【新型コロナ】バリシチニブが人工呼吸管理を受けている新型コロナの患者の死亡を減少 投与開始から28日時点までで46%の死亡リスク低下

2021.08.19
 関節リウマチ薬である「バリシチニブ」について、第3相臨床試験COV-BARRIER試験のサブスタディから得られた新たなデータが発表された。

 侵襲的人工呼吸器またはECMOを使用している部分集団で、バリシチニブの投与を受けた患者群では、投与開始から28日時点までで46%、60日時点までで44%の死亡リスクの低下が示された。

バリシチニブがCOVID-19の最重症患者の死亡を防ぐことに寄与

 イーライリリー・アンド・カンパニーおよびインサイトは、COV-BARRIER試験の追加コホートの成人患者101例の結果を発表した。このサブスタディで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で侵襲的人工呼吸管理を受けている、または体外式膜型人工肺(ECMO)を使用している部分集団で、標準療法に上乗せしてバリシチニブを投与した患者群で、標準療法に上乗せしてプラセボを投与した患者群と比較し、投与開始から28日時点までの死亡の可能性が46%低いという結果になった(名目上のp値=0.0296、ハザード比[95% CI]=0.54[0.31~0.96]、解析は多重性について補正なし)。投与開始から28日時点までに死亡した患者の累積割合は、バリシチニブ投与群で39.2%(20/51例)、プラセボ投与群で58%(29/50例)だった。

 投与開始から60日時点までの死亡率についても同様のベネフィットが認められた(ハザード比[96% CI]=0.56[0.33~0.97])。死亡の累積割合はバリシチニブ投与群で45.1%(23/51例)であったのに対し、プラセボ投与群では62.0%(31/50例)だった。これらの結果はCOV-BARRIER試験の患者集団全体で観察された死亡率の低下と一致している。

 バリシチニブは、インサイトが創薬しイーライリリーにライセンス供与された経口JAK阻害剤。中等症から重症の関節リウマチを有する成人患者の治療薬として、日本を含む75ヵ国以上で承認されている。

 日本では2021年4月に、SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)に対して、レムデシビルとの併用における治療薬として適応追加の承認を取得した。

 低分子の分子標的薬であるJAK阻害薬は、炎症や免疫機能に関わるサイトカインの免疫活性化シグナル伝達で重要な役割を果たすJAKを阻害する。

 同剤は、米国では緊急使用許可にもとづき、酸素吸入、非侵襲的または侵襲的人工呼吸管理、もしくは体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とする入院中の成人患者および2歳以上の小児患者に対するCOVID-19の治療薬として使用が許可されている。なお、同剤はCOVID-19の治療薬としてはFDAに承認されていない。

リスクの高いCOVID-19患者集団に対する重要な治療選択肢に

 「COV-BARRIER試験の追加データから、バリシチニブはCOVID-19の最重症患者の一部における死亡を防ぐことに寄与する可能性があり、進展が続くこのパンデミックで、このようなリスクの高い患者集団に対してバリシチニブが重要な治療選択肢となることがますます明白となりつつあります」と、ヴァンダービルト大学医療センターCIBSセンターの医学教授兼共同ディレクターで、COV-BARRIER試験の治験責任医師であるE. Wesley Ely氏は述べている。

 投与開始から28日時点までの有害事象、重篤な有害事象および重篤な感染症の発現頻度は、バリシチニブ投与群(それぞれ88%、50%および44%)とプラセボ投与群(それぞれ95.9%、71.4%および53.1%)で同程度だった。

 静脈血栓塞栓関連事象は、バリシチニブ投与群の6%、およびプラセボ投与群の6.1%で報告された。新しい安全性シグナルは特定されなかった。

 イーライリリーはこの追加のサブスタディの詳細な結果を査読誌で公表するとともに、数ヵ月内に医学学会で発表する予定。COV-BARRIER試験のサブスタディから得られたこれらの新たなデータは、米国、欧州連合およびその他の地域の規制当局とも共有される。

酸素吸入、非侵襲的または侵襲的人工呼吸管理、もしくはECMOを要する患者に有効

 COV-BARRIER試験のサブスタディは、ベースライン時に侵襲的人工呼吸管理またはECMOを必要とするCOVID-19の入院患者を対象に、副腎皮質ステロイド(全患者の86%)を含む標準療法への上乗せとして、バリシチニブの有効性および安全性をプラセボと比較した無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、2020年12月に開始された。

 計101例の患者がバリシチニブ投与群またはプラセボ投与群に無作為に割付され、51例がバリシチニブ、50例がプラセボの投与を受けた。事前に規定した評価項目は、投与開始から28日時点(および60日時点)の死亡率および人工呼吸管理を行わなかった日数だった。すべての解析は探索的解析として実施され、多重性に対する補正は行われなかった。

 COV-BARRIER試験は、入院患者を対象に、標準療法への上乗せとしてバリシチニブ4mg1日1回投与とプラセボ投与を比較した国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験。患者は、治験開始時に使用していた、各国のガイドラインで定義される標準療法(抗マラリア薬、抗ウイルス薬、副腎皮質ステロイド、および/またはアジスロマイシン)の継続が可能とされた。

 もっとも使用頻度の高かった併用標準療法は、副腎皮質ステロイド(患者の79%、多くはデキサメタゾン)およびレムデシビル(患者の19%)だった。投与開始から28日時点までに高流量酸素を含む非侵襲的人工呼吸管理、または侵襲的人工呼吸管理(ECMOを含む)を受けるまでに進行したか死亡した患者の推定割合の差と定義したCOV-BARRIER試験の複合主要評価項目では統計学的有意差が示されなかったが、人工呼吸管理へ移行または死亡に至る可能性は、バリシチニブを投与した患者群(27.8%)のほうが標準療法を受けた患者群(30.5%)より低い傾向にあった(オッズ比[OR]:0.85、95% CI 0.67~1.08、p値=0.180)。

 事前に規定された主な副次的評価項目では、標準療法にバリシチニブを上乗せ投与した結果、標準療法のみの投与と比較して、投与開始から28日時点までの死亡のリスクが39%と有意に低下した(バリシチニブ投与群62/764例[8.1%]、プラセボ投与群101/761例[13.3%]、[28日時点での推定される死亡の確率の差 -4.9%(95% CI:-8.0%~-1.9%)、ハザード比[HR]=0.56(95% CI:0.41~0.77)]。新しい安全性シグナルは特定されなかった。

オルミエント(バリシチニブ) 添付文書 適正使用ガイド (医薬品医療機器総合機構)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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