【イベントレポート】エムベクタ合同会社がキャリア教育支援イベント「Discover yourself 2024」を開催
開催は、新しい働き方を提供するフレキシブルオフィスのリーディングカンパニーであるWeWorkで行われ、WeWorkに入居する旅行、IT、コンサルティング業をはじめとする多くの企業が参加。オフィスツアーのほか、おやつタイムや振り返りの時間などを通して多くの交流が行われ、喜びの声にあふれる明るいイベントとなった。
提供:エムベクタ合同会社
病気にとらわれず、多種多様な働き方を知る機会に
エムベクタは、世界で最も大きな、糖尿病に特化した企業のひとつであり、前身であるBD社での世界初のインスリン専用シリンジ製造から数えて今年で100周年となる。年間3000万人以上の人々にインスリン用注射器材を提供している同社は、昨年より、1型糖尿病をもつ方々のライフステージに応じたサポートの一環として、キャリア教育支援のイベント「Discover yourself」を実施。今年は100周年を記念し、東京に加え大阪・福岡にも開催地を増やして開催された。本記事では、このうち東京会場の様子をレポートする。
<<冒頭、池田 哲 社長の挨拶(抜粋)>>
「当社は、糖尿病と共に生きる方々が必要とされるインスリン注射に使われる注射針や、注射器を製造している会社です。会社のビジョンとして、糖尿病に制約されない生活、人生を実現することをあげています。皆さんがこれから就職されるにあたり、今回のイベントを、なるべく制約のない生活を送るためにいろいろな選択肢があることを知り、その中からベストな選択をするための学びの機会にしていただきたいと思っています。
今日は、様々な業界、会社、職種があることはもちろん、どのような方々が、どのような思いをもって仕事をされているかも、よく聞いていただきたいと思います。私は過去30年の間に8社、いろいろな会社に勤めてきておりますが、自分の過去を振り返ってみても、どのような人たちと一緒に仕事をするかは、働くうえで大変重要なファクターです。このイベントを、どのようなところが自分に一番フィットするのか、ワクワクするのかを考えるきっかけにしていただけたら幸いです。今日一日が、皆さんにとって実りの多い一日になることを願っております」。
オフィスツアーで、様々な会社の空気と働き方を知る
続いて各参加企業の会社紹介が行われた後、開催場所である日比谷フォートタワーWeWork内の企業(全14社)を回るオフィスツアーが開催された。なお、参加企業の担当者は事前に1型糖尿病についての説明を受けており、見学の際の緊急時対応や、就労のイメージを具体的にもてるよう準備していた。
【参加企業】
- エムベクタ合同会社/WWJ株式会社 /株式会社AISTSolutions
- 株式会社グッドニュース/NPO法人クリッパー/Klook TravelTechnology合同会社
- ジーワン株式会社/タイ国際航空/株式会社ダイレクトソーシング
- ピープルソフトウェア株式会社/株式会社Box Japan/クロックス・ジャパン合同会社
- 株式会社ナシオ/株式会社WONDERVOGEL
参加者は少人数のグループに分かれてガイドが付き添い、参加企業のうち5社を順に訪問。訪問時間は各20分。会社や仕事の具体的な説明を受けるほか、一緒にゲームをしたり、社員の経験談を交えたトークがあるなど、楽しさと学びが凝縮した時間となった。
今イベントの主催者であるエムベクタ合同会社への訪問では、サプライチェーンマネージャーから入社に至るまでのキャリア、現在の職務についてや、やりがいに感じていることなどがユーモアたっぷりに熱く語られ、大きな笑いが起こる場面も。
世界で10億人、日本では400万人以上が利用する(2024年9月時点)アメリカ発のSNS「LinkedIn(リンクトイン)」を活用した採用ソリューションを提供している株式会社ダイレクトソーシングでは、参加者が実際にLinkedInに触れ、どのようなものかを体感。
会社で社員が実際に使っているデスクの席に座り、ひとりひとり社員のサポートを受けながらログインして、就職活動にSNSを使用するという新たな体験を味わった。
企業の社員も交ざって参加者同士が楽しくボードゲームをしたのは、専門職特化の就活アプリを開発・運営する株式会社グッドニュース。
「衣・食・住」専門学校コンソーシアムOSAKAが開発したSDGsと専門職を学べるボードゲーム『SDGsタウン物語』を用いて、社会課題を解決する体験を楽しみながら、専門職の理解を深めてもらう試みだ。一度ゲームを始めるとこれがなかなか面白く、あっという間に時間が過ぎてしまった。
