高齢者糖尿病のアルツハイマー病・認知症リスクを低下 HbA1cが目標範囲内におさまった時間を管理目標に 37万人超を調査

2024.08.08
 高齢者糖尿病では、HbA1cを長期にわたり個別の目標範囲内に安定的に維持することが、認知症のリスクを低下するために有用であることが、糖尿病のある高齢退役軍人37万4,021人を対象としたコホート研究により示された。

 HbA1cの安定性が高く、目標範囲内におさまった時間(HbA1c TIR)が長いほど、アルツハイマー病・関連認知症(ADRD)のリスクが低いことが明らかになった。

 「研究結果は、年齢、平均余命、合併症にもとづき、個別にHbA1cの目標範囲を適用することのベネフィットを裏付けるものだ。臨床医は、高齢者糖尿病のADRDリスクを軽減するために、患者と協力してHbA1cを安定的に良好に維持する必要がある」と、研究者は述べている。

HbA1cが目標範囲内におさまった時間(HbA1c TIR)に着目

 高齢者糖尿病では、HbA1cを長期にわたり個別の目標範囲内に安定的に維持することが、認知症のリスクを低下するために有用であることが、糖尿病のある高齢退役軍人37万4,021人を対象としたコホート研究により示された。

 HbA1cが目標範囲内におさまった時間(HbA1c TIR)により、アルツハイマー病・関連認知症(ADRD)のリスクが高い患者を特定できる可能性があるとしている。

 さらに、HbA1cが範囲外のある場合、個別のHbA1c目標範囲を下回っている時間が長いほど、低血糖に関連する薬剤を処方されていない患者でもADRDのリスクは高くなった。

 研究は、ボストン退役軍人ヘルスケアシステム、ボストン大学医学部、ハーバード大学医学部のPaul R. Conlin氏らによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載された。

 糖尿病患者は、一般的にADRDの発症リスクが高く、低血糖、高血糖、血糖変動などの要因は、ADRDリスクの増加と関連している。一方で、HbA1cなどの従来の血糖測定だけでは、糖尿病とADRDに関連する動的で複雑な病態生理学的な要因を特定できない可能性があるとしている。

 「HbA1cが目標範囲内におさまった時間(HbA1c TIR)は、特定の範囲内でのHbA1cの経時的安定性をあらわす指標となり、経時的な血糖値とADRD発症率の関連性についての理解に役立つ可能性がある」と、研究者は述べている。

HbA1cが範囲外にある管理不良は認知症の発症と関連
「HbA1c TIR」が60%以上だと認知症リスクは低下

 研究グループは今回の研究で、退役軍人保健局とメディケアの行政・医療データベースから取得した、糖尿病のある65歳以上の高齢者37万4,021人の2004年1月~2018年12月のデータを評価した。対象者は、2005年1月~2014年12月の3年間に少なくとも4回のHbA1c検査を受けていた。データ分析は2023年7月~12月に実施された。

 対象者の平均(SD)年齢は73.2(5.8)歳、男性が99%で、最長10年間の追跡期間中に、11%(4万1,424人)がADRDを発症した。

 解析した結果、調整済みCox比例ハザード回帰モデルでは、HbA1c TIRの低下はADRD発症リスクの上昇と関連していることが示された。HbA1c TIRが80%以上の群と比較すると、0~20%未満の群では高いリスクが示された[HR 1.59、95%CI 1.54~1.64、P <.001]。すべての共変量を調整したCox比例ハザード回帰モデルでも、HbA1c TIRは依然としてADRDリスクと有意に関連していた[HR 1.19、95%CI 1.16~1.23]。

 さらに、HbA1cが範囲外にある管理不良はADRDの発症と関連していた。範囲外時間が長い場合は、60%以上と60%未満のそれぞれの群を比較すると、リスクの有意な上昇と関連していた[ハザード比 1.48、95%CI 1.45~1.52]。すべての共変量を調整した後も、HbA1cの範囲外時間が60%以上と長い場合は、依然としてADRDリスクと有意に関連していた[ハザード比 1.23、95%CI 1.19~1.27]。

 低血糖リスクに関連する薬剤(インスリンおよびスルホニル尿素薬)をベースラインで使用していた患者、あるいは低血糖イベントを経験した患者を除外した後でも、結果は有意なままだった。

高齢者糖尿病ではHbA1cを個別の目標範囲内に長期間維持することが認知症リスク低下と関連

 「糖尿病の臨床ガイドラインでは、高齢者の血糖管理の目標を、平均余命、現在の併存疾患、および細小血管合併症にもとづいて個別に設定することが推奨されている。臨床医は、低血糖のリスクを減らすためにHbA1c目標を厳しく設定しないで、同時に急性高血糖や慢性糖尿病合併症(細小血管合併症や死亡)のリスクを減らすために、HbA1cの上限を適用することで、糖尿病の高齢者のリスクとベネフィットのバランスをとるよう努めている」と、研究者は述べている。

 「時間の経過にともなう血糖変動が認知症の発症にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目指した研究では、相反する結果が示されている。いくつかの研究では、血糖管理の指標と認知症の発症率との間にU字型の相関関係があることが示されており、極端な低血糖や高血糖が糖尿病患者の認知機能障害や認知症の一因となっていることが示唆されている」。

 「そこで我々は、糖尿病合併症および死亡のリスクと関連付け、長期の血糖管理の指標となるHbA1c範囲内時間(HbA1c TIR)を開発した。このHbA1c TIRは、3年間のうちHbA1cが個別の臨床ガイドラインで指示された目標値内におさまっている時間の割合を示す。HbA1c TIRは高いほど望ましく、これにより長期にわたる血糖値と認知症の発症率の動的な関連性をより適切に測定できる可能性がある。今回の研究では、糖尿病のある大規模な全国規模の高齢退役軍人集団でのHbA1c TIR とADRDの関連性を評価した」としている。

 なお今回の研究の限界としては、対象集団は主に高齢男性であり一般化しにくいことや、観察研究であり、電子医療記録では入手できない未測定の変数(健康の社会的な決定要因、食料不安、糖尿病セルフケア行動、APOE4遺伝子型など)の影響がある可能性を指摘している。

Glycated hemoglobin A1c time in range and dementia in older adults with diabetes (JAMA Network Open 2024年8月2日)
Glycated Hemoglobin A1c Time in Range and Dementia in Older Adults With Diabetes (JAMA Network Open 2024年8月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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