MRIによる糖尿病性腎臓病の早期診断に新たな道筋 ナトリウムを可視化する「23Na MRI」を開発
「23Na MRI」で腎臓内のナトリウムの代謝変化を明らかに
体内の⽔や脂質の⽔素原⼦核には、⾮常に弱いながら磁⽯の性質があり、こうした磁化を超電導磁⽯の強⼒な磁場のなかで増⼤させて、原⼦核に固有な波⻑の電磁波を加えると、原⼦核が共鳴して、微弱な⾼周波磁場が⽣じる。
この⾼周波磁場を捉えて、画像化するのが磁気共鳴画像化(MRI)装置。⼈間の体は、約3分の2は⽔であり、病院で使われる臨床応⽤されたMRIは⽔に含まれる⽔素の原⼦核(1H核)を可視化したものだ。
一方、「23Na MRI」は、ナトリウムの原⼦核(23Na核)を画像化する手法。1Hを対象とした従来のMRIでは検出できない、生体内のイオンの代謝や恒常性に関する情報を可視化する。脳卒中・乳がん・脳腫瘍など、さまざまな病的状態に起因する組織内ナトリウム濃度の異常を検出できるので、臨床応用への新たな展開が期待されている。
腎臓も、ナトリウムの排泄や再吸収に関わっている。23NaMRIにより、⾮侵襲的に腎臓全体のナトリウムの分布が分かれば、腎臓内の主に対向流増幅系の変化を評価できるようになると考えられる。
そこで新潟⼤学など研究グループは今回、開発した「23Na MRI」を使い、実験マウスのごく⼩さな腎臓を撮影できるように最適化し、より詳細かつ明瞭に撮影することに取り組んだ。
その結果、これまで分からなかった腎臓内のナトリウムの代謝変化を明らかにするのに成功した。研究成果は、糖尿病性腎臓病にとどまらず、他のナトリウム代謝に関わる脱⽔や、⼀部の⾼⾎圧のより詳細な病態の把握にも役立てられる可能性がある。
23NaをMRIで明瞭に可視化するのに成功
腎臓内には、⽔の効率的な再吸収が可能となる対向流増幅系といった機構が備わっており、腎臓の⽪質から髄質にかけてナトリウムイオンによる浸透圧勾配が形成されている。
これまで、腎臓内のナトリウムの代謝に関わるチャネルやトランスポーターについては、多くの研究がされてきたが、腎臓内全体のナトリウム量や分布の変化については、いまだに不明な点が多く残されていた。
23Naを画像化した「23Na MRI」の研究はこれまでも報告されているが、⽣体内のナトリウムの量が⽔素と⽐べて⼤変少なく、得られる信号値が⾮常に⼩さいため、⽣理⾷塩⽔程度のナトリウム濃度をとらえて、MRIで明瞭な可視化をすることは困難だった。
研究グループは今回、腎臓の組織の傷害がみられない段階の早期にあたる6週齢の糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)を⽤いて、研究グループが作成最適化した9.4テスラの縦型磁⽯を⽤いたMRI装置で腎臓を撮影した。
その結果、23Naを可視化した画像により、糖尿病モデルマウスでは対照のマウスに比べ、腎臓内の対向流増幅系の形成が弱くなっていることが明らかになった。
研究は、新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科腎研究センター腎・膠原病内科学分野の忰⽥亮平助教、成⽥⼀衛教授、筑波⼤学数理物質系の寺⽥康彦准教授、国際医療福祉⼤学成⽥保健医療学部の拝師智之教授、新潟⼤学⼤学院⾃然科学研究科の佐々⽊進准教授、エム・アール・テクノロジーらの研究グループによるもの。研究成果は、⽶国腎臓学会誌「Kidney360」に掲載された。
「23Na MRIでは、腎傷害を反映した⾎中・尿中マーカーをみる検査とは異なり、ナトリウムの代謝機能の変化をみることで、糖尿病性腎臓病を早期診断できる可能性がある。臨床でもよく⽤いられている尿中アルブミンの測定とともに、23Na MRI検査により、糖尿病性腎臓病での尿細管の異常を早い段階で診断して、治療につなげられる可能性がある」と、研究グループでは述べている。
「これまでMRI装置の⾃作・改良に取り組み、撮像⽅法に独⾃の⼯夫を施したことが、今回の成果につながった。23Na MRIの臨床応⽤に新たな道が開かれる可能性がある」としている。
新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科腎研究センター
Sodium magnetic resonance imaging shows impairment of the counter-current multiplication system in diabetic mice kidney (Kidney360 2023年3月23日)