アメリカ生まれの人気シューズ『クロックス』のメーカーであるクロックス・ジャパン合同会社では、実際にその職に就いている社員がマーケティングの職種についてや、フレックスタイム、サマーフライデー制度といった働き方をレクチャー。
終わりに、それぞれが好みのクロックスと、クロックスに取り付ける飾り『ジビッツチャーム』を自由に選び、参加者全員にサプライズプレゼントとして贈られた。
「管理栄養士」「YouTuber」の職を選んだ先輩2人の体験談
オフィスツアー後は休憩をはさみ、1型糖尿病をもつ社会人の先輩2人が、就活体験を紹介。管理栄養士として病院に勤務している大場美都希(みつき)さんと、個人事業主でありYouTuberとして活躍中の本間太希(たいき)さんが登壇した。
“1型糖尿病が強みになる場所は、必ずある”
~東北労災病院 管理栄養士 大場美都希さんのお話(要約)~
中学2年生のときに1型糖尿病を発症し、入院中に管理栄養士と話をするなかで、管理栄養士の職に魅力を感じて自分も同じ職を目指したいと思うようになった。
管理栄養士になるにはいろいろな道があるが、卒業と同時に管理栄養士の国家資格を受けられる権利をもらえる大学に行くのが最短と考え、その道を選択。いざ就職活動となると思っていたより大変で、出身地である東北の病院で働く希望をしていたが、新卒の管理栄養士は募集が少なく、病院に電話をかけて募集を確認するなどしていた。
面接では1型糖尿病を生かす自己PRを考え、患者の立場に立って物事を考えられることをアピール。その結果、最終的に山形の病院で就職が叶った。その後、転勤や転職を経て、今は宮城県の東北労災病院で勤務している。
1型糖尿病であることを面接で言うか言わないかは、個人の自由。自分の場合は、管理栄養士になるきっかけを伝えるために病気の話は欠かせないこと、通院でお休みが必要になること、そして患者側の立場に立てることはメリットだと思ったため、履歴書の段階から伝えていた。糖尿病であることを伝えて不採用だった病院もあるが、1型糖尿病は強みになることもある。例えば、サマーキャンプに参加して学んだ経験、患者さんの立場に立てること、日々、血糖コントロールをしているため自己管理ができる点などは強みだ。
今、実際に病院で働いていて、1型糖尿病の患者に自分もそうであることを伝えると、同じ病気をもつ自分を指名するような形で病院に来てくれる人も。1型糖尿病のつながりで信頼関係を築けていることに、非常にやりがいを感じている。
“病気のための情報発信が、いつの間にか仕事に”
~YouTuber 本間太希さんのお話(要約)~
2年前、25歳で1型糖尿病を発症。当初は絶望して鬱状態になり、仕事もやめてしまったが、3カ月後にYouTuberになろうと思い立ち、その翌年に自転車で日本一周の旅に出た。
医師から1型糖尿病の説明を受けた際は、ショックが大きくて言葉が出ず、涙が出た。仕事をやめ、家に引きこもっていたある日、自転車に乗ろうと強引に誘ってくれた先輩の導きで自転車に乗ってみると、心が晴れやかになった。
しかし病気が大変であることは変わらないため、ほかのみんなはどのように生活しているのかとSNSを見ると、楽しそうにビールやラーメンと写っている人たちがいて、“自分だけじゃないんだ”“制限しなくていいんだ”と救われた気持ちになった。そこから自分の経験も誰かの役に立つのではないかと考え、SNSでの発信を開始。
TikTokでバズるようになると、『病気は自業自得』といったコメントも多く届くようになり、糖尿病への偏見にぶち当たった。一方で、1型糖尿病をもつ小学生の男の子の母親から『注射を嫌がっていた息子が、動画を見て“僕も頑張る”と言って注射をするようになってくれた』いうコメントが届くなど、糖尿病をきっかけに多くの人の勇気や優しさに触れるようになるなかで、“この病気で苦しんでいる人のために第二の人生を生きよう”と思うように。
そして糖尿病の偏見をなくすための活動として、自転車で日本一周することを決意。旅の途中、救急車で運ばれるようなこともあったが、行く先々で出会った1型糖尿病をもつ方やご家族をはじめ、多くの人々との交流に背中を押され、昨年11月に日本一周を達成。
気づけば、講演や企業からの依頼も来るようになっており、“同じ病気をもつ人のために”と行ってきたことが、いつの間にか仕事になっていた。
この旅で450人以上の方と関わり、手紙もたくさんいただいたなかで、糖尿病に関わる様々な問題を認識。例えば、地方と都心ではかなりの医療格差、情報格差がある。今後はこうした問題を解決できるよう、糖尿病がない人たちへのリーチも含め、自分が糖尿病の情報の新しい入り口になることを考えてキャリア形成をしていきたい。
このイベントを新しい“気づき”のきっかけに
体験談の後は、今日の感想を参加者全員が一言ずつ発表する、振り返りの時間。以下のような気づきと喜びにあふれるコメントが述べられた。
