SGLT2阻害薬が2型糖尿病患者の全身性炎症を軽減 骨格筋内脂肪は糖尿病リスクを高める 米国内分泌学会(ENDO 2024)ダイジェスト(2)

2024.06.19
 米国内分泌学会年次学術集会2024(ENDO 2024)が、2024年6月1日~4日にボストン コンベンション センターで開催された。糖尿病関連の発表のダイジェストをご紹介する。

  1. SGLT2阻害薬が心不全の既往のない2型糖尿病患者の全身性炎症を軽減
  2. 骨格筋内脂肪(IMAT)は老化を促し2型糖尿病や筋肉減少のリスクを高める
  3. 糖尿病性神経障害の患者では三環系抗うつ薬の処方が多い 認知症リスクを懸念
  4. アジア人は糖尿病前症の診断から1年後に2型糖尿病を発症するリスクが高い
  5. 1型糖尿病の小児患者の在宅のインスリンポンプ療法は安全
  6. 1型糖尿病は糖尿病の管理が良好であっても心臓病リスクは高い 「インスリン50年賞」受賞者を調査
  7. オンライン診療が糖尿病患者の医療へのアクセスを向上
  8. テストステロンが低下した65歳未満の男性は2型糖尿病リスクが高い
  9. 内胚葉幹細胞由来の膵島細胞を2型糖尿病患者に移植 インスリンから離脱 中国

SGLT2阻害薬が心不全の既往のない2型糖尿病患者の全身性炎症を軽減
 SGLT2阻害薬が糖尿病患者の心血管疾患の転帰を大幅に改善することが報告されているが、SGLT2阻害薬は全身性および心臓の炎症と心臓線維症に対する有益な効果を介して心臓疾患の転帰を改善している可能性があるという研究を、米ワシントン大学が発表した。
 心不全の既往のない平均年齢62歳の2型糖尿病の成人患者62人を対象に、ダパグリフロジン10mgを12ヵ月投与するランダム化比較試験を実施。全身性炎症を、IL-1B、TNFα、IL-6、ケトン体レベル、および無菌性炎症の新たなマーカーであるPBMCミトコンドリア呼吸によって評価した。
 その結果、ダパグリフロジン群に無作為に割り付けられた患者では、血漿IL-1Bが減少し[マイナス1.8 pg/mL、P =0.003]、ケトンは増加した[0.26mM、P =0.0001]。PBMC最大酸素消費率(OCR)は、プラセボ群では12ヵ月にわたり減少したが、ダパグリフロジン群では変化しなかった。これは、SGLT2阻害薬の抗炎症効果と一致する所見だとしている。
Dapagliflozin reduces systemic inflammation in patients with type 2 diabetes without known heart failure (Cardiovascular Diabetology 2024年6月7日)

骨格筋内脂肪(IMAT)は老化を促し2型糖尿病や筋肉減少のリスクを高める
 骨格筋の脂肪沈着である骨格筋内脂肪(IMAT)が、筋肉減少、2型糖尿病、心血管疾患などのさまざまな疾患を引き起こす可能性があると、オーストラリアのビクターチャン心臓研究所が発表した。
 IMATは筋肉の機能を維持するために不可欠だか、過剰なIMATの沈着は他の脂肪と同様に、筋萎縮、機能能力の低下、炎症、インスリン抵抗性、心血管疾患、代謝障害、老化のプロセスを加速させるとしている。IMATの増加による神経と筋肉の連結の損傷と疾患修飾因子が、筋萎縮、2型糖尿病、心血管疾患など、さまざまな疾患の原因となっている可能性がある。
 「現在のところ、筋肉内のIMATレベルを検査する簡単な方法ないので、将来的に診断ツールの開発が期待される。筋肉の健康と回復力を維持するには、レジスタンス運動を含む運動の習慣化が不可欠」と、同研究所のOsvaldo Contreras氏は指摘している。
Fibro-adipogenic progenitors in physiological adipogenesis and intermuscular adipose tissue remodeling (Molecular Aspects of Medicine 2024年6月)

