認知障害のある高齢患者の2型糖尿病およびHbA1cは死亡率に影響 高血糖と低血糖が死亡リスクを上昇 国立長寿医療研究センター

2024.10.15
 国立長寿医療研究センターが、「もの忘れ外来」の受診者およびその家族を対象とした研究プロジェクト「NCGG-STORIES」の成果を発表した。同プロジェクトは、軽度認知障害(MCI)や認知症のある約8,000組の患者とその家族を対象とした、世界最大規模の基盤研究としている。

 認知症のある患者の血糖コントロール状況が予後に及ぼす影響も調査しており(解析対象は1,996人)、高齢者糖尿病診療ガイドラインにそった血糖管理を達成することで、糖尿病患者の寿命延伸につながる可能性が示された。

 研究では、非糖尿病患者と比較した死亡リスクは、高血糖群(1.7倍)および低血糖群(2.15倍)はそれぞれ高いことが示されたが、血糖管理良好群では有意な死亡リスクの増加はみられなかった(1.02倍)。

 研究グループは、「もの忘れ外来」を訪れた高齢患者を対象に、死亡リスクを予測するモデルも作成。予測モデルの点数範囲は-1から19点で、その予測力は高いことなども明らかにした。

認知症のある高齢者とその家族のライフストーリーを調査

 同センターが2022年に開始した「NCGG-STORIES研究」プロジェクトは、同センターもの忘れセンター外来の受診者の、その後の医療・介護・緊急入院・終末期ケア・意思決定などを追跡し、認知症のある高齢者とその家族のライフストーリーなどを明らかにすることを目的とした基盤研究で、これまで約8,000組の患者と家族が登録されている。

 NCGG-STORIES研究は、診療データに加え、ゲノム、頭部MRIの情報、アンケート調査データが含まれ、認知症患者の予後分析を実施。すでに、軽度認知症障害や認知症の患者の早期死亡を予測するリスクスコアを開発し、認知症タイプ別の死亡リスクと死因、認知症の行動・心理症状、認知症患者の血糖コントロール状況が予後に及ぼす影響などを明らかにしている。

血糖管理良好群では有意な死亡リスクの増加はみられず
高齢者糖尿病診療ガイドラインにそった血糖管理が重要であることを再確認

 研究グループはこの後ろ向きコホート研究で、通院中の65歳以上の2型糖尿病のない患者1,528人と2型糖尿病のある患者468人を比較した。

 その結果、高血糖群および低血糖群は、非糖尿病患者と比較して、死亡リスクが高いことが示された一方、血糖管理良好群では、有意な死亡リスクの増加はみられなかった。

 2型糖尿病患者では、HbA1値、認知機能、日常生活動作能力、低血糖リスクに関連する薬剤にもとづき、3群(血糖管理良好群 317人、高血糖群 94人、低血糖群 57人)に分けて解析した。血糖管理状況は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が提唱した血糖管理目標値を基準とした。糖尿病とHbA1cが死亡率に与える影響を、Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。

 その結果、追跡期間(中央値)の3.8年に353人(17.7%)が死亡したが、2型糖尿病のある患者の死亡リスクは、HbA1c値が目標範囲を超える場合に1.7倍に増加し[ハザード比(HR) 1.70、95%CI 1.08~2.69]、目標範囲を下回る場合も2.15倍に増加したが[同 2.15、同 1.33~3.48]、目標範囲内にある場合はリスクが増加しなかった[同 1.02、同 0.77~1.36]。

 「2型糖尿病およびHbA1cレベルが、認知機能障害のある高齢者の死亡率に及ぼす影響を調査した結果、HbA1cが目標範囲を上回るか下回ると死亡リスクは上昇し、目標範囲内にある患者は上昇しなかった。高齢者糖尿病診療ガイドラインにそった血糖管理を達成することで、糖尿病患者の寿命延伸につながる可能性が示された」と、研究者は述べている。

 研究は、国立長寿医療研究センター 予防科学研究部の杉本大貴氏、老年学・社会科学研究センター老年社会科学研究部の斎藤民部長らによるもの。研究成果は、「Diabetes Care」に掲載された。