●「製薬会社や医療機器メーカーに興味がありましたが、今回、クロックスさんなど、ほかの業種の会社も見ることができて視野が広がりました。私も病気を強みに就職活動を頑張ろうと思いました」
●「私は6歳で発症し、病気に振り回されて人とのつながりを避けるようになっていましたが、今日、病気に関係なく人とつながりをもてるとわかり感動しました。今後は人とつながることを喜んで大切にしていきたいです」
●「大学4年生です。就活前の今年1月に発症して悲しかったです。就職はまだ決まっていませんが、多様な選択肢、働き方があるとわかり、不安はあるけれど勇気をいただきました。自分のペースで頑張っていきたいです」
●「娘が1型糖尿病で、これまで大変なことがいろいろありましたが、就活がいちばん気がかりでした。でも今回参加して、大丈夫なんだと思えて有難かったです」
●「以前、アルバイトの面接で1型糖尿病であることを事前に言って落とされたことがありました。そのため、言わずに就活したいと思っていましたが、そのように決めつけずに前向きにやっていこうと思いました」
●「娘の就職がどうなるのかと心配で、本人を連れて参加しました。1型糖尿病をもつ知り合いが全くいなかったので、今回コアなお話もたくさん聞けて幸せな時間でした」
参加者からは口々に前向きな発言が聞かれ、満足感の高いイベントとなった様子。
エムベクタが今企画を行うのは、昨年に続き2回目。第1回よりイベントを主導している同社の川口 宙(ひろし)氏は、今回のイベントがつなぐ未来に期待を込めて、以下のように締めくくった。
「皆さんが今日この場に来て、新しい働き方や、『もっと外に出たい』『もっといろいろな人に出会ってみたい』と思うような多くの気づきがあったことが、本当に嬉しく思います。皆さんが今日半日で気づいたことは、ささいなきっかけでしかないと思っています。これから家に帰ってご家族と話し合いをしたり、お友達を見つけて外に出て行ったりと、今日をきっかけに、これから次から次へと新しいことを見つけることができるはずです。今日、各社を回ったときに、いろいろな大人の人がいたかと思いますが、大人はそんなに怖くないんだな、面白い大人もたくさんいるんだな、ということに気づかれたのではないでしょうか。ぜひ怖がらずに、これからどんどん近くにいる大人をつかまえて、話を聞いてみてください。来年以降もまたこのようなイベントを企画して、協力していただける企業の方々と一緒に、継続して運営していきたいと思っています」。
エムベクタが本イベントを運営するにあたり、第1回目より企画プロデュースに携わっているのが、元エアロビック競技日本代表で、自らも1型糖尿患者である大村詠一さん。企画の成り立ちや今後の期待について、次のように語ってくれた。
「1型糖尿病の患者さんに必要なものは何か、悩みは何かを川口さんと一緒に考えていたときに、就職活動に不安がある人が多いのではないか、という意見が出ました。実際、就活の際に企業に病気のことを言うか言わないか悩んでいる子たちはたくさんいます。それであれば、まずは、ウェルカムな雰囲気のある企業がいろいろあることを知ってもらい、企業の皆さんにも、1型糖尿病をもつ方の声を聞いていただき、休憩時間なども含めて、注射や補食といった患者さんの日常も垣間見てもらいたいという話になり、このようなキャリア支援のイベントが実現しました。
同じ病気をもつ先輩たちが体験を語る時間では、1型糖尿病だからだめだ、ではなく、1型糖尿病だから採用されたという経験を伝えることで、皆さんを勇気づけられると考えました。今日は多種多様な考え方が聞けて、参加者が思うところが大きい、明るくよいイベントになったのではないでしょうか。登壇者だけでなく、最後の振り返りで、同世代の参加者の皆さんの声を聞くことでも気づきを得られ、これまで不安で前に進めないでいた方にとっては、変われるきっかけになったかなと思います。
1型糖尿病の患者さんの中には、悩みを相談できないことで苦しんでいる方も多いです。この記事を読んでくださっている医療従事者の皆さまには、普段から患者さんとの雑談の中で困りごとを聞ける関係性を作っていただき、診療時に『今後やってみたいことは?』というような会話が気軽になされると嬉しいですね。就職活動に悩む患者さんや保護者の方に、このようなイベントがあるということをぜひお伝えいただければと思います。今後はこの盛り上がりを都市部だけでなく、全国に届けたいと考えています」。
《当日のプログラム》
- 11:00 開場
- 12:00 開会の挨拶、参加企業による会社紹介
- 13:00 オフィスツアー(休憩・昼食含む)
- 15:00 1型糖尿病をもつ先輩の就職活動・就業体験
- 16:00 振り返り&気づきの発表
- 17:00 閉会の挨拶、閉会