2型糖尿病患者のがんリスクが上昇 がんが心血管疾患を抜き糖尿病の主な死因の首位に 13万人超を調査

2023.01.26
 2型糖尿病患者のがん死亡率は大幅に高いことが、英国の13万7,804人の成人の約20年間のデータ解析で示された。2型糖尿病患者のがん死亡率は、一般集団に比べ、全がんで18%、乳がんで9%、結腸直腸がんで2.4倍、それぞれ高かった。

 さらには、肝臓(男女)、膵臓がん(男女)、子宮内膜がん(女性のみ)では、糖尿病患者のがん死亡率はそれぞれ約2倍に上昇した。2型糖尿病の若年女性の乳がんによる死亡率は、20年間の期間で年間4.1%増加したことも示された。

 研究は、英国のレスター大学糖尿病研究センターなどが、英国の一般診療データベースである「Clinical Practice Research Datalink」に1998年1月1日~2018年11月30日に登録された、2型糖尿病と新規診断された35歳以上の成人13万7,804人のデータを使用したもの。

がん死亡率の変化率は55歳と65歳で改善 75歳と85歳では悪化

 研究は、レスター大学リアルワールドエビデンスユニット、レスター大学糖尿病研究センター、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のSuping Ling氏らによるもの。研究成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が刊行する「Diabetologia」に掲載された。

 2型糖尿病患者は一般集団に比べ、一部のタイプのがんの発生率と死亡率が高く、とくに膵臓がん、肝臓がん、子宮内膜がんなどの発症とのあいだに因果関係があることが示された。血糖値とインスリン値の上昇、インスリン抵抗性、慢性炎症に長期間さらされることなどが潜在的に影響していると考えられる。

 過去の研究では、2型糖尿病と心血管疾患の転帰との関連が広く調査されているが、がん死亡率との関連についてはよく分かっていなかった。

 そこで研究グループは、英国の一般診療データベースである「Clinical Practice Research Datalink」に登録された、2型糖尿病と新規診断された35歳以上の成人13万7,804人の、1998年1月1日~2018年11月30日の約20年間のデータを使用。追跡期間の中央値8.4年で、年齢、性別、民族、社会経済的地位、肥満、喫煙状況などを調整し、全死因、全がん、がん部位別の死亡率などを分析し、2型糖尿病患者の死亡率を一般集団と比較し、標準死亡率を推定した。

 その結果、全死因死亡率は1998年~2018年にすべての年齢で減少し、全がん死亡率も55歳と65歳で減少したが、75歳と85歳では増加したことが示された。がん死亡率の平均年間変化率(AAPC)は、55歳で-1.4%(95%CI -1.5%~-1.3%)、65歳で-0.2%(同 -0.3%~-0.1%)、75歳で+1.2%(同 0.8%~1.6%)、85歳で+1.6%(同 1.5%~1.7%)だった。

2型糖尿病患者のがん死亡率は大幅に高い 大腸がんでは2.40倍に

 2型糖尿病患者のがんによる標準化死亡比(SMR)は、基準となる集団と比較して、全がんで1.18(95%CI 1.16~1.20)、乳がんで1.09(同 1.01~1.18)、結腸直腸がんで2.40(同 2.26~2.54)となり、2型糖尿病患者のがん死亡率は大幅に高いことが示された。

 さらには、肝臓がんで2.13(同 1.94~2.33、男女)、膵臓がんで2.12(同 1.99~2.25、男女)、子宮内膜がんで2.08(同 1.76~2.44、女性のみ)となり、糖尿病患者のがん死亡率はそれぞれ約2倍に上昇した。

2型糖尿病患者のがんによる標準化死亡比(SMR)
2型糖尿病患者の全死因死亡率、全がん死亡率、がん特異的死亡率を、がんの主要な部位別に、年齢・性別等を調整した基準集団と比較

出典:Diabetologia、2023年

 2型糖尿病の若年女性の乳がんによる死亡率は、20年間の期間で年間4.1%増加したことも示された。全国的な報告では、この期間の若年層の乳がん死亡率は低下していることが示されている。

 がん死亡率の平均年間変化率(AAPC)は、男性(+0.5、95%CI 0.2~0.8)よりも、女性(+1.5、同 1.1~1.8)の方が高かったが、研究期間を通じて女性のがん死亡率の方が低かった。また、富裕層(–1.3、同 –1.8~–0.7)と、貧困層(–0.6、同 –0.9~–0.3)でも差があり、社会経済的地位による格差は縮小しているものの残存していることが示された。

 喫煙の有無でもがん死亡率のAAPCは差があり、非喫煙者(–2.6、95%CI –2.8~–2.4)では改善したが、喫煙者(+0.3、同 0.2~0.5)では悪化した。現在の医療政策と構造は、喫煙者よりも非喫煙者に利益をもたらしている可能性があり、喫煙者向けのスクリーニングプログラムによる介入は、がん死亡率(および全死因死亡率)の減少に貢献できる可能性が指摘されている。

出典:Diabetologia、2023年

2型糖尿病患者の主な死因は、がんが心血管疾患を抜いた

 「過去数十年間で心血管疾患の予防と治療が進歩しており、高齢者の心血管疾患の死亡率が減少したことは、多くの人がより長生きし、高齢化にともなう疾患を経験し、がんを含む他の原因で死亡する可能性が高まったことを意味している。ただし、糖尿病のスクリーニング、糖尿病およびその合併症の管理、早期がんの診断、がん治療が進歩していることは、一般集団と同じように、とくに若い年代の2型糖尿病患者に利益をもたらしていると考えられる」と、Ling氏は述べている。

 「2型糖尿病患者の主な死因として、がんが心血管疾患を抜き、首位になった可能性がある。がん予防戦略は、とくに高齢者や肝臓がん、結腸直腸がん、膵臓がんなどの一部のがんに関しては、少なくとも心血管疾患の予防と同程度の注意を払う必要がある。2型糖尿病のある喫煙者のがん死亡リスクも高いので、個別の介入を検討する必要がある」。

 「とくに2型糖尿病の女性の乳がんのスクリーニングを拡大することに意義がある可能性があるが、利益をより得やすいサブグループを特定するには、費用対効果に関する分析が必要となる。現在のガイドラインでは、糖尿病の女性の乳がんリスクについては具体的に考慮されていない」と指摘している。

UK study shows increased cancer mortality in people with type 2 diabetes (Diabetologia 2023年1月24日)
Inequalities in cancer mortality trends in people with type 2 diabetes: 20 year population-based study in England (Diabetologia 2023年1月24日)
Electronic Supplementary Material (Diabetologia 2023年1月24日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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