新クラスの糖尿病治療薬「イメグリミン」がヒト膵β細胞を保護 小胞体ストレスを調節 β細胞の新たな保護メカニズムを解明

2021.10.20
 群馬大学などの研究グループが、ヒト膵β細胞の新たな保護メカニズムを解明したと発表した。新しいクラスの糖尿病治療薬である「イメグリミン」が、膵β細胞で小胞体ストレス応答を調節しβ細胞を保護し、ネガティブフィードバック機構を介してタンパクの合成(翻訳)を回復することを確かめた。この効果は、ヒトの膵島やヒトの多能性幹細胞由来の膵島でも認められた。

イメグリミンが膵β細胞の小胞体ストレスを変化 アポトーシスから防ぐ

 イメグリミンは、既存の経口血糖降下剤とは異なる新しいクラスの糖尿病治療薬で、ミトコンドリアへの作用を介して、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取込み能改善)の2つのメカニズムにより血糖降下作用を示す。

 糖尿病発症の原因のひとつは、膵臓の膵島にあるβ細胞の量が少なくなり、インスリンが不足すること。糖尿病の状態では、慢性的な高血糖や肥満にともなう脂肪酸(遊離脂肪酸)の増加、炎症や活性酸素の産生が過剰となる酸化ストレスなどにより、小胞体ストレスというストレス応答が引き起こされ、膵β細胞がアポトーシス(細胞死)に至ることが知られている。β細胞をストレスから守る糖尿病の治療法開発が求められている。

 研究グループは今回、イメグリミンが膵β細胞に与える影響について詳細に解析した。その結果、小胞体ストレスを変化させることにより、タンパク質の合成(翻訳)を回復させ、膵β細胞をアポトーシス(細胞死)から防ぐことを明らかにした。

 興味深いことに、イメグリミンは小胞体ストレスで誘導されるタンパク質を一過性に上昇させることにより、ストレス応答を負に帰還して制御(ネガティブフィードバック)することも分かった。

 この膵β細胞保護作用は、マウスの膵島や糖尿病モデルマウスで作用するだけでなく、ヒトの膵島やヒト多能性幹細胞由来の膵島でも認められた。

 研究は、群馬大学生体調節研究所のLi Jinghe研究員、白川純教授らの研究グループが、横浜市立大学、アルバータ大学、シンガポール国立大学、徳島大学などの共同で行ったもの。研究成果は、米国糖尿病学会が発行する医学誌「Diabetes」に掲載された。

イメグリミンは膵β細胞で小胞体ストレス応答を調節し膵β細胞を保護する

出典:群馬大学生体調節研究所、2021年

ヒト膵島でもβ細胞のアポトーシスの抑制効果を認める ヒト多能性幹細胞由来の膵島で確認

 小胞体ストレスは、統合的ストレス応答(ISR)と呼ばれる細胞の生存や維持に重要な役割を果たしており、糖尿病だけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や脂肪肝、心筋梗塞、動脈硬化、がんの増殖や転移、さらには腎臓病など、非常に多くの疾患の引き金となることが分かっている。

 研究グループは今回、新たな糖尿病治療薬であるイメグリミンの膵β細胞への影響を解析し、インスリン分泌や膵β細胞の増殖を改善するだけでなく、膵β細胞の生存を高めることを明らかにした。

 イメグリミンにより膵β細胞のなかでどのような変化が起きているのか知るため、遺伝子の発現を解析したところ、小胞体ストレスに関連する遺伝子の発現が上昇していることを見出した。

 これまでCHOPタンパク質は、小胞体ストレスでアポトーシスを引き起こす遺伝子として知られていたが、興味深いことにイメグリミンはCHOPタンパク質を上昇させることにより、膵β細胞のアポトーシスを抑制していることが分かった。

 これらの機序を詳しく解析したところ、CHOPタンパク質の一過性の上昇が、GADD34タンパク質の上昇およびeIF2αタンパク質のリン酸化を元に戻す脱リン酸化を引き起こすことが分かった。小胞体ストレスでは、eIF2αタンパク質がリン酸化されてタンパク質の合成(翻訳)が抑制されることが細胞死を引き起こす原因とされている。

 イメグリミンは、CHOPタンパク質とGADD34タンパク質を介して、負の帰還制御(ネガティブフィードバック)によりeIF2αタンパク質を脱リン酸化し、タンパク質の翻訳を回復させ膵β細胞を生存させるという新たな効果が示された。

 以前は、マウスやラットなどの動物モデルの膵島を用いた糖尿病治療研究が世界中で主流だったが、最近になりヒトと動物モデルの膵島ではさまざまな点で異なっているということが分かってきており、糖尿病治療に向けてはヒトの膵島を用いた研究を行うことが重要とされている。しかし、日本でヒトの膵島を研究に使用することは困難だ。

 そこで、群馬大学生体調節研究所の白川純教授らのグループは、海外から膵島移植で余った膵島を輸入して研究に使用し、またiPS細胞などのヒト多能性幹細胞由来の膵島も研究に使用している。今回の研究でも、イメグリミンの膵β細胞保護効果をマウスの膵島や糖尿病モデルマウスだけでなく、ヒトの膵島やヒト多能性幹細胞由来の膵島でも確認した。

 「今回の研究によって、ヒト膵β細胞の新たな保護メカニズムが明らかとなり、糖尿病の治療法開発や再生医療の発展に貢献すると思われます。ヒト膵島でも効果が認められたことから、実際の糖尿病治療へ応用できる可能性が示され、またヒト多能性幹細胞由来の膵島での効果により膵島の再生医療に役立つことが期待されます」と、研究グループでは述べている。

群馬大学生体調節研究所
生体調節研究所代謝疾患医科学分野
Imeglimin ameliorates β-cell apoptosis by modulating the endoplasmic reticulum homeostasis pathway(Diabetes 2021年9月29日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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