日本人は体重増加だけでなくやせや体重減少も死亡リスクに関連 肥満の影響は欧米人と異なる 約6.5万人を調査

2024.02.29
 標準体重から肥満になった人は、がんや心疾患などの死亡リスクが上昇することが、40~69歳の日本人約6.5万人を20年以上追跡した、国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになった。

 体格指数(BMI)が標準から肥満に移行した人の全死亡リスクは1.22倍、がん死亡リスクは1.29倍、心疾患死亡リスクは1.47倍に上昇した。

 一方で、継続的にやせの人でも、全死亡リスクは1.26倍、がん死亡リスクは1.14倍、心疾患死亡リスクは1.24倍と高かった。

 過度な体重増加だけではなく、継続したやせ、および体重減少も死亡リスクと関連しており、日本人は欧米人と異なり、体重が過剰に増えることだけが高い死亡リスクと関連しているわけではないことが示された。

 なお体重減少グループは、糖尿病などの既往症の有病率が高く、食事制限や運動を行うことで意図的に体重を減らした場合と、意図せず体重が減った場合が考えられるとしている。

日本人は体重が増えることだけが死亡リスクと関連しているわけではない

 多目的コホート研究「JPHC Study」は、全国11保健所管内14万人の地域住民を対象とした、生活習慣とがんなどの生活習慣病との関連について長期追跡している調査で、国立がん研究センター研究開発費などにより行われている。

 肥満は、2型糖尿病などの慢性疾患や死亡のリスクの上昇と関連していることが知られているが、成人期のある時点での体格指数(BMI)の長期的な変化と、超過死亡リスクなどとの関連はよく分かっていない。また、アジア諸国では、体重減少が死亡リスク上昇と関連していることが報告されており、日本人でも長期にわたる体重減少が超過死亡リスクと関連しているかは不明だ。

 そこで研究グループは今回、日本人の成人期(20歳以降)のBMIの変化を特徴づけ、死亡リスクとの関連を20年以上追跡して調査した。1990年と1993年に、岩手・秋田・長野・沖縄・東京・茨城・新潟・高知・長崎・大阪の11保健所管内に在住していた40~69歳の住民のうち、研究開始から5年ごとに行った3回のアンケート調査票に回答した6万5,520人を、2016年まで追跡して調査した。研究成果は、「International Journal of Epidemiology」に掲載された。

 研究グループは、BMI変化と死亡リスクの関連を調べるために、まず、各調査時点と20歳時の体重についてのアンケートへの回答からBMIを算出。BMIの変化によるグループを分ける際には、調査開始時、調査開始から5年後のアンケート、10年後のアンケートと、アンケートの回答から得られた20歳時の体重を使用した。

 BMI 20~25を標準体重と定義し、BMIの変化によって下記の6グループに分けた。Cox比例ハザードモデルによる解析では、性別、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量、糖尿病の既往歴、高血圧の既往歴の影響を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響を取り除いた。

1 継続的なやせ[グループ1]
2 標準体重の範囲での体重増加[グループ2]
3 標準体重の範囲での体重減少[グループ3]
4 標準体重から過体重[グループ4]
5 過体重から標準体重[グループ5]
6 標準体重から肥満[グループ6]

過度な体重増加だけではなく継続したやせや体重減少も死亡リスクと関連

 その結果、グループ2(普通体重範囲内での体重増加)を基準とした場合、グループ6(BMIが標準から肥満に移行)の全死亡リスクは1.22倍、がん死亡リスクは1.29倍、心疾患死亡リスクは1.47倍に上昇した。一方で、グループ1(継続的にやせ)でも、全死亡リスクは1.26倍、がん死亡リスクは1.14倍、心疾患死亡リスクは1.24倍と高かった。

 全死因死亡リスクは、グループ4(普通から過体重への体重増加)を除くすべてのグループで有意に高く、体重が減少したグループ3[調整後ハザード比(aHR) 1.10、95%CI 1.05~1.16]、グループ5[aHR 1.16、95%CI 1.08~1.26]でも、高い死亡リスクと関連しており、体重が過剰に増えることだけが高い死亡リスクと関連しているわけではないことが示された。死因別にみてもおおよそ同様の結果になり、とくに継続的なやせ型のグループ1で呼吸器疾患死亡のリスクが高かった。

 なお、もっとも多くの人が分類されたグループは、時間とともにBMIは増加したものの、標準体重の範囲にとどまるグループ2で34.6%だった。BMIが低下したグループ(グループ3および5)の合計は15.6%だった。

日本人の体重変化と死亡リスクの関連

日本人の年齢によるBMIの変化
BMI 20~25を標準体重として6グループに分類

出典:国立がん研究センター、2024年

体重変化による死亡リスクへの影響は欧米人とアジア人では異なる

 「今回の研究で、過度な体重増加だけではなく、継続したやせ、および、体重減少も死亡リスクと関連しているという結果が得られた。より良い健康モニタリングのために、単一の時点でのBMIだけでなく、過去のBMIも考慮することの重要性が示された」と、研究グループでは述べている。

 オーストラリアで行われた先行研究では、低体重グループも体重減少グループもリスクの低下を示さなかったが、今回の研究結果は、アジアで行われた先行研究の結果とは一致しており、体重変化による死亡リスクへの影響は、欧米人とアジア人では異なることが示唆された。

 「アジア人集団で、中年期以降の体重減少はよくみられることであり、死亡リスクが高いことと関連していると考えられる」と、研究グループは指摘している。

 「グループ3、5のような体重減少グループは、糖尿病および他の既往症の有病率が高く、これらの健康状態のために、食事制限や運動を行うことで意図的に体重を減らした場合と、これらの病気などで意図せず体重が減った場合の区別ができていない。因果関係(体重が減ったから死亡リスクが上がったのか、死亡リスクを高くする疾病となったために体重が減ったのか)については、さらに検討が必要」としている。

多目的コホート研究 (JPHC Study) (国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Body mass index trajectories and mortality risk in Japan using a population-based prospective cohort study: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (International Journal of Epidemiology 2023年10月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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