糖尿病性神経障害の患者では三環系抗うつ薬の処方が多い 認知症リスクを懸念
 糖尿病性末梢神経障害(DPN)を合併した成人患者の多くは、神経障害性疼痛があり、三環系抗うつ薬(TCA)の処方が多いことが、リージェンストリーフ研究所とパデュー大学の調査で判明した。抗うつ薬を長期使用している患者の3分の2は、抗コリン作用による認知機能低下や認知症のリスクと関連していることが示された。
 研究グループは、1型糖尿病あるいは2型糖尿病の成人患者100人を、18~55歳と55歳以上の2つの群に層別して解析。うち74人がTCAを継続的に使用しており、使用期間の平均は54.8ヵ月で、66人(63%)は認知症リスクが高いと判定。
 米国の糖尿病治療ガイドラインには、痛みや併発するうつ病を管理するためにTCAを使用することが含まれているが、神経や脳に作用するこれらの薬剤の長期使用のリスクについては記載されていない。
 「主に社会経済的地位の低い患者を対象とする医療施設での、糖尿病性末梢神経障害の治療のためのTCAの処方パターンに関する初の調査」と、パデュー大学薬学部のNoll Campbell氏は述べている。
Evaluation of Tricyclic Antidepressant Deprescribing in the Treatment of Diabetic Peripheral Neuropathy within Federally Qualified Health Centers (Journal of the American Pharmacists Association 2024年5月3日)

アジア人は糖尿病前症の診断から1年後に2型糖尿病を発症するリスクが高い
 アジア人は、白人やアフリカ系と比較して、前糖尿病(prediabetes)と診断されたから1年後に2型糖尿病を発症する可能性が高いことが、バーモント大学医療センターの研究で示された。
 2年連続してHbA1c値が5.7~6.5%で、前糖尿病と判定された18~65歳の男女1万2,509人(女性57%、白人53%、アフリカ系28%、アジア人7%)を対象に後ろ向き観察研究を行った結果、期間中に17.9%が正常な血糖値に戻ったものの、7.21%は2型糖尿病を発症し、大半の患者は前糖尿病の範囲にとどまった。
 「アジア人は、正常な血糖値に戻る可能性が低かった。2型糖尿病に進行した患者は、男性やBMIが高い患者に多かった。糖尿病の1次予防では人種格差を考慮した戦略も必要となる」と、同センター内科のEwelina Niedzialkowska氏は述べている。

1型糖尿病の小児患者の在宅のインスリンポンプ療法は安全
 1型糖尿病の小児を対象としたインスリンポンプ療法を在宅で管理することは、病院の糖尿病専門の医療チームが提供するインスリンポンプおよび注射を中心とした治療に比べても優れていることが、シンシナティ小児病院の研究で示された。
 年齢の中央値15.8歳の1型糖尿病患者2,738人を対象に、2016年1月~2021年12月に後ろ向き観察コホート研究を実施。
 インスリンポンプを病院管理で使用する群(15.7%)、インスリンポンプを保護者が在宅管理する群(27.0%)、インスリン注射を行う群(45.2%)を比較した結果、中等度の低血糖が確認された日数は、病院管理群で3.1%、在宅管理群で4.5%、インスリン注射群で5.1%となった。
 「小児病院に入院した小児患者の在宅インスリンポンプ療法は安全であり、集中治療室を必要としないほとんどの患者では、在宅でのインスリンポンプの使用を考慮すべきだ」と、研究者は述べている。
Home Insulin Pump Use in Hospitalized Children With Type 1 Diabetes (JAMA Network Open 2024年2月7日)