2型糖尿病およびHbA1cレベルが、認知機能障害のある高齢者の死亡率に及ぼす影響 NCGG-STORIES研究

出典:国立長寿医療研究センター、2024年

「もの忘れ外来」を訪れた患者の死亡リスクを予測するモデルを作成

 研究グループはさらに、NCGG-STORIES研究の参加者が、「もの忘れ外来」をはじめて訪れた際に収集したデータを活用し、死亡リスクを予測するモデルを作成。対象となった2,610人のうち、中央値4.1年の追跡期間で544人が死亡した。

 予測モデルには、▼年齢(70~79歳 +3点、80~84歳 +4点、85歳以上 +6点)、▼性別(男性 +4点)、▼BMI(やせ +1点、過体重 -1点)、▼歩行速度の低下(+1点)、▼身体不活動(+1点)、▼手段的日常生活動作の障害(+1点)、▼MMSE(認知機能評価)(11~20点 +2点、10点以下 +3点)、▼肺疾患(+1点)、▼糖尿病(+1点)が含まれ、この予測モデルの予測力は高いことが示された(予測モデルの点数範囲は-1から19点)。

NCGG-STORIES研究の参加者が「もの忘れ外来」をはじめて訪れた際に収集されたデータを活用し死亡リスクを予測するモデルを作成
予測モデルの予測力は高いことを明らかに

出典:国立長寿医療研究センター、2024年

「関心の欠如」「過度な睡眠」「介護拒否」は高い死亡リスクと関連

 また、軽度認知症障害あるいは認知症の診断を受けた方2,746人を最大8年間追跡し、初診時でのDementia Behavior Disturbance Scale (DBDスケール)により評価した行動・心理症状と早期死亡との関係性を分析した。

 その結果、男性で行動・心理症状が強いと死亡リスクは高く、また症状のうち「日常生活への関心の欠如」「日中の過度な睡眠」「介護拒否」の項目は、とくに高い死亡リスクと関連していた。同研究では、認知症患者の予後改善に対して、行動・心理症状の評価と適切な対処が重要であることが示唆された。

軽度認知症障害あるいは認知症の診断を受けた患者を追跡し、初診時でのDBDスケールにより評価した行動・心理症状と早期死亡との関係

出典:国立長寿医療研究センター、2024年

認知症タイプおよびMCIの患者の死因トップは肺炎とがん

 NCGG-STORIES研究の3,229人のデータを用いた、認知機能正常(NC)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症の、6グループ別の死亡リスク、死因、予後因子を検証した研究では、すべての認知症タイプおよびMCIの患者はNCの患者に比べて、死亡リスクが高く[ハザード比 2.61~5.20]、DLBの患者はADの患者よりもさらに死亡リスクが高いことが示された。

 もっとも一般的な死因は肺炎であり、次いでがんが挙げられた。また、早期死亡とAPOE4遺伝子保有との関連は認められなかった。この研究結果は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因を示す貴重な資料として、今後の高齢者医療の計画と政策策定に役立つことが期待されるとしている。

NCGG-STORIESのデータを用いて、認知機能正常(NC)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症の6グループ別の死亡リスク、死因、予後因子を検証

出典:国立長寿医療研究センター、2024年

認知症ケアの質の向上、費用の算出、政策立案などに活用

 NCGG-STORIESのデータは、2024年度から新たに医療と介護のレセプト情報が統合される。これにより、初診から治療、介護、そして死亡にいたるまでの一連の過程を追跡することが可能となり、認知症の人のライフストーリーが明らかになる。

 同研究を、認知症ケアの質の向上や、認知症患者やその家族へのより適切な支援の提供に役立てるのに加え、診断後から死亡に至るまでの介護費用の算出や医療・介護サービスの効果分析、政策立案などに活用することも考えている。民間企業にとっても、知見を活用し、認知症患者やその家族に向けた新しいサービスや製品の開発、既存のサービスの改善をはかることが期待されるとしている。

国立長寿医療研究センター 老年社会科学研究部
もの忘れ外来受診者と家族の診断後のライフストーリー研究「NCGG-STORIES」 (国立長寿医療研究センター)
Impact of Type 2 Diabetes and Glycated Hemoglobin Levels Within the Recommended Target Range on Mortality in Older Adults With Cognitive Impairment Receiving Care at a Memory Clinic: NCGG-STORIES (Diabetes Care 2024年3月12日)

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について (日本糖尿病学会)
高齢者糖尿病診療ガイドライン2023 (日本糖尿病学会)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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