【新型コロナ】糖尿病や肥満症があると重症化しやすい機序を解明 敗血症による死亡を防ぐ分子を発見 治療への応用に期待

2022.11.29
 群馬大学などは、糖尿病や肥満症があると感染症で重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。

 免疫を調節しており、細胞が障害を受けたときに放出される「アラーミン」や「DAMPs」と呼ばれる分子群のひとつである「S100A8」が、敗血症でのサイトカインストームを抑制し、細菌感染が引き起こす敗血症ショックによる死亡を防いでいることが判明。

 さらに、糖尿病や肥満症の状態では、敗血症時にはS100A8を作り出すことができないため、敗血症ショックにより死亡率が高くなることを明らかにした。

 糖尿病や肥満症のあるマウスを用いた実験で、S100A8を補充することにより、敗血症ショックによる死亡を抑制できることも確認。S100A8を治療に応用できる可能性がある。

免疫を調節しサイトカインストームを抑制する分子群が糖尿病状態では作り出せない

 糖尿病や肥満症は、新型コロナを含めた感染症で、重症化リスクの高い基礎疾患として知られている。一方、敗血症は、細菌感染が起こったときに、細菌や細菌が作り出す毒素であるエンドトキシンが、血液を介して全身に広がる状態。

 敗血症が悪化すると、過剰な免疫反応(サイトカインストーム)が起こり、敗血症性ショックという全身の循環や代謝の異常をともなう致死的な状態が引き起こされる。有効な治療法は少なく、とくに糖尿病や肥満症の患者では重症化しやすいことが深刻な問題となっている。

 群馬大学などの研究グループは、細胞が障害を受けたときに放出され免疫を調節する「アラーミン」や「DAMPs(Damage-associated molecular patterns)」と呼ばれる分子群のひとつである「S100A8」が、敗血症でのサイトカインストームを抑制し、細菌感染が引き起こす敗血症ショックによる死亡を防いでいることを明らかにした。

 さらに、糖尿病や肥満状態では、敗血症時にはS100A8を作り出すことができないため、敗血症ショックにより死亡率が高くなることを明らかにした。

 一方で、糖尿病や肥満症のように、感染症時にS100A8を作り出すことができない状態でも、S100A8を補充することにより、敗血症ショックによる死亡を抑制でき、S100A8の治療への応用も示された。

 「本研究により、糖尿病や肥満症の患者で、感染症で重症化を防ぐことができる治療法開発へつながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、群馬大学生体調節研究所の白川純教授らの研究グループが、筑波大学、横浜市立大学と共同でおこなったもの。研究成果は、「iScience」に掲載された。

糖尿病や肥満があると免疫を制御するS100A8が産生されにくくなり致死率が上昇する
S100A8を補充すると糖尿病や肥満の状態でも敗血症による致死率は改善する

出典:群馬大学、2022年

S100A8の投与で生存率が改善 膵β細胞の炎症に関与

 糖尿病や肥満症では、体のなかのさまざまな臓器で慢性的な炎症が生じていることが知られている。こうした炎症などにより細胞が障害を受けたときに、細胞は免疫反応を調節するためにアラーミンやDAMPsと呼ばれる分子群を細胞から放出する。

 白川純教授らの研究グループはこれまで、糖尿病状態ではインスリンを作り出す膵臓の膵島にある膵β細胞でも、アラーミンのひとつであるS100A8が産生され、膵島の炎症に関与していることを報告してきた。

 S100A8は、敗血症などの感染症でも重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、糖尿病や肥満症の患者でのS100A8と感染症との関係はよく分かっていなかった。

 研究グループは今回、エンドトキシンであるリポポリサッカライド(LPS)や大腸菌の腹腔内投与、腸管穿孔モデルである盲腸結紮穿刺(CLP)による敗血症モデル用いて、敗血症ショックを起こした状態のマウスにS100A8を投与すると、生存率が有意に改善することを明らかにした。

 また、S100A8は敗血症時に、体内の免疫細胞から産生され、エンドトキシンなどの受容体であるTLR4を介して起こるサイトカインストームを抑える役割を果たしていることを解明した。

新型コロナなどの感染症の重症化を防ぐ治療法の開発へ

 一方で、糖尿病や肥満症のあるマウスでは、感染症のない状態では血液中のS100A8が、糖尿病や肥満がない状態よりも高い値を示すことが分かった。こうしたマウスや、免疫細胞でS100A8遺伝子を欠損したマウスでは、敗血症時にはS100A8を免疫細胞が産生することができず、敗血症ショックによりサイトカインストームが悪化し死亡率が高くなることを明らかにした。

 さらに、肥満や糖尿病の状態のマウスにS100A8を補充すると、敗血症ショックでのサイトカインストームを抑制することで、生存率は改善され、治療や重症化予防になることも示された。

 「本研究により、糖尿病や肥満が敗血症で重症化しやすくなる新しいメカニズムが分り、またS100A8を適切に補充することが、敗血症の治療や重症化の予防に役立つ可能性も示唆されました」と、研究グループでは述べている。

 「現在、世界中でまん延しているCOVID-19でも、糖尿病や肥満症は重症化しやすい基礎疾患であり、またCOVID-19の病態や重症化にS100A8が関与する可能性も示唆されています。本研究成果は、糖尿病や肥満症などの感染症で重症化しやすい基礎疾患を有する患者で、重症化を防ぎ致死率を改善させる治療につながることが期待されます」としている。

 なお研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、科学研究費助成事業、および大樹生命厚生財団などの民間助成金に加え、1型糖尿病の患者および家族による認定NPO法人であるIDDMネットワークの支援を受けて行われた。

群⾺⼤学生体調節研究所
群⾺⼤学生体調節研究所代謝疾患医科学分野
Protective effects of S100A8 on sepsis mortality: links to sepsis risk in obesity and diabetes (iScience 2022年11月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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