糖尿病性腎症の腎尿細管RA系を介した新規発症・進展メカニズムを発見 腎保護効果の全容を解明

2022.03.09
 横浜市立大学などは、糖尿病性腎症での腎尿細管RA(レニン-アンジオテンシン)系を介した新しいメカニズム「腎尿細管-糸球体連関での免疫細胞マクロファージの機能スイッチングによる糸球体障害の発症・進展メカニズム」を解明したと発表した。

 糖尿病性腎症に対するRA系阻害の腎保護効果の新たなメカニズムとして、腎尿細管RA系の過剰な活性化が糸球体障害を増悪させるという「腎尿細管-糸球体連関」の存在が示された。

 今後、糸球体だけでなく腎尿細管RA系もターゲットにした治療法の開発が糖尿病性腎症を克服するうえで重要であることが示唆された。

RA系の過度な抑制は副作用を増やす RA系の活性抑制因子ATRAPに着目

 研究は、横浜市立大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の鈴木徹氏、涌井広道准教授、小豆島健護助教、田村功一主任教授らの研究グループが、同研究科免疫学の田村智彦主任教授、黒滝大翼客員准教授、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科の春原浩太郎助教(横浜市立大学客員研究員)、横尾隆主任教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載された。

 糖尿病性腎症は透析導入に至る原因の約半数を占め第1位となっている。透析導入患者だけでなく、維持透析患者でも糖尿病性腎症患者が占める割合が年々大きくなっている。また、糖尿病性腎症による透析患者は慢性腎炎による透析患者よりも予後が悪いとされている。

 糖尿病患者は全身のRA(レニン-アンジオテンシン)系が亢進しており、腎臓の糸球体内圧が上昇することでアルブミン尿が出現し、腎機能障害が進行していく。したがって、とくにアルブミン尿の多い糖尿病性腎症を有する患者では、RA系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬など)を使用することで、糸球体内圧の上昇を抑えて腎保護効果が得られると考えられている。

 一方で、RA系を強力に阻害すること(高用量や2剤以上での使用)は、むしろ腎障害、高カリウム血症、低血圧といった副作用を増加させる可能性があるため、治療上の大きな制約になっている実情があり、RA系阻害による腎保護効果に関するさらなるメカニズム解明は喫緊の課題となっている。

 研究グループはこれまで、RA系受容体結合タンパクであるATRAP/Agtrapの研究を進めてきた。ATRAP/Agtrapは、生活習慣病増悪因子結合受容体(1型アンジオテンシン受容体)に直接結合し、その機能を制御する低分子タンパク。

 ATRAPはアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)に結合することで、RA系の活性化を抑制し、AT1受容体の生理的シグナルには悪影響を与えずに、臓器障害と関連したシグナルのみ選択的に抑制できる可能性を見出してきた。

 今回の研究では、RA系の活性抑制因子であるATRAPに着目し、腎臓の尿細管でのRA系の亢進が、糖尿病性腎症での糸球体障害にどのような影響を与えるか(腎尿細管-糸球体連関)、そのメカニズムも含めて検討した。

糖尿病性腎症での新しいメカニズム
「腎尿細管-糸球体連関」での免疫マクロファージのスイッチングが関与

出典:横浜市立大学、2022年

腎尿細管RA系の過剰な活性化が糸球体障害を増悪

 まず、野生型マウスにストレプトゾトシンを投与し高血糖が持続する状態(1型糖尿病)にした。すると、腎尿細管のATRAP発現が減少するとともに腎RA系が活性化することが確認された。

 次に、野生型マウスと全身のATRAPを欠損させたマウス(ATRAP全身性欠損マウス)に同様の手法を用いて糖尿病を起こし、腎臓の変化を観察した。その結果、糖尿病ATRAP全身性欠損マウスでは、血圧や血糖値などは糖尿病野生型マウスと同等だったが、尿細管RA系の活性はより亢進しており、糖尿病性腎症の糸球体障害(アルブミン尿、糸球体腫大、足細胞の脱落など)の増悪とともに、腎尿細管間質でのM2マクロファージ(抗炎症作用などを有する善玉免疫細胞)の減少を認めた。

 この現象は、尿細管特異的にATRAPを欠損させたマウスでも観察された。そこで、マウスの骨髄から抽出して培養したM2マクロファージを糖尿病ATRAP全身性欠損マウスに投与したところ、野生型糖尿病マウスと同程度まで糖尿病性腎症の糸球体障害が改善した。

 そのメカニズムとして、腎尿細管RA系が尿細管間質の免疫マクロファージの機能スイッチングを介して、二次的に腎糸球体障害に影響を与える「腎尿細管-糸球体連関」が存在することが明らかになった。

腎尿細管に着目したATRAP活性化療法が糖尿病性腎症の新規治療戦略に

 今回の研究で、糖尿病性腎症に対するRA系阻害の腎保護効果の新たなメカニズムとして、腎尿細管RA系の過剰な活性化が糸球体障害を増悪させるという「腎尿細管-糸球体連関」の存在が示された。

 腎尿細管RA系が腎尿細管間質での「免疫マクロファージのスイッチング」を介して糸球体障害の進展に関与するメカニズムは、今回はじめて明らかになったことだ。

 また、今回の結果は、腎尿細管RA系が糖尿病性腎症の進行に深く関わっていることを示しており、今後、糸球体だけでなく腎尿細管RA系もターゲットにした治療法の開発が糖尿病性腎症を克服するうえで重要であることを示唆している。

 「糖尿病性腎症において既存薬によるRA系の過度な抑制は、むしろ副作用が増えることが報告されています。RA系の生理的シグナルには悪影響を与えずに、臓器障害と関連したシグナルのみ選択的に抑制できるATRAPは、より効率的で安全な治療法となる可能性があり、腎尿細管に着目したATRAP活性化療法は糖尿病性腎症の新規治療戦略として期待されます」と、研究グループでは述べている。

横浜市立大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学
Deficiency of the kidney tubular angiotensin II type1 receptor-binding molecule ATRAP exacerbates streptozotocin-induced diabetic glomerular injury via reducing protective macrophage polarisation (Kidney International 2022年2月28日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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