性腎臓病の原因物質のひとつであること、(2) 糖尿病患者を対象にしたヒトの臨床研究の結果から、フェニル硫酸は糖尿病性腎臓病増悪の予測因子であること、(3) フェニル硫酸産生を抑えるとアルブミン尿と腎機能が改善することから、フェニル硫酸を低下させることが糖尿病性腎臓病の新たな治療法開発のターゲットとなりうることを報告してきた。

 また、腎臓病や糖尿病では腸内細菌叢の変化が起こり、フェニル硫酸などの毒素が蓄積することが知られており、その是正が新しい糖尿病性腎症の治療法となりうると考えられる。

 腸内では、いわゆる善玉菌の栄養源となる食物繊維やグルコースが増えると、善玉菌の働きが強化され、腎不全が改善することを、研究グループは動物実験で明らかにしている。その一方で、糖尿病性腎臓病での効果は確認されていなかった。

 腸管からのグルコースの吸収はSGLT1という輸送体が担っている。研究グループは、小腸上皮でのグルコース吸収を担うSGLT1の阻害は、グルコースの吸収を遅らせることで、血糖降下作用と腸内細菌由来の尿毒素の血中濃度の減少効果があると考えた。

 そこで今回、SGLT1阻害剤のひとつであるSGL5213を腎不全マウスに経口投与することで、腎不全時に上昇する腸内細菌由来の尿毒素であるフェニル硫酸と動脈硬化の原因物質である「トリメチルアミン-N-オキシド」の血中濃度が低下し、さらに腎機能(BUN、クレアチニン)が改善することを明らかにした。

 トリメチルアミン-N-オキシドは、食事中のコリンが腸内細菌によって変化してできる代謝物で、動脈硬化や腎不全の原因物質にひとつと考えられている。

 さらに、腸内細菌叢の解析からは、肥満などで増加するファーミキューテス菌とバクテロイデス菌の比率(F/B比)が腎不全でも増加することが示されているが、SGL5213の投与によりこれも低下することが分かった。

 フェニル硫酸は、その100%が食事中のアミノ酸(チロシン)から腸内細菌によって産生される代謝物で、産生酵素は腸内細菌のみが保有している。近年、糖尿病性腎症と診断された2型糖尿病患者と健常な人について、糞便のメタゲノム解析によって腸内細菌叢を比較した報告がある。

 腸内細菌のうち炭水化物発酵を主に行う善玉菌であるPrevotella属などにも明確な差異があることが報告されており、腸内細菌叢の乱れが糖尿病に関与する機序は注目されている。

 「フェニル硫酸は食事中のチロシンが、腸内細菌によって変換されて産生されます。したがって、糖尿病患者さんは、食事中の肉やチーズに含まれるチロシンを減らすことで、フェニル硫酸の産生を抑制することが可能と考えます。しかしながら、チロシンのみを料理や加工により食事から除くことは、非常に困難であり現実的ではありません。したがって、糖尿病性腎臓病患者さんに対しては、主にチロシンに着目した栄養指導とともに、SGL5213のような腸管でのSGLT1阻害を行うことで、糖尿病性腎症から腎不全への進展が抑えられる可能性が示唆されます」と、阿部教授らは述べている。

東北大学大学院医学系研究科・医学部
ムーンショット型研究開発事業(目標7):ミトコンドリア先制医療
GLT-1-specific inhibition ameliorates renal failure and alters the gut microbial community in mice with adenine-induced renal failure (Physiological Reports 2021年12月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料