「ミトコンドリア糖尿病」の耐糖能を改善する効果を確認 天然アミノ酸の5-ALAがミトコンドリア機能を改善 長崎大学
ミトコンドリアDNAの変異により発症する「ミトコンドリア糖尿病」 5-ALA/SFCの治療効果を確認 治療薬候補として期待
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生などで重要な役割を担っており、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)をもつことが知られている。このミトコンドリアDNAの変異によって発症する糖尿病が「ミトコンドリア糖尿病(MIDD)」。
MIDD患者は、日本の糖尿病患者の約1%にあるとみられており、単一遺伝子による糖尿病としては最多だが、見逃されているケースが多い。また、ミトコンドリアDNAは後天的な変異(体細胞変)を起こしやすい特徴をもっており、老化とともに変異が蓄積し、ミトコンドリア機能に障害を及ぼす可能性もある。
糖尿病には、1型糖尿病、SPIDDM、2型糖尿病などと、多彩な病型があるが、MIDDは症状としては、高率(約90%)に感音性難聴をともなうのが特徴となる。また、心筋症や心刺激伝導障害、脳筋症の症状も、他の糖尿病型よりも高率にみられる。
長崎大学の研究グループは今回、MIDD患者を対象に5-ALA/SFCを投与し、インスリン注射の補助療法としての有効性を検討した。5-ALA/SFC投与24週後に糖負荷試験を行ったところ、▼血糖値の有意な減少、▼インスリン分泌の増加傾向、▼HbA1cの値の、有意な差はないものの、ベースラインの8.3±1.2%から7.9±0.3%への減少といった結果を得られた。
ヒトなどは、細胞内の細胞小器官であるミトコンドリアでエネルギーを作り出すことで生命活動を維持しており、5-ALA(5-アミノレブリン酸)は、天然にあるアミノ酸で、このミトコンドリアが機能するために重要な役割を果たしている。すでに10年以上前から健康食品・化粧品・飼料・肥料などに活用されており、ミトコンドリアの機能を向上させる作用があることから、埼玉医科大学を中心としたミトコンドリア病の第3相治験が医師主導で進められているという。⾧崎大学でも、5-ALAの機能性に着目し、マラリアや新型コロナの治療薬の開発を進めてきた。
今回の研究は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座内分泌・代謝内科学分野の中村祐太氏、原口愛氏、堀江一郎氏、川上純教授、阿比留教生氏によるもの。研究成果は、「Diabetes Therapy」に掲載された。
「5-ALAは、クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)を組み合わせて投与すると、ミトコンドリア機能を改善することから、我々は今回、MIDD患者を対象にインスリン注射の補助療法としての有効性を検討するための予備的研究を行いました」と、研究グループでは述べている。
「結果、5-ALA/SFC投与24週後の糖負荷試験で、血糖値の後期相(AUC60-120min)の有意な減少とインスリン分泌(AUC0-120min)の増加傾向、およびHbA1cの低下傾向が確認されました。5-ALA/SFCはMIDDに対する新規かつ有効な補助療法の候補として期待されます」としている。
なお、同大学は2022年4月に、5-ALAによる新型コロナウイルスのオミクロン株に対する感染抑制の確認についても報告している。同大学では、これまでの研究で、5-ALAが新型コロナウイルスの、デルタ株を含む4種の変異株の感染を、培養細胞で一定の濃度以上で完全に抑制することを示している。この研究でも同様に、細胞を用いた試験で、オミクロン株の感染を抑制する結果が得られたとしている。
長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科
Pilot Trial on the Effect of 5-Aminolevulinic Acid on Glucose Tolerance in Patients with Maternally Inherited Diabetes and Deafness (Diabetes Therapy 2022年11月22日)