腎機能の改善に心不全リスクを減少させる効果が 腎機能マーカーは経年的に一定で推移 大阪大学

2023.08.10
 短い間隔の測定では変動が大きいとされる腎機能マーカーは、実は経年的にはほぼ一定で推移していることや、すべての腎機能マーカーで心不全発症と非常にクリアな関連がみられることが、大阪大学などの研究で明らかになった。

 腎機能マーカーの継続的な改善は、心不全発症リスクを減少させる効果があることが示唆された。研究は、欧州の約7,000人の11年間におよぶ腎機能マーカーの推移と心不全入院に関するデータを分析したもの。

腎機能マーカーの継続的な改善に心不全の発症リスク減少の効果が

 これまで腎機能と心臓病の関係性(心腎連関)が提唱されてきたが、心不全については研究間で結果が異なり、さらには「心不全になるから腎機能が悪くなるのか」、逆に「腎機能が悪くなるから心不全になるのか」といった、時系列的な関連についてはよく分かっていない。

 また、腎機能マーカーの評価は難しく、同じ測定方法でも天候・時間などによっても大きく値が変動するため、実臨床レベルでの正確な利用は手間やコストパフォーマンスの観点から活用が困難とされてきた。

 そこで大阪大学などの研究グループは、欧州人約7,000人の11年間の腎機能マーカーの変動を調査・最新の分析技術を応用し、変動パターンの特定に成功した。さらに、パターン別の心不全発症リスクとの評価を行い、これらの問いに対するアプローチを実施した。

 その結果、腎機能マーカーは11年間でほぼすべてのパターンで一定に推移しており、このことから、短い間隔の測定では変動が大きいとされる腎機能マーカーは、実は経年的にはほぼ一定で推移していることが示唆された。

尿中アルブミン(左)と血清クレアチニンの経年的な推移(右)
腎機能マーカーは11年間でほぼすべてのパターンで一定に推移した

出典:大阪大学、2023年

 また、心不全との関連について、同じデータを用いた単年での腎機能マーカーでは、“新規の心不全発症とは統計学な関連はなし“とされていたが、今回の研究では、すべての腎機能マーカーで心不全発症と非常にクリアな関連が認められた。

 また、サンプルサイズの問題により、統計的な有意差は認められなかったものの、腎機能マーカーの継続的な改善には心不全の発症リスク減少の効果があることが示唆された。

腎機能マーカー推移サブタイプ別にみる新規心不全発症率
すべての腎機能マーカーで心不全発症とクリアな関連が認められた
腎機能マーカーの継続的な改善に心不全の発症リスクの減少効果がある可能性

出典:大阪大学、2023年

 研究は、大阪大学大学院医学系研究科の坂庭嶺人特任助教(公衆衛生学)、オランダのグローニンゲン大学循環器教室、同大学メディカルセンターらの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「European Journal of Heart Failure」にオンライン掲載された。

 「今回は、オランダの研究機関主体の国際共同研究のため、欧州人のみの分析となったが、この結果は日本人にも同様に適応できる結果であると考えられる」と、坂庭氏は述べている。

 「研究成果は、世界的な課題である心不全予防対策の有益な科学的エビデンスとなるだけでなく、日本国内での特定健診や健康診断など、経年的な推移を利用したバイオマーカーの活用、評価により、より正確に病気を予測できる可能性を示唆している」としている。

腎機能マーカーを利用した将来の心不全予測に対する懸念・疑問を解消する結果に

 研究グループは今回、「PREVEND (Prevention of Renal and Vascular End-Stage Disease) 研究」で、過去に心不全発症のない欧州人約7,000人の11年間のコホート研究を実施し、腎機能マーカー(尿中アルブミン・血清クレアチニン)の変動と、新規の心不全発症との関連を調査し、最新の分析技術を応用し評価した。

 その結果、腎機能マーカーの変動パターンは統計学的に、数種類のサブタイプに分類できることが明らかになった。短い間隔での腎機能マーカーは大きく変動するとされてきたが、11年間の経年的な変化ではどちらの腎機能マーカーでも、ほぼすべてのパターンで一定に推移していることが分かった。

 新規の心不全発症との関連については、同じデータを用いて単年評価の腎機能と心不全発症を評価した先行研究(Eur Heart J 2014)では、“関連なし“とされていたが、今回の研究では高く維持されている腎機能マーカーほど心不全発症リスクが高く、非常にクリアな関連が認められた。

 また、サンプルサイズの問題により統計的な有意差は認められなかったものの、すでに微量アルブミン尿などの腎臓がある程度低下している患者でも、腎機能マーカーの継続的な改善により、心不全発症リスクを約半減させることが示唆された(尿中アルブミン:Class 5 vs Class 6)。

 「心不全の予防は世界的な課題であり、今回の研究はその対策の有益な科学的エビデンスとなる。とくに、短い間隔での評価では変動が大きいとされていた腎機能マーカーは、長期的にはほぼ一定の推移を示しており、それらと心不全発症の密接な関係性を示した今回の研究は、腎機能マーカーを利用した将来の心不全予測に対する懸念・疑問を解消する結果となった」と、研究者は述べている。

 「また、日本国内においても特定健診や社内の健康診断など、経年的な健康情報のサンプリングは実施されているものの、有益な活用例はまだ少なく、これらを利用することにより、より正確に病気を予測できる可能性が示唆された」としている。

大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 公衆衛生学
Trajectories of renal biomarkers and new-onset heart failure in the general population: Findings from the PREVEND study (European Journal of Heart Failure 2023年6月7日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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