インスリン分泌を促進する新たな因子を発見 Surf4を増やせばインスリン分泌量を増加できる可能性

2022.05.31
 群馬大学などは、血糖値を低下させるホルモンであるインスリンが、細胞外に分泌される際に働く新規因子として、Surf4というタンパク質を同定し、この因子が細胞内の小胞体から、インスリンのもととなる前駆体タンパク質(プロインスリン)を効率的に運び出すことが、インスリンの分泌に必須であることを明らかにした。

 研究により、これまで不明だったインスリン前駆体であるプロインスリンの小胞体からの輸出機構の一端が明らかとなった。Surf4はプロインスリンの小胞体からの輸出を促進することから、インスリン分泌を上昇させるこれまでとは異なるタイプの新たな創薬ターゲットとなる可能性がある。

Surf4を増やすことで、プロインスリンのゴルジ体への輸送を促進し、インスリン分泌量を増加できる可能性

 研究は、群馬大学生体調節研究所細胞構造分野の三枝慶子研究員(現:群馬医療福祉大学講師)、佐藤健教授らの研究グループが、遺伝生化学分野の泉哲郎教授、松永耕一助教、秋田大学医学部と共同で行ったもの。研究成果は、英国のNature Publishingグループが刊行する「Communications Biology」に掲載された。

 インスリンは、膵β細胞内でまず前駆体(プレプロインスリン)として合成され、小胞体という脂質の膜で囲まれた区画内へと運びこまれる。その後、小胞体内でプレ部分が切除された後、プロインスリンとなり、小胞体輸出領域から輸送小胞という脂質膜でできた球状の構造に積みこまれ、ゴルジ体に輸送される。

 その後、ゴルジ体から分泌顆粒という脂質膜でできた球状の構造に積みこまれ、血糖値の上昇などの刺激に応じて血中へと分泌される。

 これまで、ゴルジ体から形成される分泌顆粒が刺激に応じて細胞膜と融合して、インスリンを分泌する仕組みはよく解析されていたが、大量に合成されたインスリンの前駆体(プロインスリン)が小胞体でどのように効率良く輸送小胞につめこまれ、ゴルジ体へと輸送されるのかについてはほとんど明らかになっていなかった。

膵β細胞内のインスリン合成と分泌

出典:群馬大学、2022年

 研究グループは今回、ラット・インスリノーマ由来のINS-1細胞で、Surf4というタンパク質の解析を行い、(1) この因子が小胞体からの出口である小胞体輸出領域に局在していること、(2) プロインスリンと相互作用すること、(3)Surf4を欠損した細胞ではプロインスリンが小胞体に蓄積してしまい、インスリンの分泌も著しく低下することを明らかにした。

 また、INS-1細胞をグルコースで刺激するとSurf4の合成量が増加し、より多くのプロインスリンと結合することを明らかにした。

 これらの結果から、Surf4は小胞体で新たに合成されたプロインスリンに結合し、小胞体輸出領域から形成される輸送小胞へと効率よくつめこまれることで、ゴルジ体への輸送を促進していることが明らかになった。

 「本研究により、これまで不明であったインスリン前駆体であるプロインスリンの小胞体からの輸出機構の一端が明らかとなりました。Surf4はプロインスリンの小胞体からの輸出を促進することから、インスリン分泌を上昇させるこれまでとは異なるタイプの新たな創薬ターゲットとなる可能性があります」と、研究グループでは述べている。

Surf4タンパク質は小胞体からゴルジ体へとタンパク質を輸出する領域に多く存在し、欠損するとプロインスリンが小胞体に蓄積し、インスリン分泌が顕著に減少する。Surf4タンパク質は、インスリン前駆体(プロインスリン)と結合し、ゴルジ体に向かう輸送小胞への積みこみに働いていると考えられる。Surf4の量や活性を増やすことで、プロインスリンのゴルジ体への輸送を促進し、インスリンの分泌量を増加できる可能性がある。

出典:群馬大学、2022年

群馬大学 生体調節研究所
群馬大学 生体調節研究所 細胞構造分野
Cargo receptor Surf4 regulates endoplasmic reticulum export of proinsulin in pancreatic β-cells (Communications Biology 2022年5月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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