不活動による骨格筋インスリン抵抗性発生の新規メカニズムを解明 わずか24時間の不活動で筋肉に脂質が蓄積 順天堂大学

2021.12.01
 順天堂大学は、不活動が骨格筋のインスリン抵抗性を生じさせる新規メカニズムを解明したと発表した。わずか24時間の不活動でも、筋肉にジアシルグリセロール(DG)という脂質が蓄積しインスリン抵抗性が生じること、高脂肪食の摂取によりさらにその傾向が強まること、これにはLipin1という脂質代謝酵素が関わることをはじめて明らかにした。

 ステイホームや座り過ぎなどによる不活動は代謝状態を悪くすることが知られているが、短時間の不活動により筋肉に脂質が蓄積するメカニズムを分子レベルで解明した研究成果は、予防医学の観点からも有益な情報になるとしている。

不活動によるインスリン抵抗性発生のメカニズムを解明

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの筧佐織特任助教、代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国生理学会誌「American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。

 2型糖尿病やメタボリックシンドロームの病態の根源であるインスリン抵抗性は肥満によって生じることが知られている。その一方で、肥満がない場合でも、ステイホームや座位時間の増加といった不活動の状態が短期間継続するだけでもインスリン抵抗性を発生させることが明らかになってきた。

 日本では、諸外国に比べて座位時間が長く、近年の身体活動ガイドラインでも座位時間を含む不活動の時間を短くすることが推奨されるようになった。しかし、なぜ短期間の不活動でインスリン抵抗性が生じてしまうのか、その分子メカニズムはほとんど分かっていなかった。

 そこで研究グループは、不活動によるインスリン抵抗性発生メカニズムの解明を目指して、動物およびヒトを対象として研究を行った。

骨格筋へのジアシルグリセロール蓄積が不活動によるインスリン抵抗性発生のカギ

不活動によりインスリン抵抗性を発生する分子メカニズム

24時間という短時間の不活動でもLipin1の活性化により骨格筋細胞内へのDG蓄積が生じ、インスリン抵抗性が発生することを明らかにした。高脂肪食はこれらの変化を増悪させることも確認。
出典:順天堂大学、2021年

 研究では、まずマウスの片脚をギプス固定する不活動モデルを作成し、不活動とそれにともなう代謝機能への影響を検証した。具体的には、24時間の不活動と、悪い生活習慣である高脂肪食(2週間)を組み合わせた4群に対して、インスリン感受性とジアシルグリセロール(DG)量の比較を行った。

 DGは、グリセリンに2つの脂肪酸がエステル結合を介して結合したグリセリドで、トリグリセリドやリン脂質などの脂質の前駆体。また、細胞のシグナル伝達におけるセカンドメッセンジャーとして機能し、骨格筋インスリン感受性低下の原因のひとつである可能性が示されている。

 その結果、骨格筋のインスリン感受性はわずか24時間の不活動でも半減し(インスリン抵抗性の発生)、高脂肪食単独では変化がなかったものの、高脂肪食に不活動を組み合わせると、インスリン抵抗性がさらに増悪することが明らかになった。

 また骨格筋細胞内へDGが蓄積すると、インスリンシグナル伝達を阻害して、インスリン抵抗性を生じさせることから、DG量の解析を行ったところ、不活動で骨格筋のDG量が倍増、高脂肪食との組み合わせでさらに増加し、それにともないインスリンシグナル伝達が阻害されていることが分かった。

 これらのことから、骨格筋へのDG蓄積が不活動によるインスリン抵抗性発生のカギであることが示唆された。

骨格筋インスリン感受性と骨格筋DG量
不活動、高脂肪食との組み合わせで検討

ジアシルグリセロール(DG)の量は、不活動で倍増、高脂肪食との組み合わせでさらに増加し、インスリン抵抗性の発生と密接に関連していることを解明した。
出典:順天堂大学、2021年

24時間という短時間の不活動でもLipin1の活性化により骨格筋にDGが蓄積

 さらに、不活動によってなぜDGが蓄積するのかを明らかにするために、DG蓄積に関わるさまざまな代謝経路の探索を行ったところ、細胞内でDGを作り出す酵素であるLipin1の活性が不活動によるDGの蓄積と連動していることを見出した。

 Lipin1は、主要なMg2+依存性のホスファチジン酸ホスファターゼで、ホスファチジン酸の脱リン酸を触媒し、DGを生成する脂質代謝酵素のひとつだ。

 次に、遺伝子導入によりLipin1の酵素活性を不活化した骨格筋では不活動によるDGの蓄積やインスリン抵抗性が発生しないことを確認した。

 さらに、ヒトでも24時間片足をギプス固定し、その前後で骨格筋生検を行い解析したところ、Lipin1の発現量の有意な増加と骨格筋DG量の増加傾向を認め、マウスの実験と矛盾しない結果が得られた。

 以上の結果から、24時間という短時間の不活動でもLipin1の活性化により骨格筋細胞内へのDG蓄積が生じ、インスリン抵抗性が発生する分子メカニズムが明らかになった。

日本人は座位時間が長い 新たな生活習慣病予防策の開発へ

 今回の研究により、不活動によるインスリン抵抗性の発生にはLipin1を介したDGの増加が関与し高脂肪食によりそれらがさらに増悪することがはじめて明らかになった。

 現在まで、運動により骨格筋代謝が改善するメカニズム探索は進んでいるものの、不活動がなぜ代謝を悪くするのかは未解明の部分を多く残しており、不活動による骨格筋のインスリン抵抗性発生の分子メカニズムを明らかにした今回の研究は画期的といえる。

 「日本人を含む東アジア人は正常体重であるにもかかわらず生活習慣病になってしまう場合が多くありますが、日本では諸外国と比較して座位時間が長いことを鑑みると、今回の研究で明らかとなったLipin1を介した分子メカニズムを標的にした、東アジア人に向けた新たな生活習慣病予防策の開発が期待できます」と、研究グループでは述べている。

 「たとえば、Lipin1の活性を抑制するような運動様式や栄養食品、薬剤を新たに開発にすることにより、不活動による生活習慣病の発症を防げる可能性があります。また、不活動は同時に骨格筋萎縮も引き起こしますが、その病態基盤としてのLipin1のさらなる役割についても着目し研究を進めていきます」としている。

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター
Short-term physical inactivity induces diacylglycerol accumulation and insulin resistance in muscle via lipin1 activation(American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism 2021年11月1日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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