睡眠の質の低下は腎機能障害の重要なリスク CKD未発症の糖尿病で睡眠と自律神経障害が影響を及ぼす
睡眠の問題や自律神経機能障害は糖尿病で多くみられる
研究は、兵庫医科大学糖尿病内分泌・免疫内科学の角谷学氏、小山英則主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
慢性腎臓病(CKD)は、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病が原因となるが、とくに糖尿病はそのなかでも極めて重要なリスク因子だ。一方で近年、睡眠時無呼吸や睡眠の質低下などの睡眠関連因子がCKDの進行や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下と関連することが報告され、これに自律神経機能障害が潜在的に関与している可能性が指摘されている。
睡眠の問題や自律神経機能障害は糖尿病で多く認められるが、これらを同時に評価し、CKD未発症の糖尿病の病態で、腎機能に対しそれぞれどのような影響を及ぼすかを統合的に検討した研究は、これまで報告されていなかった。
研究グループは、糖尿病やCKD、メタボリックシンドローム、動脈硬化の発症に、客観的に定量化した睡眠、疲労、自律神経機能などの神経内分泌学的機能がどのように関与するかを明らかにするため、2010年に同大でHSCAA(Hyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis)コホート研究を開始している。2017年には、睡眠の質と甲状腺刺激ホルモンの構造についての研究結果を発表している。
今回は、同コホート研究に登録された患者のうち、CKD未発症の糖尿病患者231人、非糖尿病患者523人の計754人について、睡眠時無呼吸、睡眠の質、および自律神経機能と腎機能との関連を前向きに検討した。
とくに睡眠の質は、CKD未発症の患者での腎機能に対する重要なターゲット因子
カプランマイヤー解析を行った結果、糖尿病患者では睡眠の質低下と自律神経能障害が腎機能低下と関連していることが明らかになった。一方、非糖尿病患者では睡眠の質低下と睡眠時無呼吸が関連していた。
これらの因子の影響を同時に検討したCox比例ハザードモデルでは、糖尿病患者では睡眠の質の低下がアウトカムと依然有意な関連を示し、自律神経機能障害も関連する傾向を示した。一方、非糖尿病患者では睡眠の質の低下のみが有意な関連を示した。
今回の研究成果により、CKD未発症の糖尿病の病態では、睡眠の質の低下と自律神経機能障害は、腎機能悪化の重要なリスク因子であることが示された。とくに睡眠の質は、糖尿病の有無に関わらず、CKD未発症の患者での腎機能に対する重要なターゲット因子だった。
このことは、糖尿病での腎機能の悪化を予防する観点から、ふだんの睡眠の質や自律神経機能にも着目する必要があることを示しており、糖尿病治療を行う臨床現場でも極めて重要な知見になるとしている。
「今後は良好な睡眠の質を維持、もしくは質の改善を目指した介入を行うことで、腎機能の低下の予防に実際に寄与できるか否かの検討が必要です。さらに、睡眠の質の低下がどのような機序で腎機能低下に影響しているのか、糸球体や尿細管といった腎実質に、どのような影響を及ぼしているのかといったメカニズムにせもる基礎的検討も必要となります」と、研究グループは述べている。
研究は、兵庫医科大学糖尿病内分泌・免疫内科学の角谷学氏、小山英則主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
兵庫医科大学病院 糖尿病・内分泌・代謝内科
Sleep quality, autonomic dysfunction and renal function in diabetic patients with pre-CKD phase(Scientific Reports 2021年9月24日)