1型糖尿病は糖尿病の管理が良好であっても心臓病リスクは高い 「インスリン50年賞」受賞者を調査
 1型糖尿病の診断から50年以上、治療を継続している患者は、血糖・血圧・コレステロールの管理が良好で、腎臓の合併症がない場合でも、依然として心臓病リスクは依然として高いことが、ジョスリン糖尿病センターおよびハーバード大学の研究で示された。
 1型糖尿病の治療を開始してから50年以上が経過した患者が対象の「インスリン50年賞」を受賞した患者グループを調査した結果、腎臓の合併症のある患者はわずか13%で、多くは血糖・血圧・コレステロールの管理が良好であるにもかかわらず、約40%が心臓病を発症し、心臓血管内のカルシウム沈着が高かった。
 「インスリン50年賞」の受賞者1,000人のうち153人が心臓血管内のカルシウム沈着を検出するためにCTスキャンを受け、111人が心臓構造とポンプ能力を評価するためにMRI画像診断を受けた。
 「心臓病の危険因子は、1型糖尿病と2型糖尿病では異なる可能性がある。1型糖尿病の心臓病に特化した治療法の開発が必要である可能性がある」と、同大学血管細胞生物学部門のMarc Gregory Yu氏は指摘している。

オンライン診療が糖尿病患者の医療へのアクセスを向上
 コロナ禍で普及したオンライン診療は、とくに地方や農村などに住む2型糖尿病や心血管疾患のある患者が、より公平に内分泌科医療にアクセスできるようするのに有用という研究を、ピッツバーグ大学が発表した。
 2型糖尿病と心血管疾患のある成人9,546人の2018~2022年の2つの期間の電子医療記録(EHR)を分析した結果、遠隔医療の導入により、内分泌科の診療を受ける頻度が上昇し、健康状態が改善したことが分かった。期間中に1,725人の患者が内分泌科による診療を受けた。
 米国の2型糖尿病の成人のほとんどはプライマリケア医による治療を受けているが、2型糖尿病と心血管疾患の両方を患う成人は糖尿病合併症のリスクが高く、内分泌専門医による糖尿病の専門医療を受けることで恩恵を受けられる可能性がある。
 「内分泌専門医は不足しており、交通手段・時間・最寄りの医療機関への移動の難しさなども考慮すると、遠隔医療が、対面診療を受けるのが困難な患者、とくに地方に住んでいたり社会経済的地位の低い患者などの、医療への公平なアクセスを促進する可能性がある」と、同大学内分泌代謝科のMargaret Zupa氏は述べている。

テストステロンが低下した65歳未満の男性は2型糖尿病リスクが高い
 男性ホルモンであるテストステロンの血中濃度の低下は、とくに過体重や肥満のある65歳未満の男性では、2型糖尿病発症の独立した危険因子であり、高レベルのテストステロンは2型糖尿病の発症を防ぐ可能性があることが、オーストラリアのアデレード大学の研究で示された。
 MAILESコホート研究に参加したアデレード都市部に住む35~85歳の男性1,315人を調査した結果、5年後に8.4%が2型糖尿病を発症し、65歳未満の男性ではテストステロンの血中濃度が高いほど、2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された。65歳以上の男性では、血中テストステロン濃度の影響はみられなかった。
 「テストステロンの血中濃度の低下は、2型糖尿病発症の独立した危険因子となる。標準体重の維持、運動習慣、アルコールを避けることは、ほとんどの男性で2型糖尿病の予防に役立つが、正常なテストステロンレベルを維持するのにも有用だ」と、同大学内分泌代謝学のMahesh Umapathysivam氏は指摘している。

内胚葉幹細胞由来の膵島細胞を2型糖尿病患者に移植 インスリンから離脱 中国
 ヒト幹細胞から作り出した膵島様細胞を移植し、膵島移植の代替手段とする治療法の開発は世界的で研究されているが、中国科学院分子細胞科学卓越センターはこのほど、糖尿病患者の末梢血単核細胞を人工多能性幹細胞に再プログラムし、それを「種細胞(seed cells)」に変換して人工環境下で膵島組織を再生するのに成功したと発表した。研究成果は、「Cell Discovery」に掲載された。
 2型糖尿病の病歴が25年間で、膵島機能のほとんどを失っている59歳の男性に、再生した膵島を移植する臨床実験を行った結果、11週間後にはインスリン投与が不要となり、1年後には血糖降下薬の投与が完全に中止できたとしている。
Treating a type 2 diabetic patient with impaired pancreatic islet function by personalized endoderm stem cell-derived islet tissue (Cell Discovery 2024年4月30日)

Diabetes: ENDO 2024 Press Conference

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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