高齢糖尿病の新しいエビデンス 身体機能と認知機能に基づく「カテゴリー分類」を日本の臨床データで検証 8つの質問で死亡リスクを予想

2021.06.02
 東京都健康長寿医療センターは、「高齢者糖尿病の血糖管理目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類と死亡リスクの関連を、日本の6年間の縦断研究である「J-EDIT研究」のデータで解析した。
 身体機能と認知機能にもとづくカテゴリー分類は死亡リスクの予測因子になることや、8項目の簡便な質問でカテゴリー分類が可能であることなどが明らかになった。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標の分類と死亡リスクの相関を明らかに

 研究は、東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木厚・副院長、大村卓也・研究所研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、日本老年医学会誌「Geriatrics & Gerontology International」に掲載された。

 日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を公表し、健康状態、年齢、低血糖が危惧される薬剤の有無、併存疾患で患者を3つのカテゴリーに分類し設定している。しかし、分類法に関して日本の縦断研究にもとづくエビデンスはない。

 そこで研究グループは、高齢糖尿病患者の縦断調査で、認知機能、手段的ADL、基本的ADL、併存疾患による種々のカテゴリー分類と死亡リスクとの関連を検討した。

J-EDIT研究で6年間追跡した高齢糖尿病患者843人を解析

 「J-EDIT(Japanese Elderly Intervention Trial)研究」は、全国多施設の高齢糖尿病患者を対象とした、ランダム化比較試験の手法を用いて実施されている介入研究。

 研究グループは、J-EDIT研究で6年間追跡した高齢糖尿病患者843人を対象に解析を行った(年齢71.9±4.7歳,男384人,女459人)。

 認知機能はベースラインのMMSE(カットオフ値27/26-22/21)、手段的ADLは老研式活動能力指標(カットオフ値12/11)、基本的ADLはBarthel Index(カットオフ値19/18)の各質問票を用いて評価し、カテゴリーI~IIIに分類した(モデル1)。

 また、モデル1の分類に加えて、網膜症、腎症、神経障害、虚血心性疾患、脳血管障害、悪性疾患、肝疾患、うつの8個の併存疾患のなかから4個以上を有する場合にはカテゴリーIIIとする分類でも同様に解析を行った(モデル2)。

 さらに、因子分析により老研式活動能力指標とBarthel Indexから抽出した8項目(買い物、食事の支度、預金管理、新聞を読む、友人の訪問、食事、トイレ使用、歩行)からなる「生活機能質問票8」の点数で3つのカテゴリーに分類し、死亡との関連を検討した(モデル3)。

身体機能と認知機能にもとづくカテゴリー分類は死亡リスクの予測因子になる

 6年間の追跡で64人が死亡した。粗死亡率は、カテゴリーIが5.0%、カテゴリーIIが10.2%、カテゴリーIIIが15.6%だった。

 死亡リスクに影響を与え得る因子(年齢、性別、BMI、HbA1c、収縮期血圧、血清脂質、eGFR、重症低血糖頻度)の影響を調整したCox回帰分析により、カテゴリーIに比較して他のカテゴリーは死亡リスクが有意に高いことが明らかになった。

 具体的には、カテゴリーIに対する、カテゴリーIIのハザード比は1.8(95% CI: 1.1~3.1)、IIIは3.1(95% CI: 1.1~8.3)だった(モデル1)。

 併存疾患数を考慮したモデル2でも、カテゴリーが進むにつれてハザード比が上昇した。「生活機能質問票8」を用いたモデル3でも同様の結果を得た。層別解析ではSU薬・インスリンの低血糖をきたす可能性のある薬剤の使用群でとくに、カテゴリーが進むほど死亡リスクが上昇した。

カテゴリー分類と死亡リスク

出典:東京都健康長寿医療センター、2021年

高齢者糖尿病では生活機能の維持が重要

 これらの結果は、認知機能やADLで評価した機能のカテゴリー分類が進むと、年齢、血糖、血圧、脂質のコントロール状態、腎機能、併存疾患数などを考慮しても、死亡のリスクが段階的に増加し、余命が少なくなることを示している。

 これは、現在の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」のカテゴリー分類の考え方を支持するデータだ。

 「患者さんの生活機能(認知機能やADL)、年齢、低血糖が危惧される薬剤の有、併存疾患をふまえることが、個々の患者さんに最適な血糖コントロールを行ううえで極めて重要であることを再認識させてくれました。高齢糖尿病患者の治療では、血糖などの管理を行うこと以上に、"生活機能を維持することが大切である"とも言えます」と、研究者は述べている。

東京都健康長寿医療センター
Functional categories based on cognition and activities of daily living predict all-cause mortality in older adults with diabetes mellitus: the Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial(Geriatrics & Gerontology International 2021年4